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 目を閉じるように瞼を撫ぜられて、大人しく目を伏せれば更に瞼の上、唇をあててくる。
 「彼は駄目です。近くに、寄せないで?」
 「無論だ。今は油断したが。側には寄せないよ」
 「……僕じゃない、人を。恋人にするのだとしても。あの人だけはやめて下さいね?」
 「アル君っつ!」
 君にだから、私は抱かれたのだ。
 そうでなければ、この私が。
 年下の、男性になど股を開くものか!
 「……あの人は、ロイさんを駄目にする。僕とは違う意味で」
 「一体どうしたって言うんだ?」
 全く私の声が届いていないような悲観具合。
 時々、こうやって一人。
 暗い思考に沈んでゆく事がある彼だったけれど。
 ここまで、私の言葉を聞かないのは初めてで、未だ紅蓮のの態度に興奮が冷め遣らぬ混乱
が、更に悪化しそうだ。
 「僕は、貴方が納得している上で貴方を、駄目にしてしまうところが確かにあるけれど。あの人
  は、紅蓮の錬金術師は……」
 きしきしと、骨が鳴った。
 息苦しさに眩暈までしてきたが、必死のアルフォンス君を引き剥がす事はできない。
 「貴方が望まぬ形で、貴方がそうと、気がつかぬ内に。貴方を……壊してしまう、から」
 大きく見開かれた、腕の中に居る私すら映さない透明で空ろな瞳から、ころりと涙が転がる。
 胸が締め付けられる切なさに煽られるまま、私は必死に彼の瞼に唇を寄せた。
 呼吸が厳しくて震える唇に、気がついたのだろう。
 不意に拘束が緩やかな物になった。
 「……ごめんなさい。抱擁が強過ぎますね?これじゃあ、彼を責められません」
 楽になった息をアル君の唇の上に吐き出して、そのまま唇を合わせる。
 軽く触れれば、同じ風にそっと唇を食まれた。
 ゆっくりと離れ行く腕に、極度の不安を感じて、強く引き寄せる。
 「アル君!」
 私より十センチ以上違うので、見上げる形になれば、今度は額に唇が届いた。
 「……もし。貴方が紅蓮の錬金術師に捕らわれたとしても。僕は貴方だけが好きですから」
 「杞憂だ、アル君……そんなに私が信じられないのかな?」
 時々言葉が足りない時があるからなぁと、ノックス先生他、部下や親友にも言われた。
 彼にだけは惜しんでいるつもりはないのだけれど。
 もしかしたら、私の言葉が足りないのかもしれない。
 「いいえ。貴方の事は信じています。露ほどに疑っていない……ただ、紅蓮の錬金術師は、
  貴方を知り過ぎているんです。もしかしたら僕よりも……」
 儚い微笑だった。
 諦めの、笑顔だった。
 まだアル君が鎧の身体であった頃に、よく目にした表情だった。
 「まぁ、僕も簡単には引きませんし。最悪貴方を、共有します」
 「共有って!アルフォンス!」
 「ふふ。アルフォンス、って呼び捨てられるのもいいですね」
 さすがに怒りを纏った声に、アル君は何故か何時もの穏やかな笑顔を取り戻す。
 「と、とにかく!君が何を思って紅蓮のをそんなに重要視するのかわからないが、私には君
 だけだから!共有なんて嫌だぞっつ!」
 「はいはい。わかってます……ただ、僕の覚悟をね。知って欲しかっただけです」
 覚悟なら私だって君を選んだ時に。
 君に抱かれる度にしている。
 何があっても君を手放す気はないし。
 離れてゆくのも許さない。
 間抜けた逃げの段階は私の中、もう過ぎてしまった。
 
 それこそ、君と紅蓮のに。
 共有されるのを許すぐらいに君が必要なのだと。
 口にすれば君は、安堵するのだろうか。

  


                                                 END




 *何か恋愛スキル低そうなロイさん、キン様とアル君にいいようにされてしまえばいい。
  ラスト三行で、すこんと話を落とすのが大好きなんですが、中々上手にはいきません。
  共有される続編を書いたらすみません(汗)




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