前のページへメニューに戻るホームに戻る



 
 断言されて、オキセンスシェルナは無意識の内に本田の身体を抱き締める。
 自分が壊れかけている自覚は、十分にあるのだ。
 国民からも、上司からも見放されている。
 化身が、民に見放されるという現象も常なら有り得ない現象なのだが、オキセンスシェルナの
力が衰え、その思考能力までが欠如を始めているのが間違いない証拠。
 目の前にいるブラギンスキか、やはり本田を溺愛して久しいカークランドの仕業なのだろうと
推測するまでもない。

呪術に関する抵抗を全く持たないオキセンスシェルナに対して、大国二国に近い力を持つ北欧
の友好国も沈黙を守ったまま。
 きっと、オキセンスシェルナが頼んでも彼が動くことはないだろう。
 彼もまた。
 本田に恩義を感じる一人。

 ベールさ?

 オキセンスシェルナの不安を感じ取ったのか、腕の中の菊が乗り出してきて、そのやわい頬を
存分に摺り寄せてくる。

 だいじょぶですよ? 菊がいますから。
 ずっと、いますからね。

 そして、幼子にするように幾度も頭を撫ぜてくれる。

 ああ。
 あああああああああああああ。
 どうして、俺は。

 こんなにも、自分を思ってくれる愛しい存在を壊してしまったのだろう。

 涙で潤む瞳を上げれば、既にブラギンスキはいなかった。
 もしかすると、先程の彼もオキセンスシェルナが見せた幻覚だったのかもしれない。

 そのレベルで、発狂しかけている自覚はある。
 己が、じわじわと喪失してゆく感覚は、想像を絶するおぞましさで。
 狂気の境界線も、すぐそこに見えている。
 菊。

 はい。
 何ですか、ベールさん。

 側に居てほしたい。

 ええ!
 勿論です。
 ずうっと、一緒です。
 菊の居場所は、ここですよ。
 ベールさんが、嫌って言ってもここにいますよ!

 幼い口調で懸命に訴える菊が可愛い。
 可愛くて、可愛くて。
 完全に狂う前に、殺してしまいたいほどだ。

 幾度か、その無防備な首に手をかけるが、殺すことは叶わなかった。
 自分が完全に狂う前に連れて行こうと思ったのだが、ここにも。
 何らかの抑制力が働いているらしい。
 例えオキセンスシェルナが死んだ所で、菊は誰かに愛され癒されるのだろう。
 狂ったままでさえも。
 それは、とても少し寂しくて。
 けれど、どこかで安堵も出来た。

 だから、もう。
 オキセンスシェルナに許されたことはと言えば、狂気に沈むその瞬間まで、こうして。
 菊を抱きしめている事だけなのだろう。




                                                  END




 *書いてて思った事。
  北欧メンツの名前が欲しい。切実に欲しい。
  特に愛。ん? 氷?
  そして、ベールさんの口調に、相変わらず梃子摺る。
  オフの校正が今から心配ですよ……。
  で、でも。頑張って会得して、典日も普及したいものです。
                                              2009/11/17



  
                                   前のページへメニューに戻る
                                             
                                       ホームに戻る