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  陽炎



 「はやくしてよ、村雨」
 ベッドの上、上着を脱ぐ村雨の膝の上に乗る。
 「んなに焦るなよ、紫(ゆかり)」
 こしょこしょっと、優しく喉元を擽る村雨の手をパンと叩いた。
 「紫なんて呼ばないで!」
 私をそう呼んでいいのはたった一人。
 「いいじゃねーか。名前を呼ぶくらいよ?」
 彼以外には許さない。
 どんなに親しい女友達でもゴメン。
 「嫌っ!紅葉以外に下の名前でなんか呼ばせないわ」
 愛しい、私の半身。
 「紅葉は、呼ばねーな?」
 村雨の指摘通り、紅葉は私を紫とは呼んでくれない。
どんなに強請っても悲しそうな顔で首を振って、諭すように。
 緋勇、と呼ぶ。
 さん、がとれただけでも、ましって奴。
 「余計なお世話。ほらっ!早く勃起せてよ」
 だから私は、せめて紅葉と繋がっていたくって、紅葉を抱く村雨と寝る。
 「お前さんねー。男はデリケートな生き物なんだぜ。あんまし無茶言ってくれ
  るな」
 「男ならね、デリケートでしょうよ?でも貴方は獣じゃない。紅葉を抱く手で私
  を犯すでしょ」
 私が望まなければ、否、脅さなければ村雨だって私なんかと寝やしない。
 大事な大切な紅葉だけを抱いて、十分すぎるほどに満足しているのだから。
 「はいはい。いつでも貴方様が正しいですよ」
 項垂れた肉塊を自分の手で擦りあげるのを、見下すようにして眺める。
 元気のない状態でも楽に、普通の男の勃起状態を維持している村雨自慢
の肉塊。
 つい何時間か前までは、紅葉の中に入っていた肉が、欲しい。
 「せめて、もそっとこう。俺が盛り上がるようなことやってくんない?」
 何度紅葉の中に吐き出したのかはしれないが、不安がる紅葉を慰める為だ。
 精力が充実している高校生を気絶させるくらいの回数はこなしてきているはず。
 すぐに、勃起させるのが無理だなんて、言われなくても知ってる。
 「仕方ないわね」
 申し訳程度に素肌にまとっていた、バスタオルを体から落して、既に滴りだして
いる自分の秘所を肉塊の前に突き出して、ひたりとあてる。
 「んんんっつ」
 肉塊の筋に沿って、押し付けるように動かしてみれば。
 「ああ、いいな。それ」
 ぐん、と一気に硬さを増した村雨の硬直が、何で好きでもない男と寝るのにこ
んなに濡れるのか、と我ながら嫌になるほどに潤った秘所に、問答無用の激し
さで差し込まれた。
 「ちょっと!」
 髪の毛を思い切り引っ張るが、そんな抗議で村雨が動じるはずもない。
 太ももを抱えあげられて、すぐさま、イイ所まで入り込んできた肉塊は、たまら
ない堅さを誇示している。
 「ん。はあああっん」
 満足げな声をあげてしまったのに気が付いて眉を顰めれば、優しい舌先が触
れてきた。
 「体にぐらい正直になればいいんじゃないですかね?」
 息一つ乱さずに、ぱんぱんと腰を使うのが、どうにも憎らしい。
 「紅葉のじゃなければ、きっと誰でも一緒」
 「なら、尚更だ。好きな男を想像しながら、イけばいいだろ」
 「あんたに、言われるまでもないわ」
 目を閉じて、紅葉に抱かれている自分を思い浮かべる。
 理想的に筋肉がついて引き締まった身体。
 いつもは冷たい唇も、最中はきっと熱くなるだろう。
 細くて長い指先は、きっと私を翻弄して、満たしてくれる。
 さんざん指と、口と、僅かな囁きと、荒い吐息で施された愛撫の後には。
 私の中にぴたりと入るサイズの肉塊が、どっぷりと埋め込まれて。
 これ以上はないほどの、一体感を伴ったまま、高みを迎えるのだ。
 中でイける程度には場数を踏んでいるから、もしかしたら一緒にイけるかもし
れない。
 一体、どれほど私を快楽の海へと誘ってくれるのだろうか。

 全く。

 儚い、夢だ。

 「紫、出るぞ」
 「今日こそ、中に出しなさいよ!」
 中はできうる限り、ぎゅうぎゅうと締め付けて、しっかりと村雨の腕を捕まえる。
 ラストスパートに向かった村雨の腰使いには、慣れても尚、翻弄されてしまう。
 「ん!あうう」
 ぐっと奥を突つかれて、イってしまう。
 そういえばいつも、村雨は律儀に私を中でイかせる。
 太ももをびくびくと震わせて、余韻を楽しむ間もなく、村雨の肉塊が引き抜か
れた。
 「抜いちゃ駄目っつ!」
 いつのまにかシーツを掴んでいた手で、村雨を引き戻そうとしたがもう遅い。
 抜き出された村雨の肉塊が目の前に突き出され、どくっと、顔に吐き出されて
しまう。
 「うわー顔射なんて、最悪」
 とろとろと頬の上を伝う精液を、慌ててティッシュで拭う。
 パックをした時のように、端から乾いていくのだから待っていればいいのかも
しれないけれど。
 乾いた精液をぱりぱりとはがす作業ほど、虚しい物はない。
 「中出ししろって、言ってるのに」
 「……男なら喜んでってー、セリフだよな?」
 「それがよりにもよって、顔射なんてどうよ!」
 「それはそれで、男のロマン」
 「馬鹿言ってなさいよ」
 村雨の子供でも孕めば、さすがの紅葉も愛想をつかすと思うのだけれど。
 なかなか旨くいかない。
 「俺が言うセリフじゃねーけどさ。もーいい加減にしとけば?空しいだけだろう
   が」
 「確かに空しいわよ。村雨となんて寝たくないもの」
 ただ、もう足りないのだ。
 紅葉に抱かれることのない体。
 決して満たされるない心。
 





                           
    
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