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 ……お前をも。
 「何時か、その呪縛からお前を解き放ってやるよ。できるなら、お前を生かして……俺だって
  愛してるんだ。絶望的に。こうなってしまっては妻も子供も愛せはしないけれど。お前だけ
  は……愛してる」
 瞼を閉じるヒューズに、今度は私が口付ける。
 殺すと、断言しても尚。
 私を信じている証拠。
 「……そろそろ、行く。ホムンクルスと聞いたら、お前は出てくるな」
 「そうもいくまい?」
 「そんなに、俺に殺されたいか」
 「違う。もう、お前を誰にも殺させるもんか。殺すなら私が殺す……そうしたいだけだ」
 私のマースが戻らないのならば、あの世へと、還すしかないだろう?
 「あいかわらず、人の言う事を聴かない……俺はなるべくお前を生かして、蜜月に浸ろうって
  考えているのに」
 「ホムンクルスが新参に、そんな甘い真似を許すとは思わないが?」
 「……どうだろう、な。人柱が立って、父上の望みが達成されれば、後は好きにさせてくださ
  るぜ、たぶん」
 ヒューズが言うのならば、それは叶うかもしれない。
 ヒューズが私だけのものになるなんて、夢のようだ。
 そう、夢だ。
 「もう、行け。ヒューズ。次にお前を見かけたら、殺すから」
 「……お前が俺を殺すくらいなら、俺がお前を殺してやるよ」
 約束めいて施された、額への口付け。
 髪の毛に鼻を埋められて、しばし。
 ヒューズの身体が、私から離れる。
 ひらっと、窓辺へ一瞬にして飛び上がった能力は、既に人のものではなかった。
 後ろ手に、窓を開けて。
 綺麗な満月を背負いながら。
 「それじゃあ、またな。ロイ」
 投げキッスの代わりに、私の髪の毛を一房浚って後、ずだんと壁に突き刺さったタガー。
 私は、お返しにと錬成した火花で、ヒューズの髪の毛を一房焼く。
 「二度と、来るな」
 はははははははは。
 と小さくなってゆく哄笑が、耳に聞こえなくなった途端。
 私の膝は崩れ落ちた。
 ヒューズに向かって、殺意を込めて、錬金術を使った衝撃で。
 「頼むから、ヒューズ。私に、お前を殺させるな」
 本当は、言いたかった。
 ホムンクルスとなってもいいから、生きていて欲しいと。
 二度は、死ぬなと。
 ……言って、やりたかった。





                                    END




 *何か、後味悪い作品が多い気がするのは、気のせいでしょうか。
  うぬー。
  この後、エドとアルがさっくりと人柱になって、
  現場にいながらそれを止められなかったロイは崩壊してしまって。
  父上の許可を得たホムンクルス・ヒューズがロイたんを永遠に養う
  ……って考えたんですけど(苦笑)
  『ほらな、二人だけの蜜月だ。ロイ』
  そう言って、ヒューがロイを抱き締めるんですよ。
  そんな話……だ、誰も読みたくないですね。






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