「……ケーキのせいだろ」
答える先生の耳朶が僅かに赤い。
照れているのだと思えば、愛しさがぎゅうっと胸の奥から込み上げてくる。
誘うように唇を開けば、間を置かずに舌先が滑り込んできた。
男性しか好きになれぬ、部下の。
それも受身の相談と言うか惚気を聞かされた時に、聞かされた。
妻帯者って、半端なくキスが上手なんです。
と、言うコメントが、ぼん、と勢い良く浮上して来た。
私とて、キスに関しては場数を踏んできたし、決して下手ではないと思っている、女体化した
今でも。
しかし、今。
先生にキスを。
それも、恋人のディープキスを改めてされて。
されているのだと、頭がしっかりと認識した途端。
頭の中が沸騰した。
今までしてきたキスは子供のお遊びだとまで、思う。
「……ふ……あ……」
息継ぎもできない、濃厚なキスだ。
舌を根元から絡められ、口腔を余す所なく探られ、歯の隙間まで擽られる。
ぐ、っと角度を変えられて、喉奥に触れられた時は、下肢に強烈な痺れが走った。
舌裏の筋をなぞられて、そのまま先端をゆるく噛まれ、すっと唇が離れてゆく。
意識せず、は! と大きな息を吐き出した。
「初めてには、きつすぎな、ちゅうだったか?」
「初めてじゃないですよ! 先刻もしたじゃないですか! こゆいの!」
「あれは、お前を落とすキスだ。落とされてからの。女としては、初めてじゃねぇか……
まぁ拘らんでいいし、んなに怒るなって。可愛いだけだぞ?」
「なっつ!」
初めて見る、甘い、甘い表情で鼻先にキスをされる。
「本当。頭からばりばり喰っちまいてぇ、くらいだ」
そして。
先刻より一段と深くなった、欲情に爛れた男の顔。
羞恥のまま、先生の肩口に顔を埋め、バスローブの紐を解く。
歳経ても尚。
最前線で医師として働く男の身体は、軍人のそれに良く似た筋肉をしている。
指を這わせれば。
「擽ってぇぞ?」
と、指を拾われて。
「それぁ、俺の役目だ」
と、指を首に回された。
「あ! やあっつ」
乳房を揉まれたと思ったら、乳首に吸いつかれた。
赤子がするように、一生懸命に吸い上げられる。
込み上げて来た感情は、もしかして母性本能に近いのかもしれない。
頭を抱き込めば、私の感情を明確に読み取ったのだろう、何せ先生はマスタングマスターだ。
つんと尖った乳首の、先端に歯が立てられる。
「んっつ!」
子供に吸われた時には、決して出ないだろう濡れた嬌声が喉を突いた。
両方の乳首の、それも先端だけを堪能した先生は顔を上げ、またしても濃厚なキスを仕掛け
てくる。
先程よりは、余裕を持って答えられると思った矢先。
先生の掌が、乳首を撫ぜ上げてきた。
手首から掌、指先を順番に乳首の上で滑らせる。
数箇所、異様に感じる場所があって、その都度腰を跳ねさせた。
「ああ、豆が気持ちいいんか」
納得した声に、頬が更に紅潮するのを自覚する。
先生の掌にある、指の付け根に出来たマメが、硬くて、乳首にすれる度歓喜を呼び起こすの
だと、わかったからだ。
「イシュヴァールん時ほどじゃねぇけどな。まぁ、この年でも結構重い荷物持ったりするしなぁ。
豆は常設だ。良かったな?」
すっかり起立してしまった乳首を押し潰すように強く豆で擦られた。
跳ねる太股の付け根に濡れる感触を覚えて、私は羞恥のあまり大きな声を上げる。
「や! せんせっつ」
「や! はねぇだろ? こーゆー時は、もっとして、だ。ロイ」
ロイ、の部分だけが一段低い声で囁かれる。
興奮に掠れた音が堪らなく淫靡に耳を擽った。
「んんっつ!」
見たこともない鮮やかな真紅に染まった乳首を、まじまじと先生が見詰める。
言葉がないのに不安を煽られて、ごくりと喉を鳴らす。
不安げな顔をしていたのだろう。
先生がくしゃりと笑った。
「いやぁな。美味そうだなぁ、と思ってよ」
両乳首の上を豆をすりつけたまま一回転される。
「!」
声にならぬ悲鳴を上げて喉を仰け反らせれば、首筋に唇が吸い付いてきた。
「こっちも美味そうだな……っつーか、おい。なんだ、この美味そうな匂い。フェロモンでも出て
るんか」
くんかくんかと遠慮なしに匂いを嗅がれる。
フェロモン垂れ流しの自覚はあったが、まさか露骨な匂いまでついているのだろうか。
「どんな、匂いですか」
「うーん。食い物に例えるのはちと難しいかもしれねぇな……そうさな。熟して腐る寸前の果物
に似た匂いかな」
「腐る寸前!
