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 「ロイ?どした?」
 「……ヒューズ」
 ぼろぼろぼろっと、涙が零れた。
 制御できない唐突さだったので、自分でも驚いて酷く、うろたえる。
 「おい、大丈夫か」
 慌てて立ち上がったヒューズが、私の体を軽々と抱え上げて、寝室へと足を動かす。
 「マース!」
 「いいからっつ!」
 抵抗を唇で塞がれて、また新たな涙が溢れた。
 ベッドの上に寝かされて、隣に横たわったヒューズに、きつく抱きすくめられる。
 「……ロイ?」
 「……まぁすっつ」
 私は必死に、奴の体に縋った。

 しかし。
 奴の体からは、全く、熱が。
 感じられなかったのだ。

 「まーすっつ!」
 あれほど、高い体温を保っていた男が。
 あんなにも、温かかった男が。
 今。

 「マースっつ……」

 こんなにも、冷たい。

 「大丈夫だ。大丈夫だよ。俺はここに居る。ここに居るんだ、ロイ」
 私が何故、泣くのか。
 正確に掌握しているだろう、ヒューズは。
 決して核心には触れずに、ただ、私を甘やかす。
 「ごめっつ!ごめんな……ごめん……」
 返して、ごめん。
 求めて、ごめん。
 お前から、全ての熱を奪ってしまって。
 「……すまないっつ……」
 「謝るなって。お前が謝るコトなんて、なぁんにも。ないんだよ」
 涙で霞む向こうの笑顔は変わらない。
 抱擁の優しさだって欠片も。
 だからこそ、温もりだけがないのに。
 泣けた。
 「だから、ほら。そんなに泣くなって」
 目の端に届くキスが、冷たい。
 涙を舐め上げる舌が、冷たい。
 私のシャツを剥いで、胸に触れてきた、掌が。
 冷たい。
 「お前に泣かれると、どう慰めていいかわかんなくなるよ、本気で」
 キスされた、頬が冷たい。
 撫ぜられた、首筋が冷たい。
 体中、頭の天辺から爪先までが。
 冷たい。

 ああ、もしかして。
 冷たいのはむしろ、私の方なのだろうか?

 だとしたら、お似合いなのだけれども。
 
 「マース」
 「ん?」
 「……して」
 「勿論、そのつもりだ」
 「もう、泣かないから」
 すん、と子供のように鼻を鳴らして。
 「だから、いっぱい。して」
 しかし、大人の決断で、もしかしたら子供の意地で。
 私は、ヒューズの冷たい体を包み込むようにして抱き締めた。
 
 このままずっと。
 この、冷たい熱を持ったヒューズと生きていこうと。
 胸の内で、こっそりと。
 許されない誓いを立てて。
 ヒューズには、ゆるく、ゆるく微笑んで見せた。




                                         END




 *終わったですよー!長かったですけども。
  喜び一入です。
  このお話をヒューズ視点で続編書きたいとか思ってるので。
  また新しいお題を立てないと!と誓っている阿呆な自分です。
  何にせよ。
  完結は目出度いのです。ぱちぱち。




 
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