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  人殺日記



  11月15日

 僕は、今日半身と出会った。
 皮肉にも僕が初めて人を殺した、記念すべきこの日に。
 よりにもよって。





 11月20日

 東京を守るという戦いに、強引に引きずり込まれて何日かが過ぎた。
 人を殺すよりは、異形を殺す方が難しいのもかかわらず、宿星と呼ばれる
仲間達は皆、人型に近い異形を殺す時ほど、辛そうだ。
 あの、緋勇でさえも。





 11月22日

 館長より直接の命を受けて、暗殺に赴いた。
 場所は新宿。
 緋勇達のテレトリーだったが、仕事には関係ない。
 標的を尾行中だったので、偶然にも通りすがってしまった蓬莱寺さんを無視
する。
 追いかけてこようとするので、微笑を浮かべて目を細めたら『すまん』との謝
罪を残して僕に背を向けた。
 緋勇が云うほどには馬鹿ではないらしい。
 腹部に膝蹴りを一発。
 浮き上がった所に、頚椎めがけて踵落としを一撃で標的は死亡。
 最初の膝蹴りで内臓破裂は間違いなかったが、念には念を入れた。





 11月25日

 旧校舎行きを断ると緋勇が尋ねて来た。
 お互い一人暮らしなので、夕食を共にする。
 泊まっていきたいというので、好きにさせたら。
 いきなり押し倒された。
 僕が、好き、らしい。
 半身としてだけではなく、強すぎるくらいの性質を敬愛してはいたけれども。
 性欲の対象として、緋勇を見たことは一度もなかった。
 いきなりで困る、と押し返したら、強引に口付けられる。
 乾いた唇に鉄の味が走って、頭がくらりと揺れた。
 そのまま先へ進むのは簡単だったが、明日も暗殺。
 明日は仕事だから、別の日にしてくれといえば。
 気の抜けるほどあっさりと開放された。
 ほどなく指を絡めて寝付いてしまった体から、静かに離れ。
 こうして日記をつけているが、僕らしくもなく。
 動転しているのかもしれない。





                                    
 11月28日

 緋勇と、寝た。

 何度も何度もいかされて。
 体の奥底までを、抉られて。
 途中で声が枯れても、尚。
 緋勇は、僕を放さなかった。
 これが、最後だとでもいう執着さだった。





 12月1日

 今日も、緋勇と寝た。
 初めて抱かれてから、毎日抱かれている。
 犯されているといっても、いいのか?
 僕にはよくわからない。
 男が男を犯しても強姦罪は成立するのかもしれないが。
 別に、どうということもない。
 痛みには、もともとが鈍い性質だ。
 すぐに慣れた。
 一週間もたたないうちに、快楽めいたものも覚え初めている。
 だいたい、緋勇が上手過ぎるのだ。
 男は初めてだと言っていたけれど。
 これが本当に初めてだというのなら、天性のものなのだろう。
 時折、零れる甘ったるい声が自分の物とは思えないが。
 もしかすると、僕は。
 快楽に弱い性分なのかもしれない。
 自慰もろくにしてこなかったせいも、あるのだろうけれど。




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