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 発狂症候群(Crazy Syndrome)


 *よもやの典日←露。露は片想いです。

 望んでは、駄目な相手だったんだよ。
 オキセンスシェルナ。

 どこまでも透き通る紫色の瞳を、瞬かせて。
 同じ相手を愛したブラギンスキが言った。
 
 本田君はね。
 二心を認められない人だった。
 二股がね、許せなかったんだよ。

 んだども!

 言い訳は、しないで?
 僕が、本田君を絶望的に愛していたように。
 君も、彼を誰よりも愛したんだろう。
 それは、わかるけど。
 でも、君は。
 ヴァイナマイネンとも、寝たね?

 ティノは、女房だぁ。

 うん。
 そうだね。
 じゃあ、本田君は?

 菊は……。

 言葉が見つからない。
 言葉で表現できるほどの、温い思いじゃないから。
 僕には、それが。
 女房への愛より深くて複雑な物だって、わかる。
 でも、本田君には、それが。
 わからなかった。

 やぁ! 
 離して。
 離して。
 助けて! 
 助けて!
 ベールさん。
 ベールさん。
 お願いです。
 菊を。
 助けて!
 私を。
 救って!

 ブラギンスキに背中から、抱き締められた本田が必死の風情でオキセンスシェルナを呼ぶ。
 狂った瞳のままに。

 可哀相な本田君。
 僕を選んでいれば、狂うこともなかったのにね。

 優しく。
 その男の本性を知る者が見れば、目を見張るほどに優しく本田の髪の毛にキスを落とした
ブラギンスキは、本田の身体を離す。
 本田は、転がるようにしてオキセンスシェルナの腕の中へと、飛び込んできた。

 がくがくと震えているので、強く抱き締めてやる。
 深い安堵の息が、血の気の失った本田の唇から滑り落ちた。

 今は、本田君を君に預けるよ。
 だから、短い蜜月を堪能すれば良い。

 ……ティノは、なじょしとる? 

 心配なの?
 大丈夫だよ。
 僕が毎日。
 大切に可愛がっているから。
 ……君も嫌われたものだよね。
 あの、僕を毛嫌う彼がまさか。
 自ら僕の所へ来てくれるなんて、思わなかったもの。

 ヴァイナマイネンは、本田をとても大切に思っていた。
 彼にとって本田は、家族のようなものだったらしい。
 まだ、本田が正気だった頃。
 二人して笑いながら、そんなことを言っていた。
 だから、本田がヴァイナマイネンとオキセンスシェルナの関係が理解できずに壊れてしまっ
た時。
 ヴァイナマイネンはオキセンスシェルナを憎むのと同時に、己を呪った。
 自覚がなくとも、本田を追い込む原因となってしまった自分が許せなかったのだ。
 彼がこの世で一番嫌いな男に、その身柄を任せてしまうほどに。
 
 元来国の化身が、国そのものに影響を与えることはない。
 基本的にはその逆しか有り得なかった。
 しかし、ヴァイナマイネンは如何な手段を講じたのか、それを可能にしたのだ。
 フィンランドは今。
 過去の因縁も忘れたかのように、ロシアを最友好国としており、スェーデンを憎悪している。
 国民が、一丸となって。

 君がいなくなったら、本田君の身柄は僕が預かるからね。
 その辺りも安心して。
 本田君も、ティノ君がいれば少しは僕の事。
 家族みたく扱ってくれると思うんだ。

 ブラギンスキは、ほぉ、と満足げな深い溜息をついた。
 彼が昔から、家族、と言うものに執着しており、その中に本田を入れたがっているのは、他国
も知る有名な話。

 長い間待っていて良かったよ。
 僕の長年の望みが、もう少しで叶うんだもの。
 だからね?
 僕は、君から本田君を取り上げる真似なんかしないよ。
 だって、直。
 君はいなくなるんだからね!

                          


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