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 (同属)嫌悪


 
「よっつ!久しぶり」
 「……君はどうして、素直にドアから入ってこないのかな?」
 「え?だって、俺等の密会がばれちゃマズイだろ」
 つかつかと執務机に座る私に真っ直ぐ近寄ってきたと思ったら、ぐいと真正面から襟首を
掴まれる。
 「すんげー、会いたかった」
 机の上に引き摺り上げられるようにして、上半身が乗りあがってしまうほどの、強い力で
引き寄せられたと思ったら、口付けられた。
 「ん!」
 口の中、思う様貪られて、鋼の!と抗議をするが全く聞いちゃくれない。
 私が教え込んだキスは、何時の間にかそのスキルを上げ、舌を絡め合えば軽く鼻から
甘ったるい息が漏れるくらいにはなった。
 散々口腔を探られ、びくつく背中を撫ぜ上げられて、ようやっと開放される。
 呼吸よりも、体勢が無茶だったので腰が痛い。
 「挨拶もそこそこに、ディープキスとはね。私の恋人は無茶が好きだ」
 「えー!挨拶するだけマシだと思ってくれよ。アンタが欲しくて仕方なかったんだから。アンタ
  はちげーの?」
 「や。欲しいよ?」
 「……そのうるうる目は最強だな。何人の男を垂らしこんだのか聞いてみたいや」
 「聞かない方がいいと思うがね」
 「だろうな。俺殺人罪で投獄されたくないし」
 「アル君が泣くよ」
 「アンタは?」
 「泣かない」
 「冷たい!」
 「泣いてる暇はないさ。君を助けるので手一杯だろうからね」
 私の言葉が嬉しかったのだろう。
 鋼のは、きゅっと口の端を噛んでいる。
 「アル君は?」
 「図書室にいるよ。ちょうど中尉がいたからお願いしてきた」
 お願いされなくても、中尉はアルフォンス君が気に入っている。
 彼が恐縮する程度には、その相手をするだろう。
 「俺もそーだけど、アルも本好きだからさ」
 天才錬金術師光のホーエンハイムの血を受け継ぐ子供達だ、幼い頃から本の虫であった
としても納得が行く。
 「本で思い出した、俺。キンブリーに会ったんだけどさ」
 「……紅蓮のに?」
 何時牢獄から出たのだろう。
 知らなかった。
 出ていたらまず、私にコンタクトを取って来ると思っていたのだが。
 まぁ、見限られたのであればありがたい。
 できれば、あの男とは関係を持ちたくないのだ。
 「あいつ、本持ってたんだ。すんげぇ古そうなの。何度も繰り返して読んだみたくって、
 ぼろぼろだった」
 「私の知る彼は、偏った知識を得る事に貪欲だったから、そういった類の本だったんだろう」
 「ちっちっち。違うんだな、これが」
 何とも子供らしい仕草で、顔の前人差し指を振って見せた鋼のは、私が座っているイスを
ぐるんと回して、太股の間に彼の膝を滑り込ませてきた。
 「アンタに貰った本だって、言ってた」
 「はぁ?」
 「『人と上手に付き合う100の方法』ってマナーブックだったよ」
 ……遥か昔。
 やたらめったら敵を作る癖に、何故か私の後ばかりを付いて来る奴に、そういえば突きつけ
た記憶がある。
 これで、私が以外の人間と付き合ってくれ!っと、捨てゼリフも吐いた。
 「『ロイさんから貰った物は幾つかありますけど、これも大切な物です。何せ形になっている
  物は、これだけですから』って。大佐。形にならない何を奴にあげたんだよ」
 こんな時君の、頭の回転の良さを呪うよ。
 奴の含みに気付かないでくれれば、無駄に傷付くこともないのに。

 「さぁ……私の意志で彼に上げた物は、その本ぐらいだろう。奪われたものはあるにしても」
 「奪われてって!……処女とか?」
 年上を前にして、上官を前にして、や。
 恋人を前にして、それってどうなんだ?という酷い物言いに、反射的な拳が出た。
 ぼくん。
 ハボックに言わせると私の鉄拳制裁は、壮絶なのだそうだ。
 「つって!」
 案の定、大袈裟なくらいに叫ばれた。
 「馬鹿な事を言う、君が悪い」
 「だって、ロイさん。目の前に星が飛びましたよぅ……」
 目を閉じて頭を抱え組む様は、歳相応で可愛らしいのにな。
 わざと子供らしい態度を取って私の怒りを和らげようとする辺りは、こすっからい。
 冷ややかな目で見下ろせば、益々縮こまって一言。
 「大変失礼な発言を申し上げました。謹んで訂正してお詫び申し上げます……ゴメンナサイ」
 「ん。宜しい」
 目の端にキスを贈れば、へへへっと嬉しそうに私の体を抱き締めてくる。
 このまま行為に雪崩れ込んでもいいから、忘れてくれないかなぁと思ったがそれは、さすが
に甘かったようだ。
 「で?与えた物って、ナニ。ああ、奪われた物になるんか?」
 「……処女ではないが、体は何度か」
 「マジで!」
 「言い訳をしたくはないが、イシュヴァール時に、な。常時正気じゃないような状態だったから。
  勘弁して欲しい。私はあの時。自分を抱き締めて、その場所へ繋ぎ止めてくれるなら、誰
  でも良かったんだ」
 婚約者が居る上に、ノーマルのヒューズになぞ言えもせず。
 優しいノックス先生やエッガー大佐を、まさかそんな対象にはできもせず。
 自分よりも余程柔らかな心を持ったリザに、それ以上醜いものを見せたくもなくて。
 私を受け入れてくれるのなら、奪ってくれるのならば、誰でも良かった当時。
 まんま、飾らずに言葉を紡いでも奴は。

 別に、それで構いませんけど?
 貴方を抱ける至福の前には、些細なことですからね。

 と言って、想像していたよりもずうっと、優しく。私を抱き犯した。
 幾度も。
 嫌がっても、私が最後の一線を越えそうになっている時は必ず。
 とろとろと指の先から蕩けてしまいそうなSEXは、恐らく鋼のとはできないだろう。
 狂気の淵に立つ自分を、見せたくはないが故に。
 「まぁ。そもそも士官学校時代の時から無駄に懐かれてはいたんだが」
 「ええ?あいつって士官学校卒なの?」
 「や。招かれ講師でね。年に何ヶ月かの一定期間、教鞭を取っていたんだ」




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