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 しかしまぁ、私が奴の服を着て大興奮するのはどうなんだろうと思わないでもない。
 私は奴より小さいとは言え、女性のような可愛らしさはないからね。
 どうなんだ?とジャンに聞いたら即答。
 俺が、アンタに触れてるのと同じ感覚なんですよ。
 ……ちょっと変態っぽいと思わないでもないが、なるほどと納得。
 ワイシャツ辺りの全体で包み込むような感じは想像できるとしても、下着はちょっと、変態
臭いよな?
 「そりゃ好きですよ。アンタが何時も履いてるビキニも、ナニのラインがぴったり浮き上がって、
  勃起状態があからさまでイイっスけど。今みたいにわかりにくいのも悪くない……それにさ」
 パンツの上を焦らす意図で動いていた掌の指先が、横の隙間からするりと入り込んでくる。
 「やあ!」
 軽く指先で抓まれて、先端をくりんと撫ぜられる。
 「こやって悪戯できるのも、好みなんで」
 しかし直接的な愛撫は続かず、すぐさま指は外へ出てしまった。
 「へへ。いいですね。アンタの残念そうな面『もっと弄って欲しいの!』って。声に出なくても、
  わかりますわ」
 「……煩い。わかってるんだ」
 「わかってても、顔に出ちゃうってね。ポーカーフェイスがお得意のアンタとは思えない」
 悔しくてそれでも、どうにか一矢報いたくて。
 濡れ切っている瞳で、奴を真っ直ぐに見詰めて、ぺろりと己の唇を舐め上げる。
 それから囁くようにして。
 「はぼっくの前でしか、しないぞ」
 告げてみる。
 一瞬、ジャクリーンの表情がなくなるのは、言葉が奴の心の奥深くまで浸透した証拠。
 「……全くアンタったら…どうしてくれましょうね?ジャンがアンタに良い様に転がされるのが、
 よくわかりますよ」
 「お前は転がされてくれないだろう?」
 「俺はアンタの転がし担当ですからね……まぁ、鷹の目さんには勝てないかもしれないけど。
 あのお人は、こんな風には、転がせやしませんから」
 いきなり乳首のそれも先端を歯の先で掠められて、アレをパンツごとぎゅうっと握られた。
 「やあっつ!」
 それだけで、射精しそうになった自分はどれ程、こいつの手に慣らされたのかと溜息しか
出やしない。
 「おお、すげぇ。もうお漏らしだ。パンツびしょびしょですよ」
 「馬鹿、まだ出してない!」
 「へぇ。じゃあこれ先走りだけ?無茶苦茶ですね、ロイさんの身体は」
 「お前が、したんだろう」
 「正確にはお前達です。俺最近あんまり呼ばれてませんでしたからねー」

 微かに孕む怒気に、私は内心冷や汗を掻く。
 どんな風にでもこいつを怒らせてしまったら、次の日はまず仕事に出れない。
 太陽が昇っても尚、攻め苛まれるからだ。
 何度か迎えに来た中尉と鉢合わせをして、危うく銃撃戦になりかけた事もある。
 中尉は、私に無茶を強いるという点において、ジャクリーンを信用していないのだ。
 ジャンと違って、自分の言う事を決してきかないというものあるかもしれない。
 『戦闘時にのみ、出てくれば良い男でしょう、アレは?』
 と、私の肝を冷やす微笑でもって尋ねられた事があった。
 ジャンが、時に私よりも中尉に従順だから余計。
 ギャップなどもあるかもしれない。
 「ロイさん?」
 誰か、俺じゃない。違う人間の事考えてませんか?
 目が細められて怒気が、更に表に上がる。
 「だってお前っつ。これの為だけに呼ぶなんて、失礼だろうが!」
 「……はい?」
 素っ頓狂な声を上げたジャクリーンに、今度は胸のうちでがっつポーズ。
 「……SEXの為だけに呼ばれたいのか、お前は」
 「んー。何の為でも呼ばれたいっすよ。俺は」
 「私は、嫌なんだ」
 戦闘時にだけ、呼び出すという方が、余程どうかと普通は思うだろう。
 しかし、ジャクリーンという存在はそもそも、そこから生まれている。
 そこを無視するという事は、本来。
 奴の存在そのものを否定するという事なのだ。
 「……平和が良いよ。その為に私は日々戦っている。だがな、不穏な時でないとお前は出て
  こない。出て、これない」
 「アンタが呼べば別っす。ジャンの中。どんな整理がなされたのかは知りませんがね。戦闘
  時でなくとも、俺は存在を認められるようにはなった」
 「……そう、だな」
 しかしそれは所詮、別の人間がつけた条件付けに過ぎないのかもしれない。
 もし、酷使すれば破綻するのかもしれない。
 それが、怖い。
 人間の深層心理など、錬金術を学ぶ過程で人より深く知ったつもりではある。
 ある、けれど。
 人の生涯生き抜いて、研究し続けても尚。
 知れぬ真理というものもあった。
 「でも、な。私はなるべくお前を自然な形で呼び起こしたいんだよ」
 「……ジャンの負担になるかもしれないから?」
 「それもある。が、お前が消えてしまうかもしれない、危惧もあるからだ」
 奴の瞳の奥。
 澱んだ光は瞬間で、クリアになった。
 「……心配、してくれてるんです?俺を?」
 「何を今更っつ!当たり前だろう馬鹿っつ」
 反射的に馬鹿呼ばわりしてしまい、何時もなら取って返す手で来るあらゆるお仕置きに耐え
ようと、軽く肩を竦めれば。
 きしっと骨が軋む強さで抱き込まれた。
 「だいじょーぶですよ?俺はアンタが求めてくれる限り……存在し続けますから」
 「そうしてくれ。お前を失うなんて……耐えられないから」
 ジャクリーンも、ジャンも既に私の中ではなくてはならない存在で。
 恐らく大本の意思となっているジャンも、ジャクリーンを喪っては別物になってしまうだろう
予測は簡単にできた。
 我侭と言われても、私は。
 私をこうして慈しみ、求めてくれる。
 ジャン・ハボックが欲しい。
 二人とも等しく……手離せない。
 「……湿っぽくなってきましたね?」
 「……たまには悪くないが……時間が惜しいな」
 「続き、しましょう」
 「ああ」
 どちらからともなく唇を求め合う。
 奴の唇は薄くも無く、厚くも無く。
 しかし私を恐ろしく翻弄する。

                       
                                                                      


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