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 「龍麻!嫌だよ?死なないよね?死んだら、僕もついていく。後を追ってやる
  からね。自分を殺すなんて、簡単なんだから」
 母の為とはいえ、ずっと人を殺してきた。
 社会的な抹殺なんてのもあったけど、そのほとんどが立派な殺人だ。
 誰かを殺すなんて、腐るほど繰り返してきた。
 見知った相手だっていたんだ。
 自分を殺すなんて、わけないね!
 「後追いは許さない。狂うのも、許さない」
 龍麻の瞳が金色を帯びる。
 本気で怒った時に見せるそれが、僕に向けられていたって、ひけない。
 「嫌だ」
 「なら、お前の中の俺を殺すぞ」
 真っ直ぐに見つめられて、頭がきりきりと痛んだ。
 これは龍麻が黄龍の力を酷使している時に感じる、僕しか感じない共鳴みた
いなもの。
 「どういう、意味?」
 「紅葉が覚えている、緋勇龍麻の記憶を全て消し去るってコトだ。この力を使
  えば、わけないんだぜ?」
 不可能はないといわれたその力だ。
 僕の記憶くらい簡単に消せるだろう。
 「もしかしたら、そーゆーことになるかもって、伝えてあるから。後のフォロー
  は皆がしてくれる。お前は、俺の存在を忘れて、皆に愛されて、幸せに生き
  ていけるぜ?」
 「君はそれでもいいのかい?僕が、君を忘れてもっつ!!」
 考えたくもないが、龍麻を忘れた自分が生きていけるなんて信じたくもない。
 殺してもらえないのなら、余程自ら命を絶った方がましだ。
 「ああ、いいんだ。俺が覚えてるから。死んでもお前の事は忘れないから」
 「龍麻!!」
 「もう。決めたんだ、紅葉」
 「いやだ、いやっ!嫌だあっつ!」
 僕をあやす龍麻の指先から、力が目に見えて抜けてゆくのがわかる。
 確かな感触が、恐ろしいスピードで曖昧なものになってしまう。
 「どう、する。記憶、消すか?早く、決めろ、よ?」
 言葉すらもう、満足に紡げない。
 「連れて、いかないのなら……残していって……」
 僕は龍麻を愛してる。
 龍麻だけを愛している。
 龍麻も僕だけを愛してくれた。
 ならば、最後の願いくらい。
 先に逝かねばならない、最愛の相手の願いぐらい。
 聞いてやれないで、どうする?
 「良い、子だ」
 最後の力で僕を引き寄せた龍麻が、唇を塞ぐ。
 舌を絡める気力すらないのか、触れるだけの、口付け。
 「君が逝っても。君だけを愛してる。後は追わないから、それだけは許してく
  れるね?」
 「ああ、俺も。あっちへ行っても、お前だけを、愛、してるよ」
 愛、してる、よ。
 と、囁いた唇はそのまま固まった。
 瞼がゆっくりと閉じる。
 全身から、力が抜けた。

 「……さようなら、龍麻」

 昔、龍麻が言っていた。
 さよならは、別れの言葉じゃなくて。
 次に会うための、約束なのだと。
 生と死で別れてしまった僕達には、とても遠い約束になってしまうけれど。
 いつかきっと、君に再び会えるその日まで。
 僕は僕でありつづけよう。
 でも、今は。
 今だけは。
 もしかしたら、すぐに目覚めるんじゃないか、とか。
 そんな夢のような願いを頭のどこかに置きながら、どんどん冷たくなってゆく君
の頬を暖め続けることを、許して欲しい。
 君を失った痛みを、耐えるためにも。
 僕の、気がすむまで、君を抱き締めつづければ、所詮この痛みも。
 長い生の中、僅かな時間にすぎないのだと。
 次に君に会うまで、夢の途中に、起きた出来事なのだと。
 思い込めるから。




                                                             END



 *主×壬生
  来生たかお氏の『夢の途中』がテーマでした。
  『セーラー服と機関銃』のテーマソング。
  「ただ このまま 何時間でも 抱いていたいけど〜」
  いつか、この歌をテーマに書こうと思ってました。
  とりあえず、書き切ることができて嬉しいです。
  しっかし、この後壬生がどう生きてゆくのかを考えるのは
  大変苦痛です(苦笑)




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