シンデレラ (レニングラード国立バレエ)

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02年1月3日(休)

東京国際フォーラムホールA

 

作曲: S.プロコフィエフ

台本: N.ボルコフ
振付: M.ボリシャコワ  演出・振付:N.ボヤルチコフ

美術: A.ズロービン
衣装: A.イパチエワ

指揮: A.アニハーノフ  演奏: レニングラード国立歌劇場管弦楽団

シンデレラ: エルビラ・ハビブリナ
王子: キリル・ミャスニコフ

仙女(シンデレラの母): エレーナ・グリニョワ
姉妹: オクサーナ・クチュルク, ヴィクトリア・シシコワ
父: アンドレイ・クリギン
義母: オリガ・ポリョフコ
舞踏会の式典長: マイレン・トレウバエフ
ダンスの先生: デニス・トルマチョフ
バッタの妖精: ラシッド・マミン, ウラジーミル・リューキン, パヴェル・シャルシャコフ, マクシム・ポドショーノフ

 

面白かったです。
童話の「シンデレラ」あるいは「シンデレラ・ストーリー」のお話ではなく,シンデレラと王子が「自分と同じ心を持つ,真実の相手」を発見するまでの物語,という感じかな。
「ガラスの靴」は,実際にシンデレラが落としていったものではなく,「愛」あるいは「よき伴侶」の象徴として使われていました。(つまり,世界のどこかに,自分の持つ靴とぴったり合う,もう片方の靴を持つ人がいる,ということですね。)

 

前奏曲から幕が開いて,シンデレラの父母の別れから舞台が始まります。お母さんは,仙女になって,シンデレラを見守っているということのようで,虐げられたシンデレラが一人悲しみに沈むシーンなどでも登場。現実と仙女の属する世界とが交錯する舞台でした。

お義姉さんたちが,踊る,踊る。お義母さんも,踊るわ,お城への招待状を持ってきた式典長に秋波を送るわの大活躍。そして,その式典長もダンス教師も踊るし,お父さんまで踊るのよ。で,シンデレラだけは,ヒールのある靴なので,あまり踊らない。(笑)

皆が宮廷に出かけて一人残るシンデレラのもとに,4組の白いカップルとともに,本格的に(?)仙女が登場。四季の精の場面となります。四季の精は,それぞれバレリーナ3人ずつ。ほかに,男性4人のバッタの精が登場。いろいろとシンデレラのお世話をしながら踊ります。(なぜバッタなのであろうか???)
王子(の面影?)も,一瞬登場。シンデレラは,ガラスの靴を抱きしめ(自分を待っている人がいる,という確信を持ち,訪れるべき幸福を予感しながら?)幕となります。
・・・あらら,カボチャの馬車が出てこないのはもちろん,お召し替えさえしないのね(笑)。

 

2幕は,定石どおり,宮廷での舞踏会にシンデレラ以外の一家が登場するところから。
宮廷の人々も,シンデレラ一家も,キンキラキンの衣装で,大仰で少々滑稽な振付。これは,虚飾に満ちた世界を表しているのでしょう。(現代ロシアの「シンデレラ」には,宮廷を揶揄する表現がつきものなのかしら? 以前見たキエフのリトヴィノフ版も,キーロフのヴィノグラードフ版もそうだったような記憶が・・・。)

王子も,派手な金色のマントで疾風のように登場しますが,最終的にはマントを外し,上下白の簡素な衣装で玉座に沈み込んで,内心では宮廷に嫌気が差している様子。もの想いにふける彼の眼前に,仙女たちに導かれて,白い清楚な衣装のシンデレラが現れ,美しい場面になります。(この幕は,もちろんポアント♪)

愛しあう2人ですが,別れの時刻の12時にシンデレラは姿を消します。追う王子の前には宮廷の人々が立ちふさがり,彼は現実に引き戻されますが,ふと気付くと床の上にガラスの靴が・・・。
王子は,この靴を手に,自分の心に忠実に生きること,真実の愛を求めることを心に誓います(・・・ということだと思います,たぶん。)

 

