人格者としての認知が高いヒューズが、覗かせる暗い面が私にだけ向けられているのだとい
う、自負すらあったのだから、我ながら失笑を禁じえない。
けれど。
それは、一昔前の話。
今ではお前とのSEXも苦痛なだけで。
どれだけ、嫌だと口にしても止めないお前。
少しは、お前から離れてしまった私の気持ちが伝わるのか、行為そのものだけはしつこい。
SEXで、引きとめようと、しているのだ。
私が、鋼のとの行為で満たされていないと思い込んでいる、愚かな奴。
一体、私はこんなに底が浅い手前勝手の、どこに、焦がれていたんだろうか。
そろそろ思い出せなくなりかけている。
「だからさぁ。あんなガキなんざ、やめておけよ」
結局は、そこ。
ヒューズは私が、ヒューズ以外の人間に心を動かされるのが単純に嫌なだけだ。
恐らくは年下で、自分が完全に子供だと思っている(悪く言えば完全に見下している)人間
に執着する私が許せない。
度量のない、男。
「な?ロイ」
重ねて問うてくる相手に、おざなりの返事を返すのも面倒で、私はしたくもないキスを自分か
らして、ヒューズの言葉を封じながら腰を振る。
そうと、望まなくなってからも、散々に躾けられた。
ヒューズを身体で陥落させるのは、さして難しくもない。
手馴れた風に、奥方では怖がって踏み込めない領域にまで足を突っ込めばいいだけ。
この程度で、ヒューズ以上に側にはいられない鋼のを、守れるのならば安いものだ。
あまり邪険にすればヒューズは、鋼のの排除を画策しだすだろう。
今はさすがに、鋼のの境遇に同情し、ましてや弟をも巻き込む羽目になるからと、直接的な
手段を講じていないだけの話で。
言葉での忠告は何度かなされている。
『ヒューズさんが、あんな人だとは思わなかったな』
と、唇を尖らせて言う鋼のを、やっぱり身体で宥めたのは、ヒューズに牙剥けば無傷ではす
まないから。
『俺の猫を可愛がるのはいいが、ちょっかいは出すなよ?』
そんな風に言われて。
『俺の恋人を猫呼ばわりすんな!』
と叫んで終らせたと聞いているが。
実際は、こんな風に、蹴りはついていない。
いっそ、グレイシアに二人の関係を告げてしまおうか。
全てを捨てて鋼のについて行こうか。
なんて、考えたりもするけれど。
それをするには、私は抱えるものが多過ぎる。
何より、心優しいグレイシアを傷つけたくないのだ。
所謂不倫されていたのだと知って、許せる女性ではない。
ショックで壊れたりする可能性の方が余程高いくらいに。
私をヒューズの親友だと思い込まされて、引きずられるようにして家に連れ込まれる度に、
申し訳ないぐらいに暖かなもてなしをくれた。
もう、一生私は暖かな家庭が持てないだろう。
だからこそ、グレイシアから安寧を奪えない。
不幸な人間は少ない方がいい。
あの、優しい人を、私が傷つけていいはずもないのだ。
「だって、しょーがねーだろう?お前は俺の子供を生んじゃくれないし」
「……生めれば、どうだったというんだ」
「そりゃもう、とっとと嫁にして孕ませて、家庭に縛り付けて、俺だけを銜えて喜ぶ…それ
を疑問にすら思わない女に躾てやったさ」
私にだけ向ける邪な感情なのだろうが、根本にこんな欲望を抱いて、グレイシアの身体
を開いたヒューズを心の底から軽蔑する。
「孕めなくても、同性でもこうやって抱いてやってる。それだけ、お前が大事なんだよ!
どうしてわからないんだ」
「……」
ならば、お前を嫌いになってしまった。
鋼のを好きになってしまった。
もう、お前に二度と抱かれたくない。
金輪際、二度と。
そう、言い続ける私の気持ちを、どうして、わかろうとしない。
好きな人間ならば、尚の事。
相手の気持ちを尊重するだろう?
私はずっと、お前の意見を尊重してきた。
嫌だとすら、言わなかった。
お前が、好きだったから。
でも、今は違う。
お前が、嫌いだ。
触れられて、虫唾が走る程に。
生理的嫌悪を覚える程に。
「……やっぱ、側に居てやれんのがいかんのかな?もう直、お前も中央に召還されるだろう
から。そんな話も実際あるから……そうしたら、今よりもっと抱いてやれる」
だから、抱かれたくなどないのだ!
「淫乱なお前が欲求不満にならないように、ちゃんと甘やかしてやるからさ。奴とは手を切れ
よ?な?」
手を切るのなら、お前と。
それは、絶対に変えない。
変えさせない。
変わらせないで、いてみせる。
「ロイ、返事!」
「…ごめんだな。別れるなら、お前とだ」
「つっつ!」
髪の毛を引っつかまれて、後背位で攻められる。
かなり激しいSEXなのだろうが。
昔からヒューズの無茶に慣らされた私には、どうということもない具合だ。
顔を、見なくてすんで、ほっとする余裕があるくらいには。
ああ、鋼の?
本当に、すまないね。
私はまだ、この男から上手く逃れられる術を見出せない。
君とアルフォンス君を巻き込まないで、グレイシアを悲しませないで、これを切り捨てるには、
私が行方知れずにでもなるしかないのだ。
いっそ、そうしてしまおうかと、思いつめる時が多かったりもする。
もしかしたら、実行してしまうかもしれない。
思いつめる私の表情には、深い陰りがあるだろう。
だから、どうか君だけはその影に気が付かないままでいておくれ?
私が、ここからいなくなったとしても、私は君が好きだから。
ヒューズの追っ手のかからないどこかで。
ずうっと、君を待っているから。
……ね?
END
*ロイさん遅い反抗期?そんな雰囲気で。
巻き込まれるエドが可哀相だ、とかヒューズは思ってます。
エドは、ロイたんへの愛とアル君への情の間で揺れてます。
アル君は、自分がエドから離れれば、兄さんはロイさんと一緒にいられるのに!
とか、思い込んじゃってます。
やっぱり、ロイたんがエドにもヒューにも知られずに遁走するのがいいのかと、
思わないでもない今日この頃でした。