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 「はい、何時もすみません。ありがとうごいざます!」
 イイって事よ!という感じで背中越し、掌を振って見せた警備員さんの背中を見送ってから、
また会話に戻る。
 『ん?何、おっちゃん見回りに行ったんか?』
 「ああ」
 『んじゃ、アレだ。ロイにゃん、一人っきりだな』
 「だから、ロイにゃんは、よせと言ってる!」
 『……可愛いのに』
 「どこがだ!」
 本音を言ってしまえば、マースに限ってなら、そういった呼ばれ方をされるのはやぶさかじゃ
ない。
 ただ、それを真似して他の奴等までもが同じ呼び方をしてくるのに、納得がいかないだけで。
 「……そっちは、寒いか?
 『ああ、寒い。雪降ってるぜ』
 「雪か。こちらは降ってないぞ」
 士官学校の中でも特に優秀な人間だけが選ばれて出かける研修に、マースは連れられて
行った。
 一学年生では、マースだけだ。
 正直、何でもそつなくこなしてしまうだけでなく、多岐に渡る分野でずば抜けた才能を示す
奴に、嫉妬めいた感情を抱かない訳じゃない。
 私とて、このままでいけば最年少で国家錬金術師の資格を取ると推測されている存在だ。
 分野別に絞れば、マースより上の分野ならば幾つもあるけれど。
 私自身、決してマースに勝てないのを知っているから。
 惚れた弱みでも欲目でもなくて。
 本当に、文句なしの出来た奴だから。
 『せめてロイが側に居れば、少なくとも夜はあったかいんだけどなぁ』
 「……誰が聞いているかわからないのに、そんな間抜けたセリフを吐くな」

 『はっはつ。こんな寒い場所に誰が好き好んでいるかよ』
 「……それこそ馬鹿だ。風邪を引いたらどうするんだ!」
 自分が温かい所にいるからといって、マースがそうではないかも知れないことに何故気が付
かない?
 だから俺は、気が回らないって言われるんだ。
 『んーんー。ロイたんとお話してれば寒さも忘れるってね』
 「身体の方は、そう言ってないかもしれないぞ……」
 『心配してくれるんだ』
 「当たり前だろう!誰が倒れたお前の面剛を診るっていうんだ」
 何時も世話されている分、側にいてあれこれしてやる気はある。
 しなれないので、どこまでできるかわからないが。
 『あーあのロイがそんなセリフを言ってくれるなんて!全く良い子に育ったもんだ。パパ感
 激』
 「……俺はお前のような父親は持ちたくないぞ」
 例え俺以外の人間全てがそう、思っているのだとしても。
 『ま、俺も親子よりは恋人の方がいい』
 「当たり前の事を言うな」
 こうやってマースの声を聞いていると、ずっとくだらない話に興じているのも悪くないと思っ
てしまう。
 俺は一体どれだけ、マース・ヒューズという存在に依存しているか。
 『あーもーそんな可愛いこと言われて、ぎゅって抱っこできないのが寂しいよ。ロイの身体を
 抱き締めたいなぁ』
 「……帰ってくれば、幾らでもできるだろう」
 『本当に!』
 声が上擦るくらいに大きな声で、しかも嬉しそうに言われて。
 電話越しで良かったと思った。
 この、にやけた顔を診られなくてすむから。
 「あまり無茶はしないでくれ。お帰りの抱っことちゅうは許容する」
 『……その言葉だけで、残りの研修踏ん張れるよん』
 「戻りは?」
 『俺様優秀だから。後三日』
 「それは凄い」
 『だろう?』
 予定では、一週間以上のカリキュラムが残されていたはずだ。
 何事にも融通が利かない軍部において、予定が覆されるケースはマレ。
 それだけ、マースが優秀だと、そういう事だ。
 改めて、自分の恋人の凄さを知り、誇らしげな気分になる。
 「……待ってるから。頑張って来い」
 『うん。ロイも一人寝が寂しいと思うけど、泣くなよ』
 「誰が泣くかっつ……もう、切るぞ」
 時折、歯が鳴る音がする。
 寒くて仕方ないのだろう。
 風邪を引かせるのは本当に、本意ではない。
 『あいよ。おやすみ、ロイ』
 「……ああ、おやすみ、マース。いい夢を」
 『ロイは俺の夢を見ろよ』

 「それだけはない」
 ツレナイねぇ……と言うセリフは置きかけた受話器から、ひっそりと聞こえてきた。
 何時までも電話し続けられるはずないのは、誰よりも自分がわかっているだろうに。
 俺は、暖房を弱くして警備員さんにメモを残すとはやを後にする。
 一歩出てあまりの寒さに、ぶるりと身体を震わせた。

 窓の外、雪がちらつき始めている。

 マースがいる場所から流れてきた、雲のなせる業なのだろうか?

 何だか奴が帰ってきたようにも思えて。
 そんな乙女ちっくな自分の思考に苦笑して。
 俺は、身体を震わせながら自室へと足を早めた。




                                                        END




 *わー青臭い(苦笑)自分を俺と呼ぶロイもいい!と思いました。
  そして最近、ヒューズばかりがどんどん格好良くなって行く気がするのは気のせい
  なのでしょうか?
  っつーか攻め様達が、格好良く。ロイは乙女ちっくに……へふ。




                        
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