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 小説 封殺鬼 

 今は亡き(新シリーズはでないんですよね!)小学館パレット文庫発行今年で10年以上にな
る長期シリーズの小説です。
 千年の永きを生きる二人の鬼と、二人を代々従えてきた三家の主要人物が織り成す、奇奇
怪怪?話。晴明様も出てきます♪
 平安時代版、現代版、大正時代版と、時代設定も色々あり。
 現時点で25巻でてますので、集めるならばのんびりと(笑)

 登場人物

 戸倉 聖(とくら ひじり)
 ……鬼の一人。関西弁を操る猪突猛進系。家事全般は器用にこなします。
  鬼であった頃の名は、鬼同丸(きどうまる)憎めない人です。

 志島 弓生(しじま ゆみお)
 ……鬼の一人。一見冷静沈着のクールビューティー系。意外不器用で依怙
 地。鬼であった頃の名は、雷鬼(らいでん)聖に甘い所がツボ。


 このお話の設定は、二人の鬼が三家の支配から逃れ(本編でも一応逃れましたが)、完全に
フリーになり(完全にフリーとはいいがたいのです)またっりと時間を過ごしているパラレルな設
定でお送りします。




 以下から本文です。
 



 
白昼夢
                                       

 夢を見た。
 別に私が望んだわけではない。
 むしろ、そう。
 聖が望みそうな夢だった。
 つい先頃まで親しかった、友人達と一緒に。
 穏やかに食卓を囲む夢。
 
 テーブルの上には乗り切れんばかりの、聖の手料理が並び。
 何が楽しいのか、皆は。
 一様に微笑んでいる。

 「ちょおっと!三吾。どうしてあんた、そんなに食い意地が張ってるわけ?お兄さんが泣くわ
  よ」
 秋川家次期当主・秋川佐穂子。
 聖に思いを寄せる女性。
 もう少ししとやかになって欲しいと、望むお目付け役の面々の顔が浮かぶ。
 「うるせーな。日々吹きっさらしの場所で、占いしてる貧乏人には一食一食が切実なんだよ!
  っつーかなんでそこで、兄貴を出すんだ兄貴を!」
 御景家次期当主・御景三吾。
 重度のブラコン。
 長い髪の毛にラフな格好は、彼を術者には見せやしない。
 そんなに食べ物に不自由ならば、実家へ帰ればいいのでは?と思うのだが。
 本人には拘りが合ってなかなか。
 戻れないらしい。
 「……よると触ると、だね。全く、仲が良いね。君達は」
 神島家次期当主・神島達彦。
 己に力が無いのを悔やんで、悔やみきれずに、どんな事をしてでも、力を得ようとしていた時
期もあったが。
 父親によって幾らか因縁を解放されたらしい、彼は以前より随分と穏やかに
笑むようになった。
 先頃まで仕えていた、主(あるじ)
 「あんたに、言われたくないわよ!」
 「てめーにだけは、言われてたまるか!」
 ほぼ同時に叫ばれても、達彦は軽く肩を竦めるだけだ。

 「何騒いどるんや?ほら、用意できたぞ、鍋。たれはどれにするか決めたんか?」
 タイミングがいいのだか、悪いのだが。
 決して場の雰囲気が読めないわけではないはずなのだが、時々……結構な割合で天然
なボケをかわす。
 『弓ちゃんほどやないでー!』
 と本人は膨れっ面をするが、私は奴ほど雰囲気を読めなくはない。
 「私は胡麻だれよ!」
 「俺はポンズだな。勿論葱と紅葉下ろしも入れるぞ!……おめーはぞーすんだよ?」
 自分の小鉢に山盛りの葱と紅葉下ろしを入れた三吾が、達彦の様子を伺う。
 「……昆布とかつおぶしの出汁を醤油仕立てで仕上げたもの。柚子を少し」
 「……贅沢な奴」
 「じゃあ、達彦はこれやな?柚子は自分で調節しいや」
 市販のたれでは納得がいかないのを承知していたのだろう、達彦用に作っておいたらしい。
 こういったことには、本当に労を惜しまない性分なのだ。
 「弓ちゃんは、胡麻だれでええな?すり大蒜増量した方がええか?これいつもとちゃうメー
  カーなんねん。弓ちゃんが好きな奴がなかったんや。堪忍な」
 「そのままで、いい」
 「さよか」
 小鉢に半分くらいの胡麻だれが注がれて、手渡された。
 「……っていうか、奥さん見ました?達彦さんよりワガママな方がいらっしゃりましたよ?」
 「まあまあ、見ておりますよ。ありがとうも言わないなんて、お里が知れますわね?」
 じいっと二人に見つめられて。
 「ありがとう」
 と、頭を下げれば。
 「なんやねん、弓ちゃん!今更照れるやんか」
 と、お玉で頭が叩かれる。

 これが。
 千年以上を共に歩んできた、鬼。
 歩んでいる、私の半身。
 昔の名を鬼同丸。
 今の名を、戸倉聖。


 私の、唯一。

 「しっかしなぁ?こないして、皆で鍋囲める日が来るなんて思いもせなんだわ」
 聖がしみじみと呟く。
 現実世界では到底ありえない状況。
 私達鬼を失った御三家は、佐穂子、三吾、達彦本人達の意思はさておき、表面上完全に決
裂している。
 力関係的には、今まで表舞台から姿を消していた秋月の元当主・佐穂子の父親が、何の思
惑あってか復帰した。
 ここにきて!と言った私に。
 娘が可愛くて仕方ない生き物だと気がついたんやろ、と聖は笑った。
 また、御影・影の実力者といわれた三吾の兄は、遠く、異国へ行くという。
 これで、三吾も落ち着くだろうと溜息をつけば。
 いやいや、まだまだやで?と聖はウインクをして寄越した。
 故に。
 神島は変わらず、秋月の力が増大し、御影の力が落ちた。
 若き当主に、それぞれ違った力及びカリスマがあるので、根本を揺るがす大事は起きていな
い。
 けれども、末端でのいざこざは悪化しているようだ。
 「そうねー。特に達彦はねー」
 「こいつ、一人で鍋やっても、俺達とはテーブル囲まなそうだもんなぁ」
 四方のテーブルをそれぞれ埋めて。
 溢れた聖は私の隣、せっせと鍋奉行と化している。
 「酷い言われてようだ。君達にかかると、私のイメージが崩れて困る」
 こんな風に、穏やかな微苦笑を、この青年が浮かべる日が。
 浮かべられる日が、訪れるとは思っていなかった。
 幼い頃から、見守り続けてきたけれど。
 悲しいくらいに、生真面目な子供だったから。
 父親に、似て。
 「まぁ。別に今。私のイメージが壊れた所で、何の問題もないけれどね」
 達彦が不意に、私を見て笑う。
 昔に良く見せた下僕を見下げる暗い瞳で。
 「だって、これは。雷電の、白昼夢だからね」




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