叶わないとわかっていても、孕んでみたい。
「ああっつ……い、っちゃ……」
愉悦のうねりに包み込まれる。
もう、限界だと、遠くで思った瞬間。
ほとんど同時だろう絶妙のタイミングで、先生の親指の腹が、くりっとばかりにクリトリスを撫
ぜ上げた。
「んっつ!」
唇をきつく噛んで、到達の衝撃に耐えた。
とろっと更に粘着質な蜜が、溢れ出て先生が抜き差しする指に絡んで、淫音は更に耳に切
ないものになる。
びくっつ、びくっとかなりわかりやすい到達を、先生がわからないはずはないのに。
痙攣するクリトリスを、未だ舐め上げてくる。
「やあっつ。も、いっちゃったから…しない、で…」
「だってお前さん。もっと!ってよ、腰を持ち上げているじゃないか?」
指摘通り、私の腰は空に浮き、先生からの強過ぎる愛撫を怯えながらも受け入れている。
私はいった後、続けて到達できる性質なのだ。
我ながら淫乱この上ない。
「違うのっつ、これはっつ。違うん、です」
「じゃあ、どうして欲しいか、ちゃんと口にするんだな」
「虐め、ないでっつ」
「人聞きの悪い。こんなにしてるのになぁ」
今度はもう、容赦なく指の腹でクリトリスを擦られる。
「やあっつ、駄目っつ、またいっちゃっつ」
「何度でも、好きなだけ。いけばいいさ」
この人は、私が望む言葉を口にしない限り本当にし続けるのだ。
以前、頑なに嫌がっていたら、とんでもない数いかされた。
「や、だから。クリ…じゃなくて……こっちで、いきたいから……」
何度シテも、目を開けては出来ない恥ずかしいオネダリ。
私は、先生の前。
自分の意思で大きく股を開いて、更には先生が指を出しいれている周りを指先で引っ張っ
た。
「ロイの、ここに……先生の、アレっつ……入れて下さい…」
「いいなぁ、お前さん……本当…可愛くて……困るわ」
くくっと喉の奥で笑った先生が、やっと入り口に固くなった先端を押しあてた。
奥まで差し入れられて、あんあんと鳴きながら満たされる時間が来るのだと、我ながら淫
らに笑った、ちょうどその時。
「……お休みの所、すんません。マスタング少佐」
テントの向こう、聞こえた声は。
鮮やかな金髪碧眼を持つ割に、何時でもだらけた雰囲気を漂わせる副官のもの。
先生と種類は違うが、奴の吸うきつい煙草の匂いまでもが鼻に届くようだった。
正気に、返ってしまう。
返らされてしまう、音域。
「……何?」
信用できる副官だ。
何よりも犬のような、主に従順な瞳が。
これから先も、長く近くにあるだろう。
もしかしたら、今私を抱き犯してくださる先生よりも。
「召集っス」
「……朝まで待ちたまえ、と。上官へ言って暮れ給えよ」
「邪魔されて不機嫌なのは、わかりますけど。俺に当たられても困ります」
一度だけですが、言わせて下さいと言われて発言を許せば。
『気持ちはわかりますが、許されん関係なのはおわかりでしょう?』
と、先生との関係を咎められた過去がある。
私が少なくとも今、不倫を承知で付き合っていて、やめる気がないのだとわかっていても、
忠告せずにはいられなかったようだ。
それぐらい。
部下と上官の距離を踏み込んで尚、大事にされている。
だから、こんな不敬の発言も許すのだ。
「あーな。ちょーどいい所だったんだ。先んちょが入ったトコでなぁ」
「先生!」
そんなにもストレートに、言わなくてもいいでしょう。
幾ら私達の関係を知る、数少ない人間相手にとはいえ!
赤くなって、青白くなってしまっただろう、私の額に口付けが下りて。
硬直がするっと外される。
「あーそいつぁ。きっついですやねぇ。男として同情しまさぁ」
がしがしと、気だるげに髪の毛を掻く音までが耳に届くのに。
私は溜息をつく。
もう、身体が戦闘モードに入ってしまった。
「ま。これ以上絞られても、明日きついから良かったのかもしれんが」
「っつ!いう事にかいて。酷いですよ!」
「んーノックス先生。惚気にしか聞こえんスよ。羨ましいこって」
あやかりたいっスねーと、笑う様子に、どんな表情をしているか簡単に想像がついた。
「何にせよ。支度はせにゃあならん。もちっと待てや」
「へいへい。大人しく煙草でも吸ってますよ」
先生相手に、負けていない。
まぁこの辺りも私の副官に適しているのだろう。
絶対先生に勝てない私の代わりに、勝負してもらわねば困る時もあったから。
「じゃあ、先生。名残惜しいですが、行って来ます」
「……犬を盾にしてでもいいから、無傷で帰ってこいや」
「聞こえてますよー、先生」
「お前さんは、黙って見張っとけ。いいな、マスタング」
「貴方が気に入って下さっている身体に、傷をつけるつもりは欠片もありませんよ」
「ああ、それでいい」
無事で。
と、瞼に下りてきたキスを受け取ると、顎鬚に口付けを返した。
「戻ったら、今度こそ搾り取って上げますよ」
まだ熱を孕んだままで、それでも素早く下着を身につけて、シャツに手を通す私を見なが
ら、自分は投げやりに白衣を羽織る。
「お手柔らかに頼むわ」
ベッドの上、煙草に火をつけて、ぷかーっと煙を吐き出す。
私は先生の香りを胸一杯に吸い込んで、ズボンを履きベルトを締めた。
「よっと」
灰を落とさないように煙草を凝視しながら、先生は立ち上がって、背中から上着を着せ掛け
て下さった。
胸を揉み込まれるようにして、抱きすくめられた。
「無事に、戻って来い」
血管の浮いた手の甲に、己の掌をそっと乗せて。
「はい、先生」
私は至福の内に頷いた。
好きな人に、無事を、帰りを望まれる。
これ以上の幸せを、どうして望めようか。
緩んだ拘束から逃れ出るようにして、私はテントを出た。
背中に注がれた先生の視線を、感じて一人静かに微笑みながら。
END
*はははは。入りませんでしたよ(下品)
最後の最後で何故かハボック登場。
そして、戦争終結後奥さん子供の元へ先生を返してしょんぼりするロイを
今度はハボックが慰めるといいですよ!
そして再会後は、ビハ三角関係で。