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 『菊君と、離れる事だよ』
 『っつ!』
 奇しくも再び、それだけはできない提案がなされる。
 『そうだねぇ。そんなサービス。いつもだったら絶対にしないんだけど。今回は菊君の為
  でもあるから、取って置きのサービスをするよ。この中を見てご覧?』
 そう言ってブラギンスキが指を差したのは、一つの大きなツボだった。
 水がたっぷりと入っている。
 『Запроектируйте то из желания!』
 ブラギンスキは、手袋を外して手首までその水の中につけるとロシア語で何やらを呟いた。

 途端。
 水が、ゆらりと不自然に蠢く。
 何と。
 水面には、菊とジョーンズが映っている。
 畳と家具の配置で、それが日本宅の床の間であると知れた。
 菊が嘗て使っていた愛刀が飾られている所だ。
 その、日本刀を菊が握っており。
 刀はべっとりと血に塗れている。
 菊は、それはもう楽しそうに笑っていた。
 彼の目線の先には、ジョーンズがいる。
 やはり。
 血塗れで倒れていた。

 『なんだい、これはっつ!』
 『……そう遠くはない未来に、実際に起きる事だよ』
 大きな溜息をついたブラギンスキが、水の中から手首を抜き取るのと同時に乱れた水面は、
既に普通の状態に戻っている。
 『何時かは、わからないけれどね』
 『俺は、どう、したら……』
 『死にたくなければ、距離を置けばいいんじゃない? 菊君はきっと。離れた君を追いはしな
  いと思うよ』
 それはもう、腹が立つくらい嬉しそうに笑ったブラギンスキは、冷めかけたロシアンティーの
残りを一息に飲み干していた。

 「そうなると、やっぱり。やらないとですかねぇ。精進潔斎」
 「……ううん。良いよ。俺が我慢すればすむことだし」
 「ですけれど……」
 心配そうにジョーンズの頬を撫ぜてくれる菊のどこに、憎悪が見出せると言うのだろう。
 本人意識しない部分での憎悪だから、他人に見えるはずないのかもしれないが。
 「どうしてもっていうんなら」
 「ひゃあ!」
 ジョーンズは、菊の腰を抱え込んでくるりと彼の体を己の身体の上に乗せる。
 「あるっつ!」
 「そやって、可愛い声で俺を一杯呼んで。鳴いて?」
 「本気で心配してるですよっつ! ひんっつ」
 ぽこぽこと胸を叩く菊の尻肉をぐいと掴めば、感じやすい彼は、それだけで頬を染めて
硬直してしまう。
 「そやって、菊がうんと俺を絞ってくれれば。夢も見ずに眠れるから」
 そう。
 ブラギンスキの言葉が本当だとしたら、これ以上の皮肉はないだろう。
 菊が失神するような激しいSEXをすれば、ジョーンズは。
 夢も見ずに深い眠りへと落ちる事が出来るのだ。
 「でも。根本を解決しないと! 私の身体っつ。もちませんよぅ」
 うるうるした瞳で訴えてくる菊の首を引き寄せて、深くキスをする。
 尻を揉みたくりながら、舌を絡めて吸い上げれば、菊の目の端に愉悦の涙が浮んだ。
 「大丈夫! 大丈夫だよ。君と俺の間には愛があるからね!」
 「アルフレッド? 世の中には愛だけではどうにもならない事が数多あるのですよ」
 「お説教するんなら、酷く。しちゃうぞ?」
 「も! アルっつ!」
 浴衣の下には下着もつけない菊の尻を直接掴む。
 何とも言えない心地良い弾力に、ジョーンズの欲情が一気に盛り上がる。
 「だから! 真面目な話をしている側から、おっきくしないで下さいっつ」
 ジョーンズの腹の上に乗った菊の、ちょうど尻の後ろにジョーンズの勃起した性器があたっ
ている体勢。
 無意識の内らしく、すりすりと尻を性器に擦りつける媚態が堪らなかった。
 「……協力、してくれないのかい?」
 「……んっとに、貴方は! 性質が悪いですっつ!」
 「菊?」
 「しますよ! 協力しますけどっつ! 少しは手加減して下さいねっつ」
 はぁ、と溜息をついた菊は目を閉じて頬を紅潮させながら、後手にジョーンズの性器を扱き
始める。
 「ねぇ、菊」
 「なんですっつ」
 「愛してる」
 「……そんな目をしなくても、大丈夫。私も貴方を愛してますよ。アルフレッド」
 覆い被さってきた菊がやさしいキスをくれた。
 そのまま、耳朶を噛んだ唇が紡ぐ言葉は、ローションどこです? 
 積極的な菊に笑みながら、ローションは必要ないよと、菊の指をしゃぶり始めるのと同時に、
自分の指を菊の口の中に入れる。
 程なく濡らされたお互いの指で、先を急ぐようにして菊の中を解すのだ。
 そろそろとじれったそうに腰を振りながら、ジョーンズの指を舐めしゃぶる菊を見て、ジョー
ンズは。
 こんなに愛らしい菊を独占できるのならば、悪夢を見続けるのも仕方ないのかもしれない
と思った。

 だけど、本当に。
 ブラギンスキの水鏡に映ったモノが未来の姿だと言うのならば。
 ジョーンズは、菊に殺される時。
 自分も菊を殺そうと誓う。

 例え、意識下の憎悪でジョーンズを殺すのだとしても菊は。
 表面的には、ジョーンズを殺した事を悲しむだろうから。

 ジョーンズは、菊を悲しませたくないのだ。
 そういう風に菊を、愛して止まない。
 
 我慢しきれなくなった菊が、自分の中を解すのにつられて、ジョーンズも一緒に菊の中を
広げる。
 不意に。
 濃厚な血の香りに包まれたような、気が、した。


 

                                               終わりました!
                     この設定でまた、露日とか英日とか書きたくなるんです。
                                       どうにかならぬものですか。
                                    アナザーエンド好きってーのは。




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