12月24日
世の中はクリスマスイブだというのに、僕は人殺し。
ジングルベルを耳にしながら、ヤクザと繋がりがある外科医を蹴殺。
紅茶の缶が入った紙袋を抱えながら、育児ノイローゼからご近所のペットを
皆殺しにした主婦に、極々ささやかな制裁。
家に着くほんの数十メートル手前で、踊りかかってきた同業二人を意識不明
の重態に追い込んで、拳武に連絡。
すみやかに引き取って貰う。
鍵を開けて真っ暗な部屋。
習慣で誰も居ない部屋に向かって。
「ただいま」
と、呟けば。
「おかえり、紅葉」
返事があった。
コートを脱ぐどころか、手袋もマフラーも外さずに、かろうじて靴だけ脱ぎ捨てて、
寝室へと続く襖を開けると。
龍麻が、座っていた。
「龍麻?」
「はい」
「龍、麻」
「そうです」
「龍……麻……」
「うん」
知らず知らずの内に震えている指先を龍麻の頬に伸ばす。
昨日の犬神さんのように、夢かと思ったが。
指先を捕らえた龍麻は、僕の身体をきつく抱き締めた。
「心配、かけたな。もう、大丈夫だ」
「……っつ」
抱き締めてくる腕は、嫌になるほど力強くて。
龍麻が、生きているのだと。
死ななかったのだと、思った途端。
涙腺がぶち切れた。
「龍麻、龍麻……龍麻あ……」
情けないを通り越して、滑稽に見えるだろう僕は。
子供のように泣きじゃくっていた。
「よしよし」
瞼に、頬に、流れ落ちる涙に、龍麻の唇が触れてくる。
やわらかくて、濡れた感触。
いつも、それしか感じなかった口付けを、初めて甘いと感じた。
「まだ、本調子じゃねーから。このまま寝かせないってーのは、もそっと先
だけど」
背中から抱えるようにして、蒲団の上に寝かしつけられる。
「お前が寝付くまで、ずっとこうしてる」
まだ龍麻の腕を手放せないでいる僕の隣に、身体を横たえた龍麻は傷が痛
んだのか瞬間眉を顰めた後に。
ゆったりと、笑って。
「メリークリスマス。紅葉」
唇に触れた。
ああ、なるほど。
これが僕へのクリスマスプレゼントか。
なんて、思ったら。
自然口元に微笑みが浮かぶ。
「良かった。やっと笑ったわ」
キリストが生まれたという聖なる夜に、人殺しをしても。
殺しつづけてたとしても。
こんなプレゼントがあるのなら、僕の人生も。
きっと。
そんなに悪いものじゃないのだろう。
*龍麻×壬生
何だか長かった気がする。
無事完結。
人殺しの人生にも、まったりとした安穏な日があればと。
そんな感じで。
しかし日記風味でも登場人物が多いのは辛かった……。