メニューに戻る




 昇進


 「ちょ!その締め付け、やめて下さいよ」
 俺が一番弱いかもしれない、性技。
 ナニの根元をきつくきつく締め付けて、中はキスマークつけんばかりの勢いで吸い付いてくる。
 締め付けはまだしも、吸い付きは自分の意思できるもんじゃねーだろうと、常々思っているの
だが、この人はどう考えても、その信じられない性技を完璧に制御していた。
 「好きな癖に?遠慮はするな。お前らしくもない」
 受け手が強いと言われる騎乗位で。
 女王様の仕様で振舞うのがとても似合う、俺の最愛の人。
 俺だけの、最愛の人になって欲しいのだが。
 それもなかなかムツカシイ。
 「あまり、してもやれないし?お前には愉悦よりも安寧を求める傾向にあるからなぁ。こんな時
  ぐらい楽しみなさい」
 余裕の体で微笑まれ、またしても、くいくいと絶妙に腰が振られる。
 アナルSEXって、抵抗があったんだけど、この人に触れてから嵌った。
 もぅ、女なんて抱けない。
 大佐の中は、女の中よりも女のアナルよりも、比べようもないくらいにイイのだ。
 俺がベタ惚れってーのもあるんだろうがな。
 「じゃあ、俺の好きにさせて下さいよぅ」
 「お前も大概変わっているよな?受け手が積極的なのは基本的に嬉しくないか?」
 出世の為に、身体を使うことを厭わないこの人は、本人そうとは気付かぬ内に頻繁に残酷な
言葉を吐く。
 俺の事をとても、愛してくれていて。
 それはもう大事に慈しんでくれると、わかってはいるのだけれども。
 「嬉しくない訳じゃないんスけどねぇ。仕事ではアンタに主導権握られっぱなしですから。
  こんな時ぐらい、俺が徹底的にリードしたいんスよ」
 「なるほどなぁ……じゃあ、君の好きにしたまえよ」
 特に気分を害した風もなく、ぺたんと俺の胸に頬を懐かせる大佐は、これで三十路越えかよ!
と問い詰めたくなるくらいに愛らしい。
 童顔を武器にしている人間は、とかく始末におえないのだと、経験上知っていたけれど、こん
人は最強だ。
 「ほいじゃあ、遠慮なくイかせて貰いますよ?」
 「ん」
 首に腕を回してくるので、身体を反転させる。
 俺が大佐を敷き込む正常位。
 抱っこちゃんも好きなんだが、今日はナンだかこう。
 極々普通に交わりたい気分。
 軽く膝を立てて、俺が入り込みやすくしてくれるその余裕。
 興奮が高まれば、背中に回されて快楽のままにきつく足を絡ませてくれる時間が、早く欲しい。
 「はぼ?」
 凶暴な感情をいち早く読み取った大佐が、やわらかく笑う。
 SEXの最中。
 ここまで、優しく笑まれたのなら、誰だって。
 自分だけが愛されているのだと錯覚するだろう。
 そんな、最強の微笑。
 俺は我ながら歪んだ苦笑を返して、それでも極力ゆっくりと腰振りを始める。
 途端、漏れ落ちる嬌声に演技は見えず、ただ慣れた女の匂いがした。
 正確には慣らされた、女の匂い、かな?

 大佐の下につく前から、この人が身体で昇進を買ってるなんて、すんげぇ噂が飛び交って
いた時も、信じちゃいない俺だった。
 悪友で親友でもあるブレさんが、んな阿呆なコトしなくても十分実力のある怖い人だよ、
あの人は。
 と常々称していたのもある。
 実際、二人して大佐の下に引き抜かれ、そのサボりっぷりと真面目モードを目の当たりに
して、ブレさんの言葉は正しかったとしみじみ思ったものだ。
 今も。
 昇進を身体で買っている訳ではないのだと、思う。
 ただ、仕事がスムーズに運ぶのならば、頭を使うより身体を使った方が楽だと思っている
節があるのだ。
 それは、かの。
 ヒューズ中佐の影響が強い。
 士官学校時代からの付き合いだという中佐は、大佐の初めての相手なんだそうだ。
 それを聞いた時の、俺の嫉妬っぷりは、まぁ、好きに想像しやがれってもんです。
 んで。
 初めて抱き合ったにも関わらず、大佐がえらい淫乱で可愛かったらしい。
 めっきり惚れこんだ中佐が、つい。
 言っちまったんだそうだ。
 
 お前、冗談抜きで。
 身体使って出世できっぞ。

 って。
 言うんじゃなかったと、今は後悔している中佐だ。

 まぁ、まさか。
 親友で恋人で。
 誰よりも一番近い場所で、お互いをわかっているつもりだった相手が。
 手始めにと、手ごわい教官連中を身体で篭絡し始めるなんて想像はつかんだろうさ。
 しかし、強面の教官連中が自分の身体で軒並み骨抜きになるのを、見てしまった大佐は、
これは使える!と思い込んでしまったんだそうだ。
 貞操観念とかないのかしらんとか思うんだけど、そうでもない。
 俺の嫉妬も理解してくれる。
 ただまぁ。
 考え方が根本から違うんだよなぁ、とは。
 今は肉体関係もなく、親友兼父親の地位に納まっている中佐との同意見。
 大佐の考えは極力尊重したいけどさ。
 今日みたくね?
 体中、俺がつけたんじゃないキスマークだらけでさ。
 えいやって、腹の上。
 乗っかられちゃうと、しみじみ、考えるんだよ。
 これで、いいんかなぁって。

 「どーした、はぼ」
 大佐の声で、腰振りが止まっていたコトに気が付く。
 「あー。すんません」
 再開しようとゆるゆる動けば、優しい掌が俺の頬に触れてくる。
 「どーした?」
 重ねて問われてしまう。
 俺はそんなにも、情けない表情をしているのだろうか。
 「ちょっと」




                                             メニューに戻る
                                             
                                             ホームに戻る