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 「はい」「んじゃ、それで」
 リザはそのまま、ブレダは蜂蜜をたっぷりと入れてくるくる掻き混ぜる。
 私も蜂蜜を入れ、金色の光が紅茶に交じり合うのを見届けてから、一口飲んだ。
 思わず、ほっと、溜息が出るほど美味で、気分が安らいだ。

 「ロイ……大丈夫?」
 「……ああ。すまなかった。もう平気だ」
 紅茶のリラックス効果を借りて、私はようやっと覚悟を決める。
 「貴女が行方をくらました後。私達の協力が一切得られないと知った奴は独断で、捜査を決行
  しました」
 「軍法会議所の力をフルに使って……さすがに。鮮やかなものでしたよ」
 「貴女が、閣下を含む高級仕官の誰かの庇護下に匿われていると、断じた所で動きは一人で
 動くのに切り替えましたね」
 「一人一人弱みを見つけて丁寧に潰している最中です。実に執念深い」
 く、とらしくもなくブレダが口の端を上げる。
 彼は、マスタング側近の中で実は一番温柔な性質だった。
 それを、捻じ曲げてまで奴を憎憎しげに語る。
 余程腹に据えかねているのだろう。
 私が閣下の下、娘のように溺愛されて三ヶ月が経とうというのに。
 いまだ私が、あいつに怯えてしまうからだろうか。
 「後数人潰せば、閣下に辿り着くでしょうね」
 「……あいつは、私が閣下の側に居るとは思わないんだな」
 「でしょうね。ロイの執着を甘く考えていたのでしょう。お爺様は一発で見抜きましたよ?」
 その一言には苦笑しかでなかった。
 閣下に抱かれて三日後。
 母様がお茶を入れている最中に、彼は現われたのだ。
 『やっぱり、ここだったんだねぇ』
 と、確信めいた笑顔のままで。
 「怖い方だ」
 「あら。そんな事ロイが言っていたって告げたらお爺様、泣いてしまうわ」
 何も言わずに沈黙を守っていた私に、グラマン中将は言ったのだ。
 『彼以外の。君を心配している子等に、この事を教えても良いね?』
 と。
 まだ少し、ヒューズを思い起こさせる存在達とは縁を切って置きたかったのだけれども、我が事
よりも心配している様が目にも浮んだので、こくと頷いた。
 「中将も、パーティーには出席するとおっしゃってましたよ」
 「ロイの艶姿が楽しみですって。できればダンスもしたいって言ってたわ」
 「勘弁してくれ。閣下のお相手だけで手一杯だ」
 私のお披露目パーティーは、今日の朝食でその日時まできっちりと確定した。
 キングの言うとおり、母様もセリムも恐縮するほどに喜んでくれた。
 私以外の全員が、既にその準備にも取り掛かっている。
 「女性向けのパートは踊った事がないからね。修正するのが大変だよ」
 「それなら、尚の事。お爺様の相手をお願いしたいですね。足を踏まれても喜んでくれる相手
  は稀少ですよ?」
 「リザ……」
 「……あの男も来るんですか?」
 「閣下が直々に招待状を贈ると言って下さった」
 「それは、上々。貴女の幸せな様を見せ付けましょうね」
 「ああ……そうだな」
 三ヶ月ぶりに会うヒューズは、私を見て一体どんな顔をするのだろう。
 全く想像がつかない。
 
 ただ。
 これで、私の復讐がなるのかもしれないと思えば、嬉しいような。
 切ないような感情が、私の胸を詰まらせた。





                                                       END




 *あれ?まだ続くと思ったんですが、さくっと終わってしまいました。
  次回、ひゅーさん視点のお話です。
  ロイさんのパーティー仕様の格好を考えるのが楽しみですよ!
                              2009/02/15




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