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   光の発する強烈な力を俺自身よりも激しく被った反動で、紅葉の身体は輪郭すら危うい。
 さら、と。
 髪の毛の先が、空に同化した。
 『どうして、紅葉っつ!』
 知らないはずの、俺を助けるのか。
 それは、魂までもが、がんじがらめにされた盟約の果て。
 本人の意識すらない部分で発動されるべき犠牲的精神だとでもいうのか。
 『何で俺を助けるんだよ。俺なんか知らないんだろう?いらないんだろうっつ!』
 頬を撫ぜる手の甲が、見る見るうちに透き通ってゆく。
 黄龍が放った全開の力を浴びて、存在すら儚いものになってしまう。
 消滅、する。
 『いらない人間を、どうして助けるんだよ!!』
 最後の口付けは、瞼の上に一つ。
 『何時か、わかる日がくるといいね。緋勇』
 『紅、葉?』
 本当は、正気だったのか。
 正気のまま、俺を否定して。
 それでも、最後に、受け入れてくれたのか。
 問おうとした唇は、そのまま固まってしまった。
 尋ねてももう、無駄だからだ。
 俺を抱き締めていたぬくもりが、すっと空気に溶け入った。
 寂しい笑顔が、まだ残像のように目に焼き付いている。
 『やっぱり……紅葉は、君の為に、死んだね』
 泣きはらした翡翠の目は、兎並に赤い。
 『僕は…身代わりにすら、なれなかった』
 『……そうでもないさ』
 ここまで紅葉がもったのは側に翡翠という存在があったからだろう。
 自分だけを見つめてくれる慈しみに満ちた眼差しを受け入れて、無反応でいられるほど、紅葉は壊れた
人間ではなかった。
 翡翠に、愛されていたからこそ、死の間際。
 俺を助けたのかもしれないし?
 どの道俺は、己の愚かさ故に。
 最愛の半身を失った。

 紅葉の遺言めいた囁きの答えも、見出せる事はないだろう。
 いらない人間を、助ける理由なんて。
 永遠にわからない。
 最愛の人間すら、助けられなかった人間に。
 そんな余裕は、もう。
 どこにもないのだから。




                                             END




*主人公×壬生(一部如月×壬生)

 最後の最後まで、懐かない紅葉さんでした。
 やはり、緋勇、と呼ぶ紅葉にツボ。
 死ネタはこれで終わりましたけども、やはり時間がかかりますね。
 死人祭りは控えておかないとなあ。
 でも今度は死んでゆく人間視点の話を書きたいとかも、思っているので微妙。

                          

 



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