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 「時間がないから、今度ゆっくり話すよ」
 「されたんか、されなかったのか、告白!」
 「されたっつ!これで、いいだろう?続きの話は、今度お前が来た時だ」
 「……卑怯者めっつ」
 その表現は、お前の専売特許だろう?とは胸の内。
 私は一息に、くうっとホットミルクを飲み干した。
 最後の最後はまだ、咽喉がびりりとする熱さだった。
 「ほら、お前こそ。時間ないんだろう?玄関まで、見送ってやるから」
 「嫌だっつ!髭剃ってから、ロイちゅうするんだ!ロイちゅう!」
 「どんな言葉だよ……わかったわかった。濃厚ちゅうだな?してやるから、髭、剃って
  来い」
 「あいっさー!」
 現金なモノで先刻のやり取りも忘れたかのような勢いで、ヒューズは洗面所へと消えた。

 あの様子なら、調子こいて髭を剃り過ぎそうだ。
 ま。
 つるつる顎の奴も新鮮でいいがな。
 鋼のと、キスをするのを思い出すから。
 
 告白は、どこで修行したのか怖くて聞けないな、という手馴れたキスと一緒だった。
 と、言うよりはキスが先だったのだ。
 『大佐!』
 と、呼ぶ声に。
 『何だね……』
 鋼の、というその、彼に似つかわしくない二つ名を呼ぼうとしたのだが叶わず。
 仕掛けられたキスにの上、蕩けて消えた。
 『ん!』
 鼻から息をする余裕を奪うような、情熱的で巧みなキス。
 抵抗するよりも、好きにさせた方が終わりは早いと踏んだが、中々開放しては貰えなかった。
 背中をするすると這う指は、愛撫の蠢きのそれで。
 人に見られたら、淫行罪で私が逮捕だ!と、血の気が引いたのを見計らったように離れて行く、
幼いとは言えない熱。
 『人に見られるようなへま、しねーよ?』
 周囲を気にする私を嘲るような言葉。
 思わずむっとしてしまう、私は大人気なかったと、自分でも思う。
 『だからと言って、していいことでもないだろうが。嫌がらせにも程がある』
 『嫌がらせでもねぇんだな。これが』
 こん、と膝の裏を勢いよく蹴り飛ばされて、体勢が崩れる。
 支えてくれた鋼のの、腰に縋るような状態で膝をついてしまった。
 相手が、鋼のでなければこんな不覚は取らないのだ。
 自覚症状もあるが、私は。
 エルリック兄弟に、とても甘い。
 『俺、アンタが好きなんだ』
 『何の冗談だ?』
 『本気だよ。そんな風に素っ頓狂な顔するアンタもすんげぇ、可愛いって思う』
 生身の手で髪の毛を丁寧に梳かれ、機械義手の手が、そおっと私の頬に触れてくる、その。
 何時にない、繊細な指の優しさに。
 私は、鋼の本気を見た。
 『告白も、アルが戻るまで我慢するつもりだったんだけど。ライバル、多そうだからさ』
 腰をかがめて、額に、瞼に、頬に、眦にキスを贈ってくる。
 『まずはな。宣戦布告』
 『物騒だね』
 『だって絶対アンタを俺の物にするっていう誓いだから。今、アンタが誰の物でも、奪うよ。
 だから宣戦布告』
 私に布告する辺りが、また鋼のらしくて、私は口の端で笑った。
 『そうそう。アンタはそうやって俺にだけ、笑っていればいいんだよ』
 随分と生意気な物言いを、どこか嬉しいと思う自分がいて驚く。
 私は私で、彼が随分と好きだったようだ。
 最も鋼のの言う『好き』とは、かなり温度差があるのは間違いないが。

 「はーい、ロイちゃん。ロイちゅうをお願いしますよー」
 どんなステップなんだ、おい!
 と突っ込みを入れたい、華麗なスキップステップを踏みながら、ヒューズが飛ぶように近寄っ
てくる。
 「ああ、ほら。顎寄越せ」
 「顎じゃ、嫌だ」
 「最初は、顎だ。譲れない」
 「うー」
 不承不承ヒューズが、顎を寄越す。
 ちゅうっと口付けて、舌を這わせる。
 幾らか剃り残しがあるから、自宅に帰る頃には何時も通りに復活しているだろう。
 今はつるつるな肌に口付けたかったんだけど。
 まぁ、仕方ない。
 「ロイ?」
 鋼のと比べているのがばれたのだろう、きつく眉根が寄るのを宥めるように、濃厚なキスを
仕掛ける。
 太陽が燦燦と降り注ぐ朝、何とも卑猥な話ではあるな。
 最後に奴の唇を甘く噛んでやれば、機嫌は簡単に元通り。
 ある意味こいつは、単純な奴なのだ。
 「では、気をつけて」
 「お前も、脱走しないで仕事しろよ」
 「同じ言葉をそっくり返してやるよ」
 まだ何かを言い募ろうとする奴を、しっしと手の甲で追いやる。
 時計を指先でここんと、叩く仕草をすれば、いい加減時間がぎりぎりなのに気づかされた
のだろう。
 それでも、しつこく手を振り振り走って行った。
 「やれやれ。嵐が去ったな」
 私は大きく伸びをしながら、へわと間抜けた欠伸をした。
 出勤時間までは、まだ間がある。
 もう一眠りしようと、カップをキッチンへ運んで寝室へ向かう。
 途中。
 カップに張り付いた、ミルクの膜の残りをじっと見詰めた。
 「鋼のに、ミルクキスなんてしたら、嫌がられるだろうな」
 それとも、彼は。
 ちらりと見せた男の顔で言うのだろうか。
 こうやって、アンタが毎日口移しで飲ませてくれるなら、好きになれるかもしれないぜ、
牛乳。
 ……と。




                                        END




 *SEXに不慣れで、ロイたんにやられっぱなしなエドも萌えるのですが。
   どこで、致してきたんですか?というような手馴れた、末恐ろしいエドも萌。
   今回はちゅうだけですが、手馴れエドで。
                                                   2008/03/04




                                         前のページへメニューに戻る
                                             
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