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 好きで背負った訳でなない。
 ただ、目の前に居る誰よりも何よりも大切な人間が、俺にしかできないから。
 私の代わりに、お願いだからと言われて。
 不承不承やっているだけの話。
 代わりになるような奴が居れば、すぐにだってくれてやるのに、と常々思っている。
 「器用って言えばさぁ。皆、会いたがってるぜ?」
 器用といえば、ヒューズ大将。
 ロイの親友で、恋人だった人物。
 普段はあまり気にしていないが、ロイの前で彼の名前を直接出してしまう勇気はなかな
か持てない。
 酷く、悲しそうな顔をされてしまうから。
 「……皆は、元気かい?」
 「自分の目で確かめればいいだろうが」
 「…うん……そうだね」
 しゃくっと、レタスを噛み締めながらはんなりと、笑う。
 「体調が、後ちょっと落ち着いたらね」
 「何?ノックスせんせに、何か言われたんか?」
 「少し。血液の血小板と白血球がまた激減してるんだって」
 「そっか……」
 きっと、かつての親友や部下達に会えば、少しは気鬱も晴れると思うのに。
 ロイは、彼彼女等に、滅多な事では会おうとしなかった。
 実際問題、体が久しぶりの知人に会える状態じゃないってのは差し置いて。
 たぶん、以前とは全く違ってしまった自分をあまり見せたくはないのだろう。
 俺だってきっと、現場に居合わせなかったら、彼彼女等と同じ扱いをされていたに違いない
のだ。
 「じゃ、仕方ないな……特にさ。ホークアイ大佐とハボック中佐が結婚するっていうから……」
 「本当に!」
 「本当に。だから式には絶対ロイにも来て欲しいって。どうしても無理なら、うちの庭でガー
  デンパーティーっぽい結婚式にしたいって」
 「そうか……リザの花嫁姿…綺麗だろうな。見たいなぁ……」

 うっとりと夢見る風情で呟くロイに、胸がぎりりと締め付けられた。
 ロイは本当に部下を大事にしていて、特にロイの側近で双璧と呼ばれた二人を事の外
慈しんでいた。
 まだ、ロイに近づけなかった俺が羨み憎むほどに。
 「はぼっくもなぁ。タッパあるから、盛装似合うんだ。これが」
 何を思い出したのか、くすくす笑うロイを見て、更に胸が軋んだ。
 時折。
 この人は今、俺と一緒に生きているんじゃなくて。
 彼彼女らと一緒にいた頃の思い出で、生きているんじゃないかなって。
 そんな風に思ってしまうのだ。
 余りにも儚げで、幸せそうだから。
 「でも、無理だな……人前に出たくないし」
 「んじゃ。うちの庭でガーデンパーティにしとけよ。二人は勿論、喜ぶぜ」
 「うん……」
 「あの二人が、ロイの嫌がる相手、連れてくるはず無いだろう?」
 普通に考えたら連れてくる人間でも、ロイが嫌がると思えば、あの二人の事、綺麗にカット
アウトしてみせるだろう。
 「……ヒューズ一家とか、さ」
 「っつ!」
 「嫌、なんだろう?」
 女の体となって、何度か会ってはいる。
 家族全員と。
 グレイシアも親身になってくれるし、エリシアもビックリするほど懐いていた。
 ヒューズ大将に至っては、甘く激しい熱が再燃しそうな眼差しを向けてもくる。
 たぶん。
 ロイは、そこが嫌なんじゃないかと思う。
 男の身であっての頃ならいざ知らず。
 女になっても、ヒューズ大将が自分に執着するのが。
 応えてしまいそうな、自分も含めて。
 散々浮名を流してきたロイだが、二股はかけない。
 不倫もだ。
 俺との関係も随分迷ったようだ。
 俺が随分年下だからな。
 噂と違いかなりの貞節。
 「……そう、だな。嫌、かも」
 「だから、そこいらは無理せんでいいって」
 「でも。せっかく二人の晴れ舞台なのに。皆に見て欲しいんだけどな」
 「二人は誰に見られるよりも、アンタに見られたいと思うよ」
 「そっかな」
 「承諾でいいな?」
 「……うん」
 不承不承頷く。
 気が変わらない内に電話しておこう。
 二人とも狂喜乱舞するだろう。
 何より、久しぶりにロイに会えるのだから。
 「……エドワード」
 「んあ?」
 「いきなり不機嫌になって。どうしたんだい」
 「あー。ロイも二人には甘いからなって。しみじみ」
 「君には特別に甘いけど」
 「知ってる」
 知ってるけど。
 俺が一番だって、思う側から不安になる。
 ロイの代わりに大総統を続ける、この関係は、ご褒美なんじゃないかって。
 「……まぁ、いいさ。飯食ったら甘やかして貰うし」
 「先刻の……人の話を聞いていたかね?」
 「て、たさ。勿論。だいじょぶ。ロイをヨクするだけだから」
 「それが駄目なんだと!」
 「わかってるけど、我慢できません」
 ふくよかなやわらかい胸に顔埋めて、乳首ちゅうちゅう吸いながら、下肢を弄くり倒して、
イイ声聞かせて貰わないと。
 一日が終われない。
 「時々、思うんだ。私の体調が何時までたっても平行線なのは、君のせいかもしれないっ
  て」
 「人聞きの悪い事言うなよ!こんなに、愛しているのにさ」
 「……」
 以前のこの人とは違うトコ。
 甘い言葉に弱くなった。
 まぁ、言う立場から言われる立場になったってーのもあるんだろうけどさ。
 顔を真っ赤にするロイの頬をぷにっと押す。
 「さ。頑張って綺麗に食えよ?後片付けすませたら。するからな」
 「……シャワー」
 「俺は浴びるけど、ロイは後から。イイ匂い消すなって」
 ロイの顔が更に赤くなった。
 「……っつー訳で。俺は電話してシャワー浴びてくる。それまでに完食するように」
 「めっきり、暴君が板についたねぇ。エドワード?」
 「は!奥さんに尻に敷かれた暴君だろ?」
 オレンジジュースで濡れ光る唇に軽いキスをした俺は、自分の食器をキッチンヘ持ち込み
ながらシャワーを浴びるべく、席を立った。
 口元には、我ながらどうかと思う、にやにや笑いが浮かんでいた。




                                           END




 *あっさりと終わらせたのはロイ視点で続編エロを書くと決めたから(苦笑)
  ハボとリザの結婚式風もちょっと書きたいなぁとか。
  長編の予感……。





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