ミックス・プログラム《Aプログラム》
(新国立劇場バレエ団)

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02年3月16日(土),17日(日)

新国立劇場(中劇場)

 

レ・シルフィード

振付: ミハイル・フォーキン  演出: メール・パーク

音楽: フレデリック・ショパン ピアノ:多美智子

舞台美術: ヴェチェスラフ・オークネフ

ノクターン: (詩人)マクシム・ベロツェルコフスキー  (シルフィード)アマンダ・マッケロー, 柴田有紀, 中村美佳

ワルツ: 柴田有紀

マズルカ: 中村美佳

プレリュード: アマンダ・マッケロー

ワルツ: アマンダ・マッケロー, マクシム・ベロツェルコフスキー

コール・ド・バレエ(ソリスト): 楠元郁子, 鶴谷美穂

3年ぶりの再演。
初演のとき見逃したので,楽しみにしていたのですが・・・ううむ・・・よくなかったですねえ・・・。

コール・ドがきれいでなくて,悲しかったです。ていねいに踊っているとは思うのですが,森の中の妖精らしい雰囲気は感じられませんでした。
最初のほうと最後近くに,両腕を斜め下に開いてポーズを取る場面がありますが,腕,肩,胸の角度(上半身の構え?)が人によって違っていて,とてもショック・・・。「メソッドが違う」ってよく言いますよね,そういう感じを受けました。新国立は,当然ながら,同じ学校(教室)出身者によるバレエ団ではありませんが,最近はこういうところがきちんと揃っていて,見る度に喜んでいたのですが・・・とほほ。
あとですね・・・シルフィード・ヘア(?)って,日本人に似合わないような気が・・・。いや,でも,去年の「眠り」のように踊りの立派さが衣装や鬘の不都合を乗り越えた例もあるから,やっぱり,踊り自体に問題があったのでしょうねえ。

マッケローさんは,「私はゲストよ」的目立ち方で全体の雰囲気を壊すこともなく,体格的にも回りになじんで違和感がありませんし,フェミニンな情緒の感じられる踊りでしたが・・・人間であって,妖精ではなかったと思うなあ。
舞台の上で妖精だったのは,中村さん1人だったと思います。彼女は,軽やかで,愛らしくて,お茶目な雰囲気も感じられて,風に漂う桜の花弁のよう。おお,シルフィードは「風の精」だったわね♪
柴田さんは・・・ううむ・・・跳ぶ度に大きな音がしますし,上半身の柔らかさもなくて,(ごめんなさいね)興ざめ。

ベロツェルコフスキーさんはですね・・・「詩人」らしく柔らかく抑制の効いた踊りで,さすがはロシアバレエ出身だわー,と喜んでいたのですが・・・最後に元気よく大きく跳んでABTらしさを発揮,それまでの自分の努力を水の泡に・・・(笑)。まあ,この辺は好みでしょうけれど。
容姿はまずまず結構でしたが,あの衣装は,ロシア人(ウクライナ人?)が着てもプロポーションを悪く見せるようですねえ。

全体として,この日の3演目の中では一番魅力がない上演で,当初予定の西山さんが(おそらく振付指導の方の希望で「ドゥエンデ」に出演することになった関係から)踊らなかったことといい,コール・ドがいつになく「?」だったことといい,4公演で5演目,しかも新制作3本の中で,この作品は少々ないがしろにされたのではあるまいか,などと思ってしまいました。(まあ,それだけ後の2作品がよかったとも言えますが・・・)

そうそう,セットの森の色に深みがあって,美しかったです。

 

四つの最後の歌

振付・演出: ルディ・ヴァン・ダンツィヒ  振付指導: ソニア・マルチオーリ

音楽: リヒャルト・シュトラウス

舞台美術・衣裳・照明デザイン: トゥール・ヴァン・シャイク

第1の歌: 高山優, 山本隆之

第2の歌: 湯川麻美子, 逸見智彦

第3の歌: 志賀三佐枝, イルギス・ガリムーリン

第4の歌: 西川貴子, 森田健太郎

天使/死: 小嶋直也

新国立初演(日本初演)。
プログラムの解説によると,「この作品は人生の片々に垣間見える“死”がテーマである。幸せのはじけるような青春時代から,心静かな成熟の時代まで,人生の様々な段階における4組のカップルが登場する。どのカップルも,いつの日か終わりの時が訪れることに気づく。」ということでした。

とてもよかったです♪ うっとりしました〜。

小嶋さんが,とてもすてきでした。
「人生の中に見え隠れする死」の役回りで,4組のカップルすべての場面に絡むのですが,彼の表現は,安らぎとしての優しい死でもなければ,不吉な死の使いでもない・・・うーん,なんて言えばいいのかしら・・・「常にそこに在る者」・・・?
身体と動きのピュアでクリアーな美しさと存在感があいまって,「天使/死」という抽象的・象徴的な存在の,見事な表現になっていました。
腕と手の表情が雄弁で,肘から先が袖から出た腕が美しく,この方ってこんなに腕が長くて手が大きかったかしらん,と思ったほど。特に,腕を広げて上体を反らす動きの美しさは・・・はい,もう,気持ちよく悩殺していただきました。

