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 「きんぐっつ。キングっつ」
 「ん?」
 「もう、いいからっつ。もう、だいじょうぶ、ですからっつ……また…入れて下さい」
 「平気じゃないだろう?」
 「でもっつ。欲しいんです。先刻より、は。痛みも薄いと思うから」
 若くして最前線を走り抜けた国軍大佐だ。
 痛みにはかなり強い性質であることも知っている。
 避けられない痛みを、どう軽減するかもお手の物ではあろう。
 けれど。
 「痛みは、与えたくないんだけど」
 何度も言った。
 大総統という立場が下した命令は、彼女の体や心を数え切れないほど傷つけただろう。
 だからこそ、直接触れる時くらいは、せめて。
 痛い思いをさせたくない。
 身も、心も。
 「それが……私の望みです……それに、閣下」
 僅かに緊張の解かれた唇が、髪の毛に届く。
 そのまま移動した、耳朶に触れんばかりの唇が。
 「我慢は、おつらいでしょう?」
 やわらかな言葉を、やわらかな音域紡いだ。
 「……君は、本当に……ああ、もう……どうしたらいいんだろうね?」
 この、愛しいという感情は。
 君で覚えた。
 君へ捧げる感情なのに。
 「入れて、下さい?」
 頑なに拒否する君が、それでも愛しいのに。
 ……ああ、そうか。
 これが、切ない、か。
 全く。
 君と一緒にいると新しい感情ばかりと、覚えさせられて困るよ。
 体勢を戻して、穏やかなキスを額の上に落とす。
 彼女は、それを従順に受け、更に目に見えて力を抜いてみせる。
 今度は入れるよ、とは言わなかった。
 入り口に触れた、と感じた瞬間にもう。
 括れの部分までを、奪う強引さで押し込んでしまう。
 「かっつ……はっつ」
 息もできない苦しさに、彼女の綺麗な黒目が大きく見開かれた。

 潤む黒目が、中途半端に開かれた唇が、堪えきれぬ苦境が。
 しかし、それでも私を放さない必死さが、何より。
 私の心を雁字搦める。
 一番難しい箇所を銜えてしまえば、後は勢いのままでも何とかなるものだ。
 私は、ロイの中が吸い付いてくるのを楽しみながら、深く、深く、最奥へと腰を入れてゆく。
 時折、いい所を擦るのか、あるいは痛いのか。
 受け入れよう、受け入れようとする中が、急に拒否をする。
 その、緩急は。
 情けなくも放出してしまいそうに気持ちが良かった。
 SEXで、心底気持ちが良いと思ったのは初めてだ。
 今までの行為はほとんどが義務でしかなかったから。
 己が望んで抱く体は、自我を崩壊させてしまうかもしれない錯覚すら起こさせる。
 それぐらいに、溺れている自覚は、ぎりぎりあった。
 「あ、ああああっつ」
 そして、とうとう私のナニがロイの一番奥深い所を犯した。
 こつんとあたった感触は、子宮口かもしれない。
 ここを、突いてもいかせたいなぁ……。
 「きんぐ…なにを……かんがえて、いらっしゃる、のです?」
 またしてもにやけてしまったのだろうか。
 ロイの指先が私の頬を辿る。
 「君のこと以外、何を考えるというのかね。この状況で」
 先端だけを、くちっと前後に動かした。
 「ああっつ」
 「こんなに可愛らしく鳴く子以外の、何を?」
 今度はずるずると引きずり出して、もう一度慎重に入れ直す。
 開通させた時よりは、余程スムーズだった。
 「でも、何か……かんがえて、いらした……でしょ?」
 おや。
 愛らしい語尾だ。
 「……まぁ。考えては、いたよ。聞きたいかね」
 「ええ」
 先端があたるこりこりした部分に、強く腰を入れながら耳朶を噛む。
 「ロイの、一番、奥の。ここをね。うんと突き上げていかせたいなぁって……考えたよ」
 「あああっつ。んっつ、あ、あ、あ」
 どれだけ気持ちが良いのだろうか。
 痛みに怯える声ではなかった。
 「ロイ……痛く、ないのかな」
 「痛みは、多分にあります……けれど」
 「けれど」
 「それは、忌むべきものではないので」
 ああ、なるほど。
 そういう、コトか。
 この痛みは、痛みこそがロイの望んだもの。
 望んだものを手に入れて、気持ち良いのだろう。
 嬉しいのだろう。
 満足ですら、あるのだろう。
 声に艶があるのは、そのせいだ。
 「忌むべきものじゃない、ではなくて。早く悦ばしいもの、に、したいねぇ?」
 「……して、下さるのでしょう?」
 「……そうだね」
 額に唇を寄せれば、眼帯の上へキスが届く。
 「きんぐ?」
 「ん?」
 「眼帯、外した状態で、して。くれませんか?」
 それは、どうだろう?
 眼帯を外すという事はそのまま、ホムンクルスとしての力を解放することになる。
 押さえの効かない状態で、貪られる事こそが、彼女の望みなのだろうが……私は彼女を
壊したくはない。
 「それは、今度にしてくれたまえ」
 「……残念です」
 「まぁ。眼帯の事を忘れるくらいには、溺れさせてみせるよ」
 「お願い、します」
 はんなりと微笑まれる。
 最中の微笑ではなかったが、そんな笑顔も良い。
 私は、根元まで挿入したままの状態で、彼女の腰を抱え直した。
 「では、存分に」
 心臓の上に唇を乗せた私は、己の鈍い快楽が頂点を極めるまで、長く、腰を振り続けた。

 「……本当に、朝になってしまったな」
 まさか、彼女となった身体が、そこまで保つとは思わなかった。
 素晴らしい耐久力だと思わず賞賛の言葉が出てしまう。
 結局私は、彼女が気絶するまで一度も抜かずに、中は無論、全身を愛撫し倒したのだ。
 「つ、と」
 まだ硬さはあるが、勢いのなくなったナニを抜き取る。
 数度の放出だが、量は多く濃いものだったらしい。
 完全に弛緩した彼女の秘所からは、とろりとろりと私の精液と彼女の鮮血が交じり合って
溢れ出てくる。
 始末をしようかと思ったが、彼女的にはこのままの方が良いだろう。
 自分が、思う様。
 蹂躙されたと思い込めるだろうから。
 実際、処女相手にするSEXではなかった。
 私の愛情は、彼女に決して届かないだろうしね。
 だから、現実。
 ロイは満足するはずだ。

 でも、もし。
 彼女が満足しないのだとしたら。

 私はSEXではない形で、彼女の要望に応えよう。
 もっともっと、効果的に。
 ヒューズ君への復讐はできるのだ。
 肉を拒否した彼にとって、情を見せ付ける方がよりダメージを与えられるのだと告げれば、
もう随分冷静になったはずのロイは、素直に私の意見に賛同するだろう。

 「だから、私は。約束しよう」

 君が、本当の意味でヒューズ君への復讐をなす為に。
 あらゆる協力は惜しまない、と。
 例えそれが、私を破滅へと導く羽目に陥っても必ず。
 君との約束を守る、と。




                                                      END




 *へわわわ。やっとこさ、終わりました。
  まだまだ続くと思っていたので、書いている本人もびっくりです。
  やっと違う視点の話がかけるので、幸せな気分に浸っております。
                                   2008/05/20




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