前のページへメニューに戻る




 
 早く、専門医に見せておかないと心配で仕方ない。
 「承知。ここは、任せても大丈夫か」
 「はい。すぐそこまで、ジープを走らせてありますから」
 軽々と背中に担ぎ上げられた中尉の額に手をあてる。
 「……私もすぐに行くから、先に行ってちゃんと診て貰うんだ。いいな?」
 「……っつ」
 私の側に居られないのが、そんなにも口惜しいのか、目の縁に涙が浮かんでいる。
 力なく下がっていた腕が、不意に持ち上げられて、准尉の背中の上から、その両腕が私の首
へと回った。
 バランスと崩しかけた准尉が、とと、と足をよろめかせるのを助けつつ。
 中尉の抱擁に返すように、頭を数度撫ぜる。
 「……どうか、ご無事で」
 襟を必死に掴むその、細い指先が、微かに私の首筋にも触れた。
 「大丈夫だ。優秀な部下が駆けつけてくれた。私一人じゃない。安心しなさい」
 「……ハボック少尉!」
 涙に濡れた瞳は、それでも憐れみを欠片も誘わずに、ただ、凛とした風情を沸き立たせてい
る。
 「は!」
 「大佐を、頼みます」
 「イエッサ!」
 迫力負けしたかのように、敬礼を返す少尉に安堵したのか、中尉の瞳から意識が消え失せ
た。
 「中尉!」
 「……落ち着け、少尉!気を失っただけだから。くれぐれも頼んだぞ、准尉」
 「はい。それでは、後ほど。回収に伺います」
 敬礼をしながらも、しっかりと中尉を背負って走ってゆくその背中を見送って、発火布を嵌め
なおす。
 「……中尉、って。あんなに可愛い人だったんすか?」
 先の抱擁を言っているのだろう。
 私を護れないのが悔しくて、子供のように縋ったなんて、彼女が元気になったら思い出して赤
面するに違いない。
 「……私も、今日初めて知った」
 「あの人が、綺麗なだけの人じゃねーってのは、よく知ってます。そんだけ大佐が大事なんで
  しょう」
 「君も大事にしてくれるんじゃなかったのかね?」
 「中尉には、劣るでしょうが、ま。頑張りますわ」
 にやっと笑って見せたハボックも、手元を見ずに弾丸の補充を終わらせた。
 「行くぞ」
 「あいよさ」
 何とも間の抜けた合いの手が、妙に心強く聞こえたなんて一生言ってやるつもりはないけれ
ど。
 こいつや准尉が来てくれたから、状況が打破できたのだ。

 ま、感謝ぐらいはしてやるさ?

 なんて、中尉に言ったのならまた、怒られるだろうな……。



                                      
                                                    END




 *アイロイアイ?
  最後はなんだか、ハボロイっぽくなってしまって失敗。
  今度は、狙撃部ってーか暗殺部に所属してた頃のホークアイの話とか
  書きたくなってきて困ってます。

  ただでさえ、最近オリジナル色が強いのにさ。ぽしょ。



 

                                         前のページへメニューに戻る
                                             
                                             ホームに戻る