彼って,ほんとにきれいだわ〜♪♪♪ 

4組のカップルの中では,第1の歌「春」を踊った高山さんと山本さんが感動的。難しそうなリフトも流れるようですし,若々しい情感が見事♪ 終盤,女性がふと何かに恐れを抱いて恋人を求めるところの高山さんの音楽的な表現がとても印象的ですし,それを受け止める山本さんの脳天気(←誉め言葉です!)も,非常によかったです。

あとの3組のカップルは,男性3人が前の週に牧『ドンキ』を抱えていて高山/山本組ほどリハーサルができなかったのでしょうか,パートナーシップは「春」に及ばなかったように思いますが,それぞれの音楽が表す場面にふさわしいキャストだったと思いますし,特に女性は,皆雰囲気があって,とてもすてきでした。

空を描いた背景幕だけのセットも印象的でしたし,会員誌で写真を見て少々心配していた衣装も(基本コンセプトは同じでも,スタイルを現代感覚で変えたのかな?)女性はよかったし,男性も大丈夫でした。(小嶋さんと逸見さんはお似合い♪)

 

ドゥエンデ

振付: ナチョ・ドゥアト  演出: トニー・ファーブル/キム・マッカーシー

音楽: クロード・ドビュッシー

舞台美術: ウォルター・ノブ
衣裳: スーザン・ユンガー
照明デザイン: ニコラス・フィシュテル

パ・ド・トロワ: 酒井はな, 高山優, イルギス・ガリムーリン

パ・ド・ドゥ:  高橋有里, 吉本泰久

パ・ド・トロワ: 山本隆之, 白石貴之, 奥田慎也

パ・ド・シス: 西山裕子, 遠藤睦子, 湯川麻美子, イルギス・ガリムーリン, 吉本泰久, 陳秀介

新国立初演(日本初演)

プログラムを参照して考えるに,東南アジアの深い森の中の雰囲気なのでしょうか,暗い照明と背景幕の上手側半分に深緑のグリーンの更紗模様(?)を映しただけのセットで踊られました。
女性は短いスカートつきのレオタード。(←よくないと思いました。似合っていたのは,高橋さんと湯川さんだけだったもの。)男性は,タイツのみ。色調は,濃緑〜黒系。

実は,初日に始まったときは,あらら,私はコレはダメかも,と思ってしまったのでした。
私,短いスカートの女性ダンサーが開脚して腰を落とす振付って苦手なんですよ(レオタードやロングスカートならいいけれど)。ドビュッシーの音楽も,盛り上がりに欠けるからあまり好きではないし。あと,ガリムーリンさんのコンテンポラリー・ア・ラ・ロシアンクラシカルもよくなかったのかも。(茶化してすみません・・・でも,そういう踊りだったと思う)
でも,パ・ド・ドゥ辺りから「お,やっぱり面白い」と思って,男性3人のパ・ド・トロワは「かっこいい!」,終曲は「さすがドゥアトだわ〜」。

うん,たいへん面白かったです。動きに独自性があって,音楽的で,しゃれている(軽さというかユーモアというか)。ただ,各曲の最後の,ことさらアクロバティックな動きには,やっぱり違和感が残るなー。
うーん,しかしドビュッシーにこういう振付をするとは・・・ドゥアトという方は,天才かもしれん。

上演はたいへん見事でした。ダンサーたちにブラヴォーを!!
特に目を引かれたのは,吉本さんの「踊る歓び」。ほんとに楽しそうで,こちらも嬉しくなる感じ。
それから,男性3人のパ・ド・トロワもお見事。特に,山本さんはかっこいい♪ 見せ方がうまいと言えばいいのかな?(この方は,王子より新しい作品のほうがいいのかしらね?)
終曲は,最初はパ・ド・シスですが,後半は出演者全員での踊りになります。舞台から出たり入ったり,男女別に踊ったり,二人ずつ組んで踊ったり。中で短い男女二人だけのデュエットがあり,あらイキがあっていてすてき,と思ったら,酒井さんと山本さん。なるほど,さすがでした。

 

プログラムとしては,傾向が違うものが3本で,しかも互いに鑑賞の邪魔をすることもなく,よかったのではないかと思います。

上演全体としては,なにしろ小嶋さんの半年ぶりの舞台ですから,私の場合,見る前から「よかった〜」は約束されていたようなものですが,1本目のつまずきはあったものの,あとの二つが大変よかったですから,「とってもよかった〜」と思いながら帰路に着くことができました。
ただ,最後がドビュッシーの音楽というのは,若干盛り上がりに欠けたような気がしないでもないですが・・・。(というより,個人的に,『四つの・・・』で終わってほしかった,というコトなのかな?)

(02.3.22)

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