メニューに戻る次のページへ




 


 「……ロイさん?」
 ソファに寝そべって読書をしていたら、後ろからキンブリーが覆いかぶさってくる。
 「どうした?お前がこういう時に、懐いてくるなんて。珍しい」
 錬金術関係の書を読んでいる時は、声をかけない。
 それは、お互い国家錬金術師である私達の不文律。
 私は首を捻じ曲げて、ちょいっと頬を指先で突付いた。
 「人を何だと思っているんです?何時だって懐きたいのを遠慮してるんじゃないですか」
 「どこが遠慮してるんだって?執務室ではあれこれ仕掛けてくる癖に」
 同じ階層には居る。
 全く係わり合いがない部署、という訳でもない。
 だからといって一日中入り浸られて、自らソファを買って出て私を抱えたまま仕事をするな
んて、あんまりにも非常識だ。
 あのホークアイ中尉ですら、もう咎める気力もなく、きつい眼差しで一言。
 それも私に向かって『早くどうにかして下さい』と言うばかりだ。
 「ラブラブなんですよ?恋人同士なんですよ?四六時中いちゃいちゃしたいと思って、どこ
  か不自然なんですか」
 「四六時中ってお前なぁ?プライベートな時間はお前としかいないのに、どこが不満なんだ」
 たまには部下を誘ってやりたいとか。
 親友と飲みに行きたいなって思っても。
 キンブリーが『爆発させますよ?』なんて脅すから。
 軍部に詰めていない時間は、全てこいつのモノなのだ。
 「不満も不満。仕事中だって一緒に居たくて私、軍に居るんですよ?貴方、仕事やめたくな
  いっていうし」
 お互いが国家錬金術師。
 しかも実力は、常にベスト十入りしている。
 研究にしか興味が無い私と、私にしか興味がないキンブリーの貯蓄だけでも一生暮らしてゆ
けるの実力者なのだ。
 「国民の平和の為に軍に身を投じるなんて。本気で思っている貴方が時々すっごい馬鹿に
  見えますよ」
 「馬鹿か?」
 「馬鹿でしょ。こんなにいい男をめろめろにしておいて、仕事を最優先するっていうんですか
  ら」
 「自分でいい男なんて言っていれば、世話ないな」
 「いい男でしょうが?何せ貴方が唯一に選んだ相手ですからね」
 ふふんと自慢げな態度には苦笑しかできない。
 性質には、とてつもなく問題があるし、どう考えても悪い男でしかないのだが、私はこいつが
いいのだ。
 
 私を化け物扱いしない、希少ない存在で。
 私と同等の闇を抱える、稀有な存在だから。

 「もういっそ、とっとと大総統まで押し上げるしかないんでしょうけどねー。そうしたら、貴方。
  益々軍に時間を裂きそうじゃないですか」
 「そんな事はないぞ。大総統までいけて、治安が落ち着いたならば。相応しい人間に後を託
  して、お前と二人。研究三昧だ」
 「軍を辞めても、研究をやめないんじゃ、変わらないですよ……」
 やれやれと肩を竦めるキンブリーだったが、研究に関しては意外にも心が広い。
 より己の爆発の精度を上げる為という、物騒な研究を、怠らない面も確かにあるからだ。
 「とか言って。お前だって実験中は、私の相手をしないだろうが」
 「それは危ないからですよ!私が操るのは『爆発』ですからねー。どんな状況下でも、貴方
  だけは傷つけない自信がありますけど。万が一なんてあったら御免ですから」
 ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる腕の熱心さに、絆されかけた頃。
 キングリーがとんでもないセリフを吐く。

 「……何だ」
 いわゆる所の猫撫で声という奴。
 他の誰がするそれよりも、こいつの甘えた呼びかけが始末に終えない。
 「したいなー?」
 「お前…私よりもよく、私の状態を知っているだろう」
 本を読んでいる状態の事ではない。
 「だって、そそられちゃったんですもの」
 「お前は何時でも、そそられっぱなしだ」
 「そりゃロイさんが、誘うから!」
 「誰が何時、誘った!」
 耳朶をかぷりと噛まれて、竦めた肩を宥めるように撫ぜられながら囁かれるあんまりな、
セリフ。
 「貴女は何時でも、私を誘いますよ?」
 「……万年色情(いろ)狂いめっつ!」
 「冷たいです、ロイさん。欲情する貴女に何時だって応えられるように、した結果なのに」
 やれやれ、と背中の上で困った風に首を振る奴が。
 実は、私と付き合う前までは案外と淡白で、いざ、するとなれば女性を女性と思わないよう
な鬼畜一直線なSEXをしていたのを知っている。
 私は、こいつが初めての相手だったのがどうにも恥ずかしくて、それなりに有名だったキン
ブリーの女性関係をみっともなくも責めた時に、言われた。
 『え?私も相愛のSEXはロイさんが初めてですよ?今までのは排泄行為に過ぎませんか
  ら。何だったら犯した女呼び出しましょうか?ちょっと脅せば、俺がしたコト。しゃべって
  くれますよ』
 嫉妬する私に、蕩けそうな眼差しを向ける癖。
 放たれた言葉は凄まじかった。
 私を焦らしはするが、痛くも酷くもした事がなかったから、余計に。
 今までの性癖を、私の為に変えてくれたのは本当。

 でも、私が淫乱設定なのは認めないがな!

 「今だって、ほら」
 「やっつ」
 前にはソファ、背中にはキンブリー。
 体重が掛かった状態なのに、強引にソファと私の身体の間に手を入れられる。
 乳房を激しく揉まれた。
 「こんなに、張りがある」
 自分では良くわからないのだが、奴曰く。
 感じ始めると、掌に吸い付くような弾力と張りが出てくるらしい。
 「乳首だって、ほら。服越しにも勃起しちゃってるの、わかりますよ」
 「それは!お前がきつく、抓るからだろう」
 ブラジャーとタンクトップの上にシャツを羽織っていても、キンブリーの指先は私の乳首
を正確に探り出して、抓ってしまう。
 「え?じゃ、そおっとしましょうか。そおっと」
 もっと触って欲しくて隙間を空けてしまったので、容赦なく私の乳房を自由に出来る体勢
にあるはずなのに、わざと指の腹でそっと撫ぜてくる。
 確実に触れている指先だが、優しくて、じれったくって。
 もっと、して欲しい、という淫らな感情が浮かんで、首を振った。
 



                                             メニューに戻る次のページへ
                                             
                                             ホームに戻る