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 どうせならば


 わかりきっていた、結末に。
 私は声が枯れるほど笑い続けた。
 涙も出やしなかった。

 「ヒューズっつ!ひゅうっず!マース…まぁす」

 ずっと好きだった。
 愛していた。
 初めて出会った時は、馴れなれしい奴とか思ってて。
 余り良い印象は持ってなかった。
 何時好きになったかなんて、覚えてはいない。
 ただ気が付いたら奴は、私の奥深くまで入り込んでいて。
 唯一といっていいほどに、近しい存在になっていた。
 
 抱き合わなくたって別に良かった。
 肉体的な繋がりなんて不必要なほどに、繋がりあっていたと信じていたから。
 奴の口から、心の底から嬉しそうに微笑むがまま、グレイシアと婚約したと聞くまでは。
 『結婚も決まっているんだ。ロイもぜひ来てくれよな』
 と言われて。
 側に控えめな風情で寄り添うグレイシアは、とても綺麗で優しそうで。
 実際その通りで。
 ヒューズの妻となるのに相応しい人物だったから。
 私は笑顔で言ったものだ。
 『ああ、勿論。出席させて頂くよ』
 誓いの口付けも、真正面の席で見ていた。
 照れながらも明け透けに。
 グレイシアは俺が初めての男なんだぜ、と言ってきたのは。
 初夜を迎えて数日後の電話だったか。
 私は努めて諭す口調で。
 『親友といえどもそういった類の話は、グレイシアに失礼だ』
 と言えば。
 『だってロイは特別だろ?』
 と返事があって。
 
 私は浅ましくも思ったのだ。
 グレイシアと一緒になっても、私は特別な存在のままでいいのだと。

 彼女自身も、私に対して家族のように接してくれて。
 それを時折苦痛に感じながらも、卒のない笑顔で返してきた。
 
 一番近しい特別な存在であるのならば。
 心が私に一番近ければ。
 体は不必要かと思い込んできた。
 何より大切なヒューズを失いたくなかったから。
 嫌われるのが怖くて。
 どんな形ででも繋がっていたかったから。

 それも、グレイシアの腹の中。
 子供が出来るまでの、付け焼刃の思い込みでしかないと。
 ヒューズ家に招待されて、笑顔の二人から子供が出来たと伝えられて。
 思い知らされた。

 地獄だった。

 表面すら取り繕えなくなるのも時間の問題だったと思う。
 
 事情を知る部下達にも話をして。
 一度だけ。
 一度だけでいいから、抱かれて。
 ヒューズへの恋愛感情を封印することにした。
 大好きなままで、愛しているままで。
 抱かれたいという欲望だけを殺すことにしたのだ。
 無理に忘れることはないと、部下達は言ってくれたけど。
 ヒューズを思い続けるのには、辛かったから。
 愛しすぎてもう、限界だったから。

 己の体を女に変えるのは、難しい話ではなかった。
 幾度か試したコトはあったし。
 人体練成の中でも、肉の移動だけでいい性別変換練成は基礎中の基礎なのだ。
 
 一度だけ。
 それだけで、良かった。
 良かった、のに。

 ヒューズは、その一度も与えてはくれなかった。
 
 愛が憎しみに変わる瞬間とは、こういうものなのだろうか。
 
 私は、笑って笑って笑い通した挙句に。
 一つ。
 心を決めた。

 たった一度の過ちをも許せない、潔癖なヒューズに。
 私をSEXの対象として以外は、とてもとても大切にしてくれたマースに。

 復讐を。
 誓う頭の中、優しい部下達の顔が浮かんだ。
 ヒューズに受け入れて貰えなくても、彼彼女等がいれば耐え切れたのかもしれない。
 でも、私の頭は狂った思考に憑かれてしまったのだ。

 奴が、一番望まない形で。
 私という存在を壊してしまおうと。
 
 決めてから、私の行動は早かった。
 難しいことでもない。
 電話を一本掛ければ良かったのだ。
 
 キング・ブラッドレイ大総統閣下に。




                                                     END




 *あらあら。ロイたんたら。
  よりによって閣下をお初の相手に選ぶとは。困った人。
  そんな気分。
  次回は濃厚な女体エロにしたいので、時間食うと思います。





                                             メニューに戻る
                                             
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