「嫌だ、嫌だ、嫌だ!」
俺は紅葉の無防備な首筋に唇を寄せて、強引に赤い烙印を刻んだ。
「双龍だから、側にいたんじゃない。名を呼んで欲しいから、一緒にいるんじ
ゃない。好きだから。誰より大切だから側にいるんだろう!」
「……僕が、辛いんだよ。た、た…つ………緋勇」
「でも離さない!絶対手放さない。それとも何か?黄龍がいなくても同じ力を
持つ化け物なのが怖いのか!」
「……わかっているんだね?」
黄龍がいなくなったわけじゃあない。
黄龍は紅葉を傷つけてしまったショックで、俺の中、深い眠りについているだ
けだ。
もしかしたら、黄龍が復活すれば紅葉の状態も治るのかもしれないが、それ
も今は難しい。
「わかっていて。僕を、側に置くんだね?」
それは、今回のような一件が再び起こる事への危惧なのか。
足手まといにしかならないだろう紅葉のプライドを踏みにじり、側に置きたが
る俺のエゴを責めているのか。
「緋勇、緋勇、緋勇っつ。呼びたいのに。今、君の名を呼びたいのに!」
しゃくりあげる紅葉の身体を抱き締めて、涙を舌先で拭う。
「いつか、また。呼べる日が来るかもしんないんだ。諦めないで、ここに。い
てくれ」
そんな日が、来ない可能性が高すぎるのを重々承知の上で、俺は嘯く。
紅葉を抱き締めていられるなら、俺は何度でもどんな嘘でも付くだろう。
突き通すだろう。
「緋……勇……」
俺を呼ぶ紅葉の唇を貪れば、声にならない声が確かに聞こえる。
『龍麻』
と。
決して声にはならない、切ない音は脳内にやわらかく響いた。
END
*主人公×壬生
主人公を『緋勇』と呼ぶ壬生と怖い話が書きたかったらこうなりました(苦笑)
久しぶりの怖い話で大変進み具合もいい感じだったのですが、怖さがなかなか
出せなくて困りましたね。音の効果を文章にするのは難しいです。効果音を使
うの はよくやるんでいいんですが、それとは全く別でした。ここに出て来る高城
学園はオリジナルコンテンツを作ったら絶対掲載するんですが…ストックだけで
魔人の倍はあるんですけど。時間がな…。