「やですよぅ、准将?貴方を殺す事に同意したくらいで、反逆罪だなんて。その妄言の方こそ。
閣下への反逆罪じゃないんですか」
私は両手をポケットに突っ込んだままで、准将に近付いてゆく。
彼はもう、私を迎撃する気力すら失ったようだ。
着々と距離を縮める私を、空ろな目で眺めるだけだ。
これが、私のロイさんだったら、最後の最後まで諦めないで足掻くだろうに。
例えそれが、どんなにか絶望的な状況であっても。
「貴方、部下に恨まれている見たいですから。瞬殺は避けますね?」
つ、と准将の肩に手をかける。
その体内に流れる血の流れを、導火線に見立てて、思う場所を爆発させる。
「ぎぃいやあああああ!」
まずは、右膝から下を吹っ飛ばして見た。
バランスを崩して床の上転がりまわる准将へ、向けられる目は侮蔑と満足。
おやまぁ。
本当に心底嫌われていらっしゃる。
「助け!助けてくれっつ!何でもっつ、するから。して、みせるからっつ!」
右腕で喪った足を抱えながら、ずりずりと尻で這って後退する。
鼻歌交じりに追い詰めれば、すぐさま、壁にぶつかった。
「……とか、言ってるけれど。どうします?」
憎しみの目よりも、狂喜が強く。
虐げる事をSEXの愉悦にしていそうな。
それぐらい肉欲に塗れた瞳で、准将を見詰めていた一人の女性士官が、低い声で呟く。
「同じ言葉を言った私に。貴方は何をしましたか?助けてなんてくれませんでしたよねぇ」
「アレはっつ!貴様が、誘ったからっつ。仕方なくっつ」
「三ヵ月後に結婚を控えた私が何故そんな事をしでかさねばならないのです?まかり間違っ
て誰かを誘ったとしても、貴方だけは誘うものか!」
おやおや。
下半身も汚いとは、全く。
見下げた男ですねぇ。
「では、お嬢様。ナニでもふっ飛ばしますか」
「……そんなピンポイントな爆発は可能ですか」
「ええ、無論」
准将の頭に手を当てて、先ずは玉を一つ。
ぐげ、と奇妙な声を上げた准将がぶるぶると震える。
続いて、もう片方の玉も爆発させた。
小規模な爆発は、サイレンサー仕様の銃が放つ弾丸よりも静かだ。
がたがたと全身を揺らす准将のズボンは、股間の部分から際限もなく血が滴っている。
「これで種なしですけども」
「いい気味。でもやはり締めはきっちりとお願いできますか」
「了解です」
やはり怒らせて怖いのは女性の方だろう。
ロイさんが、ホークアイに頭が上がらないのが何となくわかった。
直接触れているので、繊細な術の発動も容易い。
私は女性の希望通り、ペニスを微塵にしてやった。
准将の口からは、既に狂気の笑いが零れ始めている。
エリートほど、自分の痛みに弱いんですよね。
足はさておき、ナニなんて、今後の生活になくてもいいものでしょうに。
まぁ。
私とて、ロイさんと繋がれるそれがなくなってしまうと思えば、寂しいけれども。
回りの様子を再度伺うと、男性陣は渋い顔をしている。
強制的に男性機能を失わされるというのは、憎い男相手でも多少の憐憫を覚えるようだ。
「もー殺してしまっていいです?」
「「「存分に」」」
けれど、准将の最後を決める言葉は、数人の男女の口から零れ落ちた。
人望がない上官の末路という奴が、これ。
戦場下に置いても、部下に殺される上官なぞ、数多居たものだ。
下を大事にしないというのは、そういう事。
見せしめも兼ねて、派手に殺しておかねばならないので、頭を吹っ飛ばす事にした。
汚れてしまうので、ロイさんの家に行く前にシャワーぐらいはして置きたいものだ。
ぶしゃ、と赤っぽい血と肉の中に、白い脳漿が飛び散った。
自分の全身も、すっかり血塗れだ。
「はい。おしまいです」
「……ご苦労様でした」
「いいえ。労われる事はしてませんよ。逃走は、窓からが無難ですかね」
「そう、ですね」
「では、私はこれで、失礼致します……あ!一つお願いが!」
「何でしょう?」
訝しげな顔だが、それでも聞く耳はあるようで良かった。
「えーとですね。マスタング大佐、ご存知ですよね」
「「「無論!」」」
おや、びっくり。
しかも、先刻の反応とは違って肯定的な色合いを多分に含んでいる。
「先程会話であった、私のご主人様って、彼の事なんですよ」
ざわざわと騒ぎ立てる彼彼女等の目には、まさか、そんな!という意味の否定が浮かんで
いた。
