「んな、もん?」
「我ながら情けないと思うけど、近い人間にはバレバレらしい。苛々してくるんだそうだ」
俺と一緒に居る時には見せない顔だ。
それだけ俺と一緒にいてご機嫌なんだって思えば、純粋に嬉しい。
「だからね。他の相手と寝る。中尉も少尉も私だけを好きで居てくれるから、罪悪感があるけ
れど絆されるんだ。強請られれば三回に一回は受けるようにもしているんだよ」
「ふーん」
少尉は毎日、きゃんきゃんしてそうだけど。
中尉のオネダリは想像つかない。
仕事をさせようとしての飴的な、可愛らしいオネダリはまだ考えられるとしても。
「だが、ヒューズは違う」
「グレイシアさんとエリシアちゃんがいるから」
「そう。余計な罪悪感を抱かなくてすむ。それに付き合いが長いからいちいち望みを口にし
なくてもいいようにしてくれるし」
「……精進します」
「んー。君がヒューズみたいになったら、それはそれで嫌だから君は君らしくって事で」
「あい」
まぁ、中佐のようになれっつってもなれない。
だいたい俺、ロイが居るのに女なんか作れないし。
「だから、所謂SEXの相手として申し分ないんだが……とにかく付き合いが長い分、
遠慮が無さ過ぎる所があってなぁ。手前勝手だと思っても、今みたく無性に腹が立つ
訳さ」
不意に慈しまれるような、哀れむような眼差しでじっと見詰められて。
「すまないね」
俺にはどう否定的に見ても、可愛くしか見えない仕草で首を傾げられた。
「……謝るこたぁ、ねーよ。俺。アンタに愛してもらってるってわかって嬉しいから」
「へぇ?」
「何だよ!意外そうな顔してさ。俺にはアルが居るから言わなかったけど。言えなかったけど。
言う、資格もないと今でも思ってるけどさ。言いたかったんだぜ」
言おうか言わないか、それでも迷って大きく息を吐き出して決意する。
「『俺と中佐どっちが大事なんだよ!』ってさ……」
「…鋼の……」
「だから!そーゆー顔するのわかってたし。俺もアルとアンタどっち大事?とか聞かれても
答えられないと思ったから、遠慮してたんだ!けど、アンタが俺を『愛してる』とか、言うから」
「甘えたくなった?」
「……ストレートに言うなよ。ド阿呆」
「ド阿呆はないだろうに……」
それでも、嬉しいんだと思う。
大きく腕を広げてくるので、その中に大人しく身体を寄せる。
優しく抱き締められて、額に口付けが届いた。
俺はこんな風にして、ロイに抱き締められる度に。
自分がどれ程、人の温もりに飢えていたかを思い知らされるんだ。
「……どちらが大事かと言われたら、君が大事だ。けれど、たぶん……」
「ちゅーさとは切れないんだろう?グレイシアさんの事がなくとも、他の相手とは別れられても
……俺が、アンタだけを見れる日が来るまでは」
「首を長くして、待っているよ?」
「ろくろ首にならん内に、なんとかしたいね」
「ろくろ首……ああ、極東の妖怪か」
「よく、知ってるね」
「アンタこそ」
「士官学校時代に読んだ本にあった」
「どんな学校だよ」
「色々と面白い所ではあったよ?」
「ふーん」
俺が知らないロイの時間を知りたいと思う反面。
知れば知るほど中佐との関係の深さと強さを知らされる。
特に士官学校時代なんて二人の思い出の宝庫だ。
だから、これ以上の突込みを、今はよしておく。
「君も……アルフォンス君の体が戻って、私を支えてくれる気になったら、一度訪れてみると良
い」
「そ?」
「今言ったみたいに面白い本があるからね。それに、軍人として生きるならば一度あの、独特
の雰囲気を知っておいた方がいいだろう」
ロイを支えたいという気持ちは、今でもある。
が、それが軍人になってまでかどうかは。
まだ、決めきれない。
「……ま。全ては君達の野望が達成されてから」
「ふん。アンタの野望よりは先に達成できるだろうぜ」
「私も心からそれを望むよ……さ、今日はもう寝ようか。明日には発つんだろう?」
「ああ、悪りぃな」
「謝らなくていいんだよ」
もう一度、今度は頬にキス。
嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
ロイからしてくれるキスなら、どんな物でも。
しかし……どうにも子ども扱いされている気がして、腹が微妙に痛む。
「んじゃ、おやすみ」
だから俺は、身体を入れ替えてロイの身体を抱き抱えた。
生身の腕での腕枕も忘れない。
何がおかしいのか、くすりと笑ったロイも。
「おやすみ……良い夢を」
と返事をくれる。
目を閉じたロイの唇の上に軽くキスをして、俺も静かに目を閉じた。
END
*な、なんか不思議な終わり方になりました。
ヒューズを捨てられないけれど、エドにめろめろなロイさんでした。