シンデレラ(モナコ公国モンテカルロ・バレエ)

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02年2月24日(日)

オーチャードホール

 

振付: ジャン=クリストフ・マイヨー

音楽: セルゲイ・プロコフィエフ

美術: エルネスト・ピニョン=エルネスト

衣裳: ジェローム・カプラン

照明: ドミニク・ドゥリヨ

妖精: ベルニス・コピエテルス  父: クリス・ローラント

シンデレラ: オーレリア・シェフェール  王子: ガエタン・モルロッティ

継母: カロル・パストレル  2人の姉妹: ナタリー・レジェー, サマンタ・アレン

儀典長: パスカル・モラ, ロドルフ・ルーカス

4人の友人: 小尻健太, アシエ・ウリアジェレカ, ジェローム・マルシャン, マウリツィオ・ドゥルーディ

4人のマネキン: エリック・オベルドルフ, レオ・ゼン, ジュリアン・バンシヨン, ディディエ・ランブレ

赤と黄色の異国美女: フランチェスカ・ドルチ, カトリーヌ・シュウィッター, シャルロット・ピオ, レア・ペトルッズィ

 

モンテカルロ・バレエを見るのは初めて。

セットと照明がよかったです♪
大きい白い紙(2mmの厚さのアルミニウム板だそうです)にしわができたり,端のほうが丸まってきたりしたような感じで,それが何枚も立っている。そこに照明でいろいろな柄が映し出されたり,あちこち場所を替えて雰囲気を出したりしてすてきでしたし,場面転換もスムーズ。

衣装は,ううむ・・・私にはついていけない感覚のモノも・・・。
よかったのは,継母のパーティードレス。恐竜の尻尾のようなコルセットの上に紫の薄布のスカートをかぶせていて,ダンサーの動きとともにその布が動くのが面白かったです。ラストに背景的に登場するシンデレラの金色のドレスもすてきでした。

芸術監督マイヨーの振付・演出は,いわゆる「シンデレラ」の現代的な「読み直し」というモノらしく,実母が妖精(仙女)として登場。両親の間の愛にも焦点を当てています。というより,完全に主役は両親という趣で,シンデレラは,少々気の毒でしたねー。

幕が開くとシンデレラが1人椅子にすわっているのですが・・・グレーの野暮ったい衣装で,垢抜けないシンデレラだなー,と思ってしまいました。きっと「垢抜けない」のではなく「素の美しさ」という設定だったのでしょう。メイクもナチュラルというか・・・たぶん眉を描かないで,ルージュも薄い色で,徹底していました。(2幕の舞踏会のシーンでも同じメイクだったと思う。)
でも,理屈では納得できても,やはりもう少し(内面の輝きを象徴するものとしての)見た目の美しさがないと物足りないなー,と思ってしまいます。彼女に与えられている振付も,1幕は心の美しさというよりは,苦悩しているコンテンポラリー系(?)に見えたし。

曲順も一部組みかえてあって(音楽はテープ),1幕の途中で王子が(シンデレラの家とは関係なく)登場。
で,この王子が,なんとまー,スキンヘッドだったので仰天しましたー。(一瞬,マイヨー本人かと思った)
モルロッティは,踊り自体は目立って上手というほどではなかったですが,このヘアスタイルの効果もあって,実に印象的。「ほとんど大人になろうとしている男」が何かを求めていて,それが何なのかがわからず自分を持て余している感じで説得力がありますし,2幕以降でシンデレラを求める様子も,精悍さがあってよかったです。
また,バレエ団の2枚目ナンバーワン(と思われる)ローラントが非常に印象的な父親役で出演している以上,きれいな王子様ダンサーでは拮抗できなかっただろうなー,よく考えたキャスティングだなー,と感心。

さて,その父親ですが・・・踊りも容姿も美しくてすてきなのですが,なんともまあ情けない人柄で・・・。
冒頭にシンデレラが父母が幸せだったころを回想するシーンがあるのですが,母親は心臓が弱い様子を見せているのに,父親は愚かにもそれに気付かず(気付いていてもなす術もなく?)彼女を失ってしまう。シンデレラが継母や義姉に迫害されていると一生懸命かばうし,たまに毅然としたところも見せるものの,結局負けてしまう。等々。
でも,見ているうちに,妖精となって現れた亡き妻と再会し,この経験を通じて彼が成長する物語なのかなー,という気がしてきて,「そうか,こっちが主役だもんね。なるほどねえ。」と感心もしたのですが・・・結局全然成長していなかったみたいね,この人。
だってさー,最後に,なんで継母を殴り倒すわけ?(殺したのかと思ってびっくりした) まるで子どもみたい。
いや,決して悪いと言っているわけではないです。これだけ印象的に(しかもお笑いには微塵もならずに),哀れな父親像を描き出したマイヨーの演出もローラントの表現も見事だったと思います。特に,抱き上げていた妻が消えて形見の衣裳だけが残ったラストシーンは,実に切なくて味わいがありました〜。

そして,実質上の主役,妖精/実母のコピエテルスがすばらしかった〜♪
コンサート形式の公演で見たことがあって,それなりにすてきなダンサーだとは思っていたのですが,この作品での輝きと存在感は圧巻。
父親とのデュエットでは,大人の女の美しさや愛の喜びが印象的。特に,最初と最後の髪を下ろしての白い簡素なドレスでのリフト多用の踊りがとてもすてきでした。
そして,妖精は・・・なるほど,見守り導く「仙女」ではなく,いたずらっ気のある「妖精」という役名で表記されるわけです。非常に先端的な衣裳(肌色のレオタード(?)に申し訳程度のスカートがついていて,衣裳も肌もスパンコールで金属的な輝き)で,コケティッシュさやコミカルさがある振付を,非常に魅力的に見せていました。
舞踏会での登場シーン,中央の階段の上に出てくるときに,脚だけ(腕だったかも)が出てくるところなど,ほほー,と感心。マイヨーの演出のうまさもあるのでしょうが,身体の一部分だけで客席の目を引きつけるには,ダンサーの力量を必要としますよね。

ガラスの靴に替えて「素足の美しさ=心の美しさ」が使われていました。舞踏会に行くときには,レンズ豆のボウルに足を入れると(スパンコールか何かで)美しく輝きます。(私としては,今までの台所仕事のレンズ豆のボウルを使ったところに,若干抵抗が・・・。日常生活とか勤労の中に美しさがあるという寓意なのでしょうか?)
王子がシンデレラに惹かれるのも,その足の輝きがあったから。そして,最後に彼女を見出すのも,義姉たちの黒ずんだ足と対照的な美しい彼女の足を見たから。
現代作品として,非常に納得がいく設定でした。
(ただ,実際の話,うずくまって足を眺めてなでたりされると,少々変質的な印象を受けないでもないですが・・・。いや,下世話ですみません。)

妙な衣裳の儀典長はなぜ2人組なのかとか,4人のマヌカンによる劇中劇の『シンデレラ』は戯画化されすぎているのではないかとか,不審の点もありましたが,全体としては,楽しめる公演でしたし,他のマイヨー演出の全幕作品も見てみたいなー,と思いました。

(02.11.13)

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