3幕は,「雲の上の靴工場」と題された場面から。靴の精(?)たちが,世界中の人々が愛する人とめぐりあえるように,せっせとガラス細工の靴を作っている,という感じ。

王子は,相変わらず疾風のようにこの場面にも登場し,続いていわゆる「お国めぐり」に。ただし,王子が,靴に合う人を探すというよりは,スペインと東洋(アラビア)という場面を借りて,2つの愛の形を見せているようでした。
スペインは,最初男を拒んでいた女が,彼の愛にほだされて,ガラスの靴を手にするまで。アラビアは・・・私は,たいへん怒っています。あまりに憤慨しているので,あとで,詳しく文句を言わせていただきます。

王子は,ついに,シンデレラの家に到着。1人でいた彼女を見て,この人がもしや・・・と気付きかけますが,シンデレラは自分の粗末な姿を恥じてでしょうか,舞台袖に引っ込んでしまいます。お義母さん,お義姉さんが登場して,王子も気乗り薄ではありますが,一応靴試し・・・。そこに,お父さんに励まされて,ガラスの靴を手にしたシンデレラが登場。2人は,運命の人とついにめぐりあえたことを喜びあいます。

場面は変わって,シンデレラと王子の愛を確かめあうパ・ド・ドゥに・・・。(白い衣装で,なぜか裸足で踊られます。ううむ・・・ま,いいか。別に結婚式ではないようだし,王子とか貧しい娘とかいう立場ではなく,人間同士として愛しあう,ということなのかしらね?)
最後は,お父さんと仙女(お母さん)や4組の白いカップルも登場して,さながらモダンなバレエ・ブランの趣で,美しかったです。

 

小学生の子どもを連れて家族で見にいくのには向かないような気はしますが,全体のコンセプトがはっきりしていて,よい作品だったと思います。少々理が勝ちすぎているという意見はあるかもしれませんが,ストーリーの骨格は崩さないで,童話を寓話に格上げした(?)演出の手腕は,立派なのではないでしょうか。

美術・衣装は,おなじみのオークネフ+プレスではなく,キエフから招聘したというズロービンとイパチエワという方々によるもの。いつもの少々派手な色遣いと違って,セットは重厚ですし,衣装は役柄を表現していてよかったです。
ただ,家にいるときのシンデレラの衣装は,ちらしやプログラムの表紙のような小間使い風(?)のほうが,もっと感じが出たかも。あと,王子の衣装が純白なのは,その心を表しているのでしょうが・・・ううむ,簡素すぎるというか,舞台上で一番粗末だったような。(笑)

ハビブリナは,容姿も雰囲気も役に合っていると思いましたが,「よい子は幸福になる」というお話ではないだけに,シンデレラの美徳を表す場面があまりなくて,ちょっと気の毒だったかな。
ミャスニコフは,「跳んで回って」方面は少々物足りませんが,上半身が柔らかくて,立派な王子。サポートは少しぎこちなかったけれど,危なげはない。イリインの怪我による出演ということで,この二人では踊っていなかったのかもしれません。
お姉さんたちの意地悪ぶりもなかなかのもので,やはりクチュルクの踊りが上手でした。
クリギンの長い金髪が乱れているのが,情けないお父さんによく似合っておりましたー。

 

さて,最後に,東洋(アラビア)の踊りについてですが・・・これがですね,ガラスの靴を手にした男性1人,女性3人の踊りなんですよ。
これって,コーランが一夫多妻を認めているという,(これは事実ではあるそうですが,)ステレオタイプなイスラム観に基づいているんじゃないのー?(怒)

もともとロシアではパ・ド・カトルなのかもしれませんし,『くるみ』のアラブの踊りも『シェヘラザード』も,アラブ世界の方々から見れば腹が立つものかもしれませんが,でも,それは歴史上の作品。一方,これは新作ですよねえ。しかも,ニューヨークの世界貿易センタービル事件の前後に制作していて,ただのおとぎ話ではない,普遍的な愛の物語として演出・振付している作品なわけですよ。
男1人と女3人も,フランスの踊りだとでもいうのなら,そういうのも結構かもしれませんが,よりによってアラビアの踊りで,それをするとは・・・。なんというか,現代の振付家としては,あまりにも無邪気すぎるのではないでしょうか。

ボヤルチコフもボリシャコワも日本語を読めるわけではないから,ここで書いてもしかたないとは思いますが,反省して改訂してほしいと,心から願います。

(02.1.8)

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