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 どこか。
 崇高な響きだ。
 「昔。神卸の儀式に失敗した私を抱いたグプタさんが、唄っていた歌」
 「なんだ、そりゃ!」
 「怒らないで下さい。儀式は必要なものでした。グプタさんが、私を抱きながらその歌を
  唄わなければ、日本もエジプトも今。存在しなかったかもしれない」 
 「……こえぇ話だな」
 「ええ。神と交信するとはそういう事です」

 現代では国の化身を神との交信に使う国は少ない。
 どこでも大抵、専門職の人間があたる。
 人間の代えはあっても、国の化身の代えはない。
 国の化身が壊れた場合、代替わりする時もあるが、それもレアだ。
 「一晩限りの、恋人だったんですよ……」
 「……なるほどな」
 神卸の儀は基本的に秘される物。
 ましてや、二国の化身を使ってまで行われる儀式なら国家機密レベルだろう。
 調べきれないはずだ。
 「神と混じっていたからかもしれませんが、あの時のSEXは一生忘れられません」
 「おーい!」
 そんなこと言うとなぁ。
 神レベルのあれこれとか、召還すっぞ!
 「ふふふ。そんな顔しないで下さい。所詮は思い出ですよ。貴方が優しくて、今が幸せだから
  思い出せる類の物です」
 「それでも! 嫌なんだ」
 「甲斐性ある所を見せて下さいな? たった一晩限り。思いが通じ合っただけでもなく、身体
  だけの思い出ですのに」
 「……でも、綺麗な歌だ。悲しい、歌だ。俺はお前が綺麗なものを慈しむのは好きだけど。
  悲しいものに浸って、切ない思いをするのは許したくねぇんだよ」
 「……アーサーさん。貴方、私に甘すぎ」
 「知ってても! 止められねぇんだよ。馬鹿ぁつ!」
 強く抱き締めて、寝室のドアを足で蹴って開けると、菊の身体をベッドの上に放り投げる。
 「ひゃっつ!」
 スプリングと一緒に跳ね上がった身体を、シーツの上に縫い止めてキスをした。
 半分眠りの世界に足を突っ込んでいる菊の、覚醒を促す為の、それはもぉ濃厚なキス。
 自分が持つ手管の全てを使って、菊の瞳が欲情に潤むのを辛抱強く待った。
 「……仕方ない、人」
 キスの合間、はあっと大きく息を吐き出した菊は、もそもそと動いて、カークランドの胸の上、
頬を摺り寄せる。
 見上げた瞳は、カークランドだけを求める一色に染まっていた。
 再びキスを重ねて、今度は繋がる為に、お互い。
 性急な愛撫を重ねた。
 菊はカークランドの性器を愛しそうに擦り上げ、カークランドは菊の蕾を丁寧に解す。
 繋がる悦びに満ちるのは時間の問題だ。

 今もこれからも菊は、カークランドが望むとおりに、カークランドを愛してくれるだろう。
 けれど。
 やはり、どこかで。
 これからは、カークランドの見えない場所で、きっと。
 あの、鎮魂歌を唄うのだろう。
 グプタ自身を思うのではなく。
 束の間、熱に溺れた時間を思い出して。
 グプタがどう思っているかはわからないが、彼自身ではなく行為を思う菊が、少しだけ憐れ
だった。
 一目惚れは確かに存在する。
 身体から始まる恋もある。
 僅かな時間で、恋に落ちてしまった事に気がつかない菊に。
 それが、恋であったなどと、今更!
 教えてやるつもりは、永遠にない。


 
                                                     END



 *実はグプタさんも、一夜限りの睦み合いを覚えているといい。
  そして、それをアーサーさんにほのめかすと良い。
  でもって、怒ったアーサーさんと、グプタさんの呪術合戦になれば良い!
  誰か書いてくれないかなぁって、マニア過ぎて誰も書いてはくれないよ(泣)
  そもそも、需要はないだろうと、しみじみ思います。
                                                2009/11/14
 



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