まぁ、確かにそう思いますよねぇ。
「いいえ。勘違いなさらないで下さい。私は彼に責任を押し付けようと言うのではなくてです
ね。私が勝手に、あの人が喜ぶかと思ってやってるだけで、忠誠を誓ってるだけで……
私はね。私の爆発を時に凌駕する、彼の焔がとても好きなのですよ……」
私の語りをどうとったのかは微妙だが、雑然とした雰囲気は随分と大人しくなった。
「……つまり、お願いとは」
「はい。マスラング大佐を助けてあげて欲しいというお願いです。今、彼。困った状況にあり
ますからね。人手、欲しいと思うんです」
「それは我らも重々承知しております。けれどしかし、マスタング大佐は我々を受け容れて
下さいません!」
「……接触を図った過去がおありか?」
「はい……ですが、気持ちだけで良いよ、と。今回の異動は大総統閣下命令だからと」
その言葉だけで危険性を察知した目の前の男は、外見のごつさに似合わず頭の回転が
速い性質らしい。
「……気にかけてくれて、本当に、ありがとう、と」
「なるほどね。全く……ロイさんらしい……」
くすっと笑った私に、男は切羽詰った風に旨の内を晒して来る。
本当、色々な方に。
特に部下には、愛される性質ですよねぇ、貴方。
はー妬ける、妬ける。
「それでは、今回私に踏み込まれたのがきっかけで、目を付けられたかもしれないから、ロイ
さんの下につきたいと申し出てみて下さい。術技的にも私に匹敵するのは、今、彼ぐらいで
すから」
「わかりました。大佐の下につけなくとも。今後、ここにいる人間全てがマスタング大佐に忠誠
を誓うと約束しましょう」
彼の小気味良い程の言い切りに、他全員が、一糸乱れぬ敬礼をして寄越す。
これで、駒は増えた。
ロイさん嫌いの准将の部下が、まさか心の底からロイさんを慕っていたとは思うまい。
人事は程なく速やかに行われるだろう。
「あの……」
先程、准将を事の他冷ややかな目で見ていた女性士官が、恐る恐る手を上げる。
「何ですか」
「質問を、よろしいですか?」
「どうぞ」
「何故、そんなに。マスタング大佐を心配なさるんですか」
「先程申しましたけれど。単純に好きなんですよ。あの人は私の知るただ一人の戦友です
から」
「戦友?」
「正気で、イシュヴァールを生き残って尚。軍を正そう何てお馬鹿な事を真剣に考えてしまう
所がね、大好きなんです」
さらっと大胆な事を言ってみたが、皆さん素で流していらっしゃる。
ロイさん?
貴方の野望、結構ダダ漏れかもしれませんよ?
大総統に牙を剥きながらも、膝を屈する今。
その方が良いかもしれませんけれどね。
「自分と正反対だから、ですか」
「はははは。まぁ、そんな所です。あの人は私の事大嫌いだと思いますけどね。今日の事も知
れたら怒り狂って燃やされてしまうかもしれません。あくまで、私が、勝手にやった事です。
その点だけは重々承知して下さい」
「「「サーイェッサアー」」」
「私が、窓から飛び出て五分後ぐらいに連絡をして下さい」
「イエッサー」
「もし、何で迅速に手配できなかったか問われたら。言う事を聞かないと時限爆弾をセットす
ると脅されたと、言って下さいね」
「ありがとうございます」
「や。礼を言われる事ではないんですが……調子狂いますよね」
彼等の心配をするなんて、焼きが回ったかな?
ああ、結局それも、ロイさんの手駒を増やす為。
ロイさんの為だから、別に問題なかったですね。
「では、失礼致します」
窓の上、すっと立って彼に向かって深々と頭を下げれば、全員の更に深いお辞儀で以っ
て返された。
ふわっと、窓から飛び降りながら私は。
強敵になったであろう准将の殺戮と、忠実に仕えてくれるだろう部下の手配を、ロイさんが受
け容れられるように報告しなければならないと、その物言いばかりを考えていた。
追っ手がかかったのは、きっちりと五分後だった。
END
*まぁ!またしても部下に愛されまくりのロイさん登場。
他の部署の部下まで誑かしてどうします?
この設定でエロに走りたかったので、続編『震える』に続きます。
しかし、この設定だとハボロイ前提になるんだろうか。
ちゅう程度のぬるめなハボロイ設定でもいいし。
比べても良いですよ?とか言われるくらいのベタなハボロイ設定でもいい。
何はともあれ、自分誰某前提が好きな模様。やれやれ。