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 引き離すとどちらにも傷が残るだろう。
 准尉に残る傷に関しては知ったことじゃないが、ロイさんを傷付けるのは冗談でもごめんです。
 「……アナタには忠犬で、猟犬なんですね?」
 「……これから先の一生涯。私にしか懐かないだろうよ」
 「わん!」
 「ジャン・ハボック准尉?」
 「さー?」
 はいはい。
 一応人語もしゃべれるんですね。
 私だからいいけれど。
 「ロイさんには、ちゃんと『サー』と発音しなさいね」
 こくりと頷く。
 どうやら、ロイさんを尊敬もしているようだ。
 恐らく飼い主と認めているのだろう。
 まぁ。
 盾は幾つあっても良いし。
 ロイさんが、こうやって穏やかに微笑めるのなら反対はできない。
 「本日をもって、貴殿を焔の錬金術師、ロイ・マスタングの護衛に任命します」
 「J?」
 「さー!いえっさっつー」
 ぴんと立った犬の耳と、ぶんぶんと大きく振れる尻尾が目に見えるようだった。
 満面の喜色を浮かべると、案外と人懐っこい顔になる。
 想像していたよりも若いのかもしれない。
 「敵は無論。軍内部でもロイさんに仇なす者があれば。これを迅速且つ徹底的に排除しなさ
  い」
 「……紅蓮の錬金術師殿も、でありますか?」
 「……いい度胸をしてますね。私がロイさんの足手纏いになるような事には死んでもありま
  せんよ…が、許可しましょう」
 我ながらロイさんへの執着が度を越していると自戒する場面も少なくない。
 この犬は、私の暴走する感情の抑制にもなるだろう。
 「お前、本当に飼うのを許してくれるんだな」
 「護衛犬としてね。まさか貴方。犬とする趣味はないでしょう」
 「私とSEXしたがる物好きはお前くらいだよ、キンブリー」
 手招きをされて近寄れば、ぐいと准尉を抱える逆の手で首根っこを掴まれて、引き寄せられ
た。
 唇にしっとりしたキスが届く。
 准尉の嫉妬の視線は、私を焼き殺さんばかりだったが、これでけは譲れない。
 人と犬の差をね。
 恋人と護衛の関係の違いをね。
 はっきりしておかないと。
 「する時は、ちゃんとテントの外へ追い出して下さいね」
 「……リザの所にでも置いて貰うよ」
 「わふ!」
 「……綺麗なリザはお前も好きだろう、ハボック。お姉さんみたいで」
 「わふわふ!」
 「今に始まった事じゃないですけど。鷹の目さんと貴方の関係も不思議ですよね」
 ロイさんが、頼めばきっと。
 周りの目や声など気にもせず、彼女は大型犬を一時預かるだろう。
 そしてそこに、ロイさんを守るという共通の仲間意識は派生しても、下世話な人間が憶測
する甘い関係は生まれない。
 まぁ。
 彼女は精神的にはさておき、肉体的にはロイさんを、抱く、存在にはなり得ないから共存し
ますけどね。
 「そうかな?私にとっては皆大事な人達という認識しかないが」
 「これは、犬でしょう?」
 「ああ、そうだよ。犬と昼寝楽しみだぁ」
 「……ロイさん?」
 「怒るなって。昼寝はするぞ」
 ……この女王様め!
 「……それはさておき。護衛としての腕前も近く見せて貰いますよ」
 「ああ、わかっている。そればかりは実際目にしないと納得できないだろうからな。明日の
  前線にでも連れて行くがいい」
 「ちょっと待って!何の為の護衛です!」
 「……私を護る為の、だろう?しかし、お前。そうでもしないと実力はわからんじゃないか」
 「エッガー大佐にお願いして半日だけ、貴方の部隊に個人で参戦します」
 そして残りの半日で、本来私に与えられた任務をこなせばいい。
 他の錬金術師よりは多めの設定にされているが、私にとってはどうというほどでもないのだ。
 「あまり、大佐に我侭言うな?」
 「貴方が、大人しくしてくだされば、言わないです、いんですけど?」
 「わん!」
 「ほら、貴方。犬にまで賛同されてるじゃないですか」
 「はぼっく!」
 「わふん」
 十年も連れ添った飼い主と犬にしか見えないが以心伝心ぶり。
 先の嫉妬はあるし、放置もできまい。
 ロイさん共々、しばらくは目の届く所に置かないとな。
 私の葛藤なぞ気が付きもしないのだろう。
 一人と一匹の睦み合いは、私の目の前。
 私が准尉をテントから追い出すまで、繰り広げられた。



 

                                                    END




 *この設定でキン様VSハボが見たいなぁ。
  しかも、戦場で。
  能天気なロイさんが『おお、凄いなぁ。二人とも』
  とか言って双眼鏡で見てる隣で、エッガー大佐が深い溜息をつきながら。
  『私はそんな君が一番凄いと思うがね』
  とか言うの。
  一人妄想して煮えてます。全く駄目ですね。





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