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 「だめぇっつ!」
 イく寸前の、駄目! ほど萌えるものはねぇよなぁ、とまさしく親父の爛れた思考を展開しなが
ら、その収縮になんとか耐えきった。
 崩れてしまった膝に、少々腰への負担が気になったので、奴の背中の上に遠慮なく体重をか
ける。
 「……せ、んせ?」
 「んだよ」
 「もしかし、て、少し。痩せられましたか」
 「んあ?」
 「前より、ちょっと軽くなった気がしますけど」
 「気のせいだろ」
 実際マスタングの野望とやらに再び引き摺りこまれ、共犯者に相応しいアレコレをしている今。
 多忙を極めていると言っていい。
 こいつの調べ事は、しち面倒臭ぇもんが多すぎるからな。
 作業に没頭すれば、寝食忘れる性質だ。
 マスタングほどじゃねぇたぁ、思うのだが、嬢ちゃん辺りに言わせると似たようなものらしい。
 こいつの指摘するとおり、痩せたのかもしれない。
 「私の、せいですよね」
 「おいおい」
 「わかっているんです。先生に無茶させているのも。先生は優しいから絶対。無理してるなん
  て、おっしゃらないけど」
 「あー。いきなりどうした?」
 突っ込んだままの、ナニはまだ元気だし。
 こいつもまだ、熱に浮かされて余計な事を考えている隙などないはずなのだが。
 「……いいえぇ。ちょっと、先生の優しさに、眩暈を起こしただけですよ」
 確かに、それは一瞬だけ見せた弱音だったようだ。
 マスタングの中が、きゅうきゅうとイった後特有の収斂とは違う動きを見せ始める。
 「さぁ、今度こそ。貴方をイかせてみせますよ?」
 「……ちょっと、待て。ロイ」
 俺は、奴の身体を反転させると、その身体を抱き起こした。
 体位で言う所の対面座位だ。
 「せんせ! 無茶せんで下さいってば。腰、痛めますよ?」
 「いいから! っとに。だいじょぶか?」
 最中には、相応しくない仕草だと思いつつ。
 奴の額に、こつんと己の額をあてる。
 「ナニが、です?」
 「馬鹿。吐き出しとけ。弱音でも何でも聞いてやるから」
 「……最中ですのに」
 「関係ねーだろう。抜くか?」
 「いいえ! これは、そのままで。何時でも、続けができるように」
 「へいへい。お好きにして下さいよ。で?」
 一体、何が胸の内引っ掛かったのだと、言いたくなさそうな内容を吐き出させるべく、重ねて
問う。
 「見逃しませんか?」
 「つもりはねぇ」
 「ですか……はぁ。失敗しました」
 陥落する気になったようだ。
 参りました、の口調。

 「いえね? 大したことじゃあないんですよ」
 「そりゃ、聞いてから俺が決めるこったぁ。ぐだぐだ抜かすんなら、抱っこ止めっぞ!」
 「それは、嫌です。中に入っててくれなきゃ、言いません」
 「んなに、不安か」
 「っつ!」
 なかなか言いたがらない唇の端にキスを落としながら、濡れた漆黒の瞳を覗き込む。 
 瞬間揺れた瞳は、やがて穏やかに細められた。
 「貴方には、隠し事もできませんね」
 「そっか? ヒューズ坊より、逃げ場をやってるつもりだが」
 一つづつ。
 なるべく、古い所から。
 奴の痛みを和らげる為。
 敢えて、傷を抉る真似をする。
 忙しいこいつの中では、まだ。
 ヒューズ坊が想い出になる時間は持てていない。
 「ふふふ。そうですね。アイツは容赦なかったからなぁ。奥さんお子さんできても、そこは
  変わらなかった」
 「あそこは、奥さんが出来た人だったからなぁ」
 「ええ。優しい人です。何しろ、私を責めません」
 「責められてぇんかよ」
 「ですね。なじられた方が楽だったとは思います」
 幾度か会った事がある。
 マスタングが東に居た頃に、引き合わされた。
 俺の恩師で、マスタングマスターだと。
 お陰で、今もグレイシアには尊敬の目を、エリシアには好奇心の目を向けられている。
 エリシアは愛らしい子で、グレイシアは聡明だ。
 そして、深くヒューズ坊を愛していて。
 マスタングにも情愛を注いでいる。
 ヒューズ坊を失った悲しみ故、そんな気力はまだないだろうが、マスタングがそうと望むのなら
何時かは、マスタングの為に奴を罵るだろう。
 自分には娘が居るが、マスタングには目に見える形見が残されなかった事に、彼女は罪悪感
すら覚えているのだ。
 肉体関係なぞなくとも親友以上に、魂で繋がっていた二人を知っているから。
 「今は、無理だろう。彼女にそんな気力はない」
 「わかってます。それでも、何時か……エリシアと一緒に、感情を剥きだしにして私を罵って。
  そうして……」
 「新しい伴侶を探して欲しい、か」
 「ヒューズは、そう。望むでしょうから」
 「まぁ、死んでまで妻子縛る奴じゃねぇなぁ。お前のことも、そうだ」
 「……縛られてます?」
 「違うたぁ、言わせねぇ。ヒューズ坊、向こうで泣いてっぞ」
 泣きそうな顔に、泣いちまえ! と眦にキスをする。
 ほろりと落ちた涙は、ほとほとと堰切ったように流れ出す。
 「やっぱり、抜くか……」
 「抜かないで下さい」
 「けどなぁ」
 「このまま……ここだから、泣けるんです」
 「ったく、わあったよ」
 手近に置いたタオルは涙を拭くための物ではなかったのだが、まぁ、良い。
 俺はマスタングの眦をふこふこのタオルで拭ってやる。
 きちんと手入れがなされているらしいタオルは、マスタングの涙を綺麗に吸い取っていった。
 「まだ……縛られて、いたいん、です」
 「難儀な奴」
 「ですか?」
 「だろうが。嬢ちゃんやエルリック兄にまで、縛られてんだろうが」
 「あーだって……ねぇ?」
 「ねぇ? じゃねぇんだよ。ど阿呆」
 マスタングがタオルを置くので、身体を捩れば、揺さぶりたい衝動が込み上げてくる。
 ったく。
 どんな拷問なんだっつーの。
 「リザも、エドも捨てられませんよ」
 「そりゃ、当たり前だ。だが、縛られる必要はねぇだろうが」
 「二人とも縛られてくれてます」
 「縛り方が違う」
 「何だかSMちっくな会話ですねぇ」
 「縛られてぇんなら、縛ってやるぜ?」
 「SEXでの、SMでしたら、喜んで。でも、先刻と同じ意味でしたら、ご遠慮申し上げます」
 「こっちもだ。俺に縛られてなんか、みろ? 冗談じゃねぇ。縊り殺してやる」
 俺だけは、こいつを縛らない。
 こいつに、縛られない。
 マスタングの枷になったと自覚した時点で、首を掻っ切る覚悟は決めてある。
 それが、俺を特別扱いしたがる、手前の愛情だ。
 「……やっぱり、私は先生じゃなきゃ駄目です」
 「だったら、エルリック兄からも大人しく手ぇ引いておけ。そろそろやべぇだろ」
 「ですかね?」
 「だ! 別に俺を悪人に仕立てても構わねぇから。早めの引導を渡してやるんだな」
 
 


                                 
次回から、エロに戻ります。




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