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 なるほど、ね。


 「おはよう、ロイ」
 天蓋ベッドの中、一人眠る私の額に降りてくるキス。
 毎朝恒例の挨拶。
 「……おはようございます。キング」
 寝起きの悪い私は、それでも彼の首に何とか手を回して引き寄せると、その頬に口付ける。
 「……何時になったら、父様と呼んでくれるのかね?」
 「……母様やセリムの前では呼んでいるでしょう?」
 「二人きりの時も呼んでくれないと、不満だ!」
 公式年齢ろくじゅう何歳だかの、最高権力者の言葉じゃないだろうが。
 「では、いってらっしゃいませ。とーさま」
 呼ばねば何時までも拗ねるから仕方ないので、投げやりに呼んでみる。
 「ろいーぃ」
 今度は地団駄を踏んで駄々を捏ねまくられた。
 ……これも、どうなのかと思う。
 「今日は皆と一緒に朝食をする約束だったろう」
 しかし、その言葉に私の目は一気に覚めた。
 「!そうでした。母様とセリムは?」
 「安心したまえ。まだ準備中だ」
 「……ありがとうございます。私が寝坊してると思って、先に起こしに来てくれたんですね?」
 「昨晩、しこたま本をプレゼントしてしまったからねぇ」
 今度から、冊数を減らして頻度も下げるよ、と苦笑された。
 キングが与えてくれる本は、実に多岐に渡っていて興味深く、ついつい時間を忘れて読み
ふけってしまうのだ。
 「……自重します」
 「細に責められるからね?ほどほどに頼むよ」
 「はい」
 「さて、今日の服は」
 「キングの趣味で」
 「朝から大サービスだね!」
 「私が選ぶと母様が、溜息をつかれるので」
 「あれは、君が女性らしい格好をするのを好むからなぁ」
 言いながらキングは、クローゼットを開けて衣服を物色する。
 「ん!ロイ。このピンクのミニワンピと白のリボンドレスは知らないぞ!」
 「ああ。先日母様に買って頂きました」
 私は溜息混じりに答える。
 母様は、女性の大半がそうであるように買い物が大好きなのだ。
 大総統閣下の妻という立場にあり、日々目が回る忙しさだというのに、時間をちょこちょこ
見つけては私を誘い出して、二人きりのショッピングをしたがる。
 勿論、ショッピングの後は、アフタヌーンティーのおまけつき。
 お陰様で私は、ここ数ヶ月で大きなホテルで喫茶は一通り攻略してしまった。
 「……なんで、細とばっかり!」
 「……貴方からも、クローゼットから溢れんばかりに頂いていますよ?」
 「私は贈るだけだろう!細みたく一緒に選べる訳じゃない!」
 「そんなに怒らないで下さい」
 「怒っていない!細とばっかりずるいと、拗ねているんだ!」
 「……はぁ」
 もう、どこから突っ込みを入れていいのやら。
 「悔しいから今日は、細の好みから外れた服を選んでやる……確かこの辺に私の好き
  な……」
 一人盛り上がるキングの背中に、好きにして下さいと、こっそり囁いて私は別の衣装ダンス
を開ける。
 こちらは下着専用のタンスだ。
 毎日変えても……一年分はあるんだろうか?
 「キング……下着の色……」
 一応選ぶ服と同系にしようかと、キングに尋ねれば。
 「ピンク!」
 即答された。
 「はい」
 予想通りの色だったので、綺麗に種類分け色分けされている中から、淡いピンクのショーツ
とブラジャー、スリップとガーターベルトを取り出す。
 続けて着ていた物を全て脱いで籠の中に入れる。
 こうしておけば、メイドさん達の手を煩わせなくてすむからな。
 素肌を晒したままでカーテンを開ける。
 日の光を全身に浴びるのは心地良かった。
 「……下着ぐらいはつけなさい。誰が見るともわからないのに」
 気が付けば、キングの気配が後ろにあった。
 軽く腰を抱かれる。
 「こんな身体でよければ、何時でも晒しますよ?」
 「私の前でだけにしてくれ」
 「珍しい。朝からする気になったんです?」
 「まさか!娘の裸体は、息子にも見せたくない父親の我侭さ」
 確かに欲情の色は全くなかった。
 身体も簡単に離れて行く。
 「服は用意した。早く着替えなさい。髪の毛を結ってあげよう」
 「……はい」
 私は頷いて、手早く下着をつけてゆく。
 もう、女性用の下着をつけるのも手馴れたものだ。
 ガーターベルトの装着にももたつかない。
 「キング……これ。朝から着るドレスじゃないですよ」
 「細への嫌がらせも兼ねているからな。いいんだ」
 「そうですか……」
 ピンク色が中心のロングシルクドレス。
 ただし、胸元はかなり開いており、スリットも半端ではない。
 アクセントに所々ついている黒いレースは、朝から淫靡な雰囲気を醸し出す。
 剥き出しの腕は、ストールで隠したい所だ。
 「ロイは何を着せても似合うからな」
 「本当に親馬鹿のセリフですね。とーさま」
 「正真正銘の親馬鹿だからな」
 しかし実の父親が普通、娘のドレスのファスナーを嬉々として上げるのだろうか。
 たぶん、あげない。
 「さぁ。髪の毛だ。手早くしよう」
 「お願いします」
 キングがこんな風に器用だとは思わなかった。
 ヘアクリームなどを塗りつけ、髪の手入れもしながら、長い私の髪を綺麗にアップに結い
上げてゆく。
 ぴんの差し位置やコームの使い方も絶妙だ。
 ほんの十分程度で仕上がった。
 プロ顔負けだろう。
 「うーん。押し倒したいくらいに綺麗だな。朝から力作でパパ困るなぁ」
 「結構それって微妙なセリフですよ。父上」




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