「そっちに食いつくな。熟して美味そうな匂いだっつってる」
首筋をちゅ、ちゅと音を立てて滑っていった唇は鎖骨のラインを丁寧になぞって、乳房にたど
り着いた。
細いが節くれだった指が容赦なく乳房を揉む隙を縫って、嘗め回される。
一向に乳首に触れてくれないのが切ない。
僅かに身体をよじっては上手く先生の唇に乳首があたるように調節しているのだが、素早く回
避されてしまって成功しない。
もしかすると、私が強請るまでしてくれないつもりなのだろうか。
先刻乳首を吸われた時には快楽というよりは母性本能を擽られたのだが、今回はそうもいか
ないだろう。
焦れたように先生の下肢に指を伸ばせば、強い力で止められる。
「そっちはまだ、お預けだ」
「でもっつ!」
「物事には順番てもんがあるだろう。初めてなんだから、あせるなって。最後は……もぅ、お腹
いっぱいです! って鳴くまで可愛がってやるから」
「本当に?」
「エロ親父を舐めんなよ」
不意に先生の舌が私の乳首を舐め上げた。乳首の根元から天辺まで短すぎる距離を何度も
往復する舌に、私は呆気なく白旗を上げる。
自分がここまで快楽に弱いとは思わなかった。
思わず先生の髪の毛に指を差し入れて続きを促すように頭皮に爪を立てれば、乳首に吸い付
いたまま喉奥で笑われた。
「せんせっつ!」
抗議の声は、途中で蕩けて甘えた響きに成り代わる。
「んん、あ、ああっつ」
敏感になった乳首は、舐められて吸われて、時々息を吹き掛けられるという比較的やわい愛
撫にも過敏に反応してしまう。
胸だけでここまで悶えてしまうのだったら、下肢を攻められたのならどうなるのだろう。
腰の辺りをぞぞぞっと、熱い物が走り抜けた。
「全く。いいおっぱいだな」
乳首から顔を上げた先生が顔を覗き込みながらそんな事を言う。
「そう、です?」
男性時の自分が一番拘る触り心地は、まぁ、クリアしていると思っていたがそれ以外は好み
もあるので何とも言えない。
「大きさ、形、触り心地、感度どれをとっても文句ねぇよ」
「先生の好みにあってます?」
「合い捲くりで困ってらぁ」
だが、先生から太鼓判を貰えば嬉しいし、安堵もできた。
「まぁ、俺ぁお前さんの身体に惚れた訳しゃねぇし? つーか、お前さんはどうなんだ。ちゃん
と気持ち良いんかよ」
「……そういうこと、女性の口から言わせないで下さい」
「馬鹿。ちゃんと言わないと駄目なんだ。SEXってーのは愛と情のあるコミュニケーションなん
だからな」
「ひゃあうっつ!」
先生の掌が下腹部を撫ぜる。
ちょうど子宮のある辺りだ。
今までにない熱が体の奥からこみ上げてきて、意識せぬ涙が眦に溜まった。
「何か、イイか。何が、良くねぇのか……教えてくれ」
豆のある掌は温かく気持ち良いはずなのに、太股が激しく跳ね上がって恥ずかしい。
エロは続くよどこまでも。
オヤジ的特有のねちっこさを出せれば良いなぁと思います。