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  縛恋(ばくれん)


 「俺、紅葉が好きなんだ」
 「?いきなりどうしたんだい。僕だって君が好きだよ?」
 「そういう意味じゃなしに!すっげえ好きなの。わかりやすく言えばSEXしてーって奴」
 「ぶっ!」
 口にしていたお茶を少しばかり吐き出してしまった紅葉の背中を擦ってやる。
 「はい、タオル」
 「ありが、と」
 真っ赤な顔をしているのは、茶に噎せっただけでもなさそうだ。
 「好きっていう感情は嬉しいけど。SEXの相手はご免被るよ。だいたい僕。男だよ?よく知ってる
  だろう」
 「性別なんてどーだっていいんだ。紅葉が好きなんだ。独り占めして。俺の腕の中に閉じ込めて、
  にゃあにゃあ鳴かせてぇ」
 「……重症?」
 「わかってる。馬鹿なコトを言っている自覚はあるんだ」
 せっかく双龍という立場にある。
 友情以上のものだって簡単に望めた。
 だから、紅葉が他の人間に懐きさえしなければ今の状況だって悪くはなかったんだ。
 でも、ココの所。
 紅葉がいいっていう奴が多過ぎて。
 心配になったんだ。
 このままでは、紅葉に大切な人間ができてしまうと。
 皆が紅葉を甘やかすのはいい。
 でも紅葉が俺以外を甘やかすのは耐え切れない。
 だから。
 「でも、止められそうにないから。先にあやまっとく」
 紅葉を俺だけのモノにすると誓った。
 「ごめんな。紅葉」

 腰に手を回して、強引に引き寄せる。
 他の人間になら反射的に抵抗もできただろうに。
 驚きにただ大きく見開いらかれた目を、掌で閉じさせてやって唇を塞ぐ。
 黄龍としての完璧な器といわれる俺以上に、薬物に強い紅葉の口に含ませたそれは。
 一般的に覚醒剤と呼ばれるリタリン錠に含まれる塩酸メチルフェニデートの分量と数種類の
天然素材から抽出される催淫成分を桁違いに調合した非合法ドラック。
 一応自分で試した結果。
 猿並みの馬鹿さ加減で続けざま女を犯せたし、相手にした女達に至ってはよがりっぱなしのい
きっぱなし。
 まー悲しいかな、薬剤に慣れきっている紅葉の身体にそこまでは望めないので、もう一つ。
 俺の力でしか成し得ない、呪縛を施す事にした。
 「吐くなよ、紅葉。まあ、吐いたところで、吸収性が高いから、吐き切れないけどなあ」
 咄嗟に口の中己の指を突っ込んで吐き出そうとしたのは、さすがだ。
 悪い事をするには手馴れた俺の素早さと、どうしても俺に対して引け腰になる紅葉では、勝負な
んてはなっから決まっているのだ。
 鼻と唇を掌で覆ってしまえば、喉元が数度蠢いて、薬が嚥下されてゆく。
 「このまま、もちっといい子に、な」
 耳朶に舌を這わせれば、身体が小刻みに震える。
 意外にも、快楽に弱い性質なのだ。
 真っ赤な顔をして必死に俺の掌から逃れようとしているのは、だんだんと呼吸そのものが苦しく
なってきたからに違いないが、後少し。 
 「痙攣起こしたら、解放してやる。それまでは我慢だ」
 今頃はきっと頭の中が無駄にぐるぐると回り視界に星が飛び散っているだろう。
 時間にすれば三分程度といったところか。
 もう少し経っていたかもしれないが、紅葉の身体が痙攣を始める。
 酸素が行き届かない脳が、危険信号を出した証。
 掌をずらしてやると、紅葉が勢いよく吸い込んだ息に噎せる。
 
 「よし、よし。良い子だな、紅葉。今度はこれだ。お前相手にしかできねーし、効果はねぇだろ
  うよ」
 俺は自分の中指を歯の先で噛み切る。
 興奮気味の俺の身体は黄龍の力を暴走させるには至らないが、少々人とは違う身体の変貌
を遂げている。
 尖った二本の犬歯にかかれば、皮の厚い指先でも簡単に切れた。
 針で刺したような小さな穴が開いて、血が球状に盛り上がる。
 「さ、これを嘗めな。俺の血」
 「……い、や……だ」
 「拒否は許さねぇぞ」
 苦しげな呼気を荒く続ける唇に、強引に指を捩じ込んだ。
 「……んん……」
 「ほら、ちゅうちゅう、吸ってみせろよ。あんまし言う事聞かんと、優しくしてやれんから、な
  ……紅葉」
 紅葉は俺ワガママに慣れきっている。
 受け入れるのは時間の問題だろう。
 双龍とは、元々一つになるのが容易い存在だ、完全な否定は、己を真っ向から否定するよ
りずっと、難しかったりもする。
 おずおずといった感じで、紅葉の舌先が俺の傷を嘗め上げた。
 遠慮しいしい、ちゅうっと血が吸われる。 
 「そう。それでいい。後は、俺の血がお前の身体に馴染むまで、待てばいい……安心しろ。
  んな、長い時間じゃねぇから」
 指を抜いて、紅葉の唇にキスを仕掛ける。
 舌を絡めれば濃厚な血の味がした。
「や……た、あ……つ?あ?……体、あ。つ」
「熱くなってきたな。でもまだまだこんなもんじゃねぇんだぜ」
 俺の血で、紅葉の身体を女のそれへと変化させる。
 今の今まで誰にも試した事はなかったが、紅葉には通じるだろうと思う。
 男の身体を抱いても良かったのだが、それじゃあ紅葉の喜びが薄い。
 徹底的に俺を教え込んで、離れなくさせて、俺じゃなきゃ駄目!ってまで仕込むには、手慣
れた女の身体の方が良かったってのも、ある。
 何より、男の自分で抱かれるより、女の自分で抱かれた方が、紅葉自身、言い訳ができる
だろう?

 「やあっつ!」
 変化は、驚くほどのスピードで始まった。
 硬質で怜悧なと賞される美貌が、女性特有のやわらかな丸みを帯びる。
 凛々しい美女、とでも表現すればいいのだろうか。
 犯しがたい品のようなものが滲み出てきて、劣情をそそられた。
 髪の毛は、俺の好みのセミロング。
 ちょうど肩甲骨の辺りで、さらさらっと揺れる。
 瞳は変わらず、ただ行為の最中特有の潤みを帯びて濡れ光った。
 「さって、中身はどんな風に変わったかな?はーい。およ服をぬぎぬぎしましょうねー」
 いそいそとワイシャツのボタンを外す。
                  



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