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 手をつなごう


 キスはする。
 SEXも、する。
 すんげー濃厚で、激しい奴。
 本当に俺のこと、好きでいてくれているんだなって、思える。
 甘さと必死さを疑った訳ではない。

 ただ。

 何故か、手を繋いでくれないのだけが、寂しかった。

 「よー。どしたんだ。エド。しけた顔して」
 「……何でもねーよ」
 「んなコトねーだろう。パパ、相談に乗っちゃうよ?」
 「パパはよせ。パパは」
 自分の恋人の、過去の男に。
 しかもまだ、恋人が焦がれている男に。
 冗談でも、んなコト言われたくはない。
 「まーまー。ウチに来るかぁ?」
 「遠慮する」
 「んじゃー、どっか店でも行くか!」
 「俺、酒飲める年じゃねーよ」
 「ばっか!そんなの知ってる。俺は未成年に酒飲ますような、世間知らずなこたぁしねーよ!」
 したじゃん。
 大佐には、飲ませたじゃん。
 初めての酒で酔っ払った大佐を、レイプしたんでしょ?
 俺さ。
 目も耳も、勘もすごくいいんだ。
 アンタと大佐が言い争ってる現場。
 何度も見たよ?
 玩具としか見れないんだったら、開放してやって。
 そんなどうしようもないアンタでも、大佐は自分から逃げられないんだからさ。
 「……好きな人がいる」
 「へぇ?やるねぇ。ウィンリィちゃん?」
 「ちげーよ。あいつはただの幼馴染。恋愛感情はねぇ」
 遥か昔。
 世間がずっと狭かった頃には、多少持っていたかもしれない恋愛感情も、大佐に惚れているん
だと自覚した瞬間には、霧散した。
 「もっと、詳しく聞かせろよ」
 「……年上の、綺麗な人」
 「年上か!やるなぁ」
 「お金持ちで、優しくて、俺の言う事何でもきいてくれる」
 「うわー。男の理想かもしれんぞ、それ」
 心底羨ましそうな声を出された。
 冗談じゃない。
 綺麗な奥さんと可愛い娘さんが居て。
 何より、俺が一番大好きな人の心を雁字搦めている奴にだけは、決して。
 「でも……手だけは握ってくれない」
 アンタが別れ際、必ず大佐の手を握るから。
 大佐にとって、手を握るって行為が、別れを意味するんだって、インプットされちまってるから。
 「黒髪と黒目の綺麗な人で。俺はその人が俺の恋人だって、手を繋いで周りの皆に言いふら
  したいんだけど。高い地位にある人だから、それもできない」
 「……軍人、なんだ」
 「俺は軍人なんて、一言も言ってない。高い地位にある人だって言っただけ」
 「軍人、なんだろ?」
 「言えない。これ以上は、何も……誰にも」
 何時の間にか剣呑な眼差しをしている中佐を、真っ向から睨み返す。
 勘の良い人だから、俺の相手が大佐だって気付いたんだろう。
 自分の玩具が、違う誰かの手にあるのは、不満なんだろうな?
 でも、俺にとってあの人は、恋人だから。
 玩具じゃあ、ないから。
 アンタがどんな不愉快な思いをしても、俺は一歩たりとも引くつもりはない。
 「……エドワード」
 「じゃあ!俺、行くから。話聞いてくれてありがと。恋人が居るって宣言できただけで、俺、
  十分満足できたから」
 「エド!」
 「また、その内さ。アルと二人で、ヒューズ宅にお邪魔させて貰うよ」
 まだ何かを言いたがる口を挟ませないように、言葉を畳み掛けて、くるっと背中を向けた。
 「エドワードっつ!」
 「じゃあねー」
 俺は紛れもない怒気を孕んだ声が背中にかかるのを、掌で軽くいなしながら、アルの元へと
向かった。

 「鋼の?」
 「あに?」
 男に焦がれてとろとろに蕩けた体を美味しく食べさせて貰って、ベッドに満足して転がる俺を、
恋人が覗き込んでくる。
 「ヒューズに何か、言ったろう」
 「俺の恋人が黒髪黒目で、年上で高地位に居て、優しくて金持ちで、俺に目茶目茶甘いって
  言っただけだぜ」
 「……それだけじゃ、ないな?」
 「手を、握ってくれないって、言った」
 「それだ……」
 「何?なんかされたのかよ!」
 また、レイプごっこか?
 
 「手を、握りながら。SEXされそうになった」
 「うわ。えげつねぇ……」
 「奴が、手を、握るのは。別れ際って、決まってたから」
 ショックなんだろうな。
 焦点があってねぇ。
 俺は堪らなくなって、ベッドの上に起き上がると、自分の腕の中にロイの身体を引き摺り上げ
た。
 怯えるように俺の目を見詰めてくるので、ロイの背中をぽんぽんと叩いてやる。
 先刻の虚ろな雰囲気はなりを潜め、しかし、物悲しそうな色は消せないまま、ロイは続きを
語った。
 「何時ものように、服を脱げ、と言われて。大人しく、脱いで……鋼の?こんな話不愉快じゃ
  ないのかい」
 「愉快じゃねーけど。アレの存在ひっくるめて、アンタを抱えるって決めたから。教えてくん
  ねー方が、むかっ腹が立つ」
 「ふふふ。ありがと」




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