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 どっちが大事?


 「んあっつん!ああっつ。はあっつ」
 この男の、いいトコはだいぶ覚えた。
 「…っと!…おくっつ……入って、き……てっつ」
 元々男に抱かれるのに抵抗、ない奴だったってあんのかもしれない。
 「はが……ねっつ……?のっつ…お、くっつ」
 女とするSEXと同じでも、乱れるほどに感じてくれたから。
 「はいはい。ここまでが手一杯です。俺のは短いからね。これ以上奥は、無理」
 「でもっつ」
 「足りないってか?他の男と比べてんじゃねーよ」
 男を銜え込むのに慣れた場所は、まだ。
 俺を飲み込み形にはなってくれない。
 「比べてなんかっつ!あああっつ」
 「いるだろ?」
 こいつを長く抱いてきた男の、好みのままで固まってしまっている。
 身体だけじゃない、心も魂も何もかも。
 「ちゅーさじゃなきゃ、アンタ誰だっていいんだもんなぁ」
 俺を選んだ理由なんて簡単だ。
 いざって時、中佐に言い訳できるからだ。
 可哀想な子だから、拒否できなかったんだって。
 お前、あんな小さな子に、そんな酷い事できるのかって。
 実際、電話で二人の会話を聞いた事がある。
 や、聞かされたと、いうべきかもしれない。
 今も、また。

 りりりりん。
 りりりりん。

 寝室のベッドから腕を伸ばせば、すぐ届くテーブルの上に置かれた電話が鳴る。
 「出んなよ!」
 こんな真っ最中に、普通電話なんかでないって思うじゃん。
 ちょっとでも、相手の事を考えるなら、失礼だって、さ。
 「……この電話は、軍の人間しか知らない。緊急の用かもしれないだろう?」
 確かに、そうだ。
 この男は、こう見えても生粋の軍人。
 しかも超エリートって奴。
 女の噂の絶えない奴だけど、自宅の電話番号は、素人にも玄人にも絶対に渡さない。
 『申し訳ないが、緊急の電話が多いのでね。プライベートの番号は渡していないのだよ』
 と、あろうことか、軍の番号。
 しかも、執務室直結の番号を渡しては中尉に雷を落とされている。
 最も相手は選んでいるようで。
 定時上がりの時間外や、昼休みにしか電話が鳴る事はないらしいけれど。
 「いいね。出るよ?」
 もしかしたら、本当に中尉とか少尉達からの緊急回線かもしれない。
 二人で抱き合っている時に、かかってきたケースもないじゃなかった。
 「……もしもし。待たせたね」
 でも、たぶん。
 この電話は違う。
 『ったくナニしてたんだよ!切ろうかと思ったぜ?』
 案の定。
 聞こえてきたのは、憎たらしい男の声。
 こいつとの肉体関係に爛れる前までは、決して嫌いじゃなかったどころか、好きだった中佐の
声だ。
 綺麗で優しい奥さんがいて、可愛らしい女の子もいて。
 実際、周りから苦笑されるほど大切にしている家族がいて。
 何で、こいつを手放さないんだろうと思う。

 「何の、用だ?」
 『用がなきゃ、かけちゃいけないんかよ』
 「いや?そんな事も、ない、が」
 『……ったく、俺がちょっと目を離すとすぐ誰かとヤリやがる。今日は誰だよ。ああ?ワンコか、
 ぱいんぱいんな鳥か、それともまさか、豆じゃねーだろうな』
 「……誰が豆粒ドチビだって、ああん?」
 思わず受話器を引っ掴んで、怒鳴りつける。
 「何だ。お前さんか。今日は何となく、ぱいんな鳥かと思ったんだけどね」
 「ぱいんな、鳥?」
 先刻から、イマヒトツ誰の事なのかわからない。
 ワンコ、といえばハボック少尉なのはさすがに知れるけれど。
 「おっぱいが、ぱいんぱいんな、鷹の目っていわねーとわかんねーのかよ」
 「え?アンタ中尉としてんの?」
 思わず俺の腕の中、にゃあにゃあと鳴く大佐をまじまじと見詰める。
 中尉とは、肉体関係だけはないと思ってた。
 近くに居ればいるほどさ。
 寝なくても、繋がってる気がしてたから。
 『へぇ?知らないんだ。中尉は寝た時期は俺より遅いが数なら、俺。負けるかもしれんよ?』
 「んだよ!それっつ」
 『俺がグレイシアを紹介してからは、頑なに、リザちゃんとの関係を誇示したもんだ。俺なんか、
  いらないってトコだったらしいがな』
 そのまま、こんな男。
 切って捨ててしまえば良かったのに。
 中尉となら意外だけどまだ、許せるんだ。
 女の人だからね。
 結婚とか、して。
 祝福されるっていうのなら、それで。
 時々、貸し出してくれれば最高だけど。
 『ま、無駄な努力って奴さ。基本的に頭いいはずなんだけど。時々馬鹿だよな、ロイは』
 ふぅと電話越し方を竦める姿が目に浮かぶようだ。
 『さ。エド。ロイに代わってくれよ』
 「何、話すんだよ」
 『何でもいいだろうが』
 「よかねーよ」
 『ろぉい。豆粒さん。説得してくれね?』
 「だから、誰がマイクロミニマムみじんこだってーのっつ!」
 「……鋼の、小さい物に関する語彙って凄く多いよね」
 くすっと笑われて、怒るよりも先に笑顔に見惚れる、駄目な俺。
 「説得する気かよ?」
 「まさか、切ってくれていいよ。電話」
 「へ?」
 そう来るとは思わなかった。
 『ロイちゃん。何言ってるの?俺様大切な密談があんのよ』
 「明日軍の回線で賭け直してくれ」
 『おいおい。緊急だって、ば。じゃなきゃ夜中に電話なんかかけやしねーって』




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