「……弓ちゃん?ぼうっとして。どないしたん」
見上げれば、そこには鍋を手にした聖がいた。
けれど。
見回しても、テーブルには私が一人きり。
聖が手にしている鍋も二人用の小さな物。
「夢を、見ていたらしい」
「へぇ。めずらし。白昼夢って奴やな?」
指で示されて、テーブルの端に置かれた鍋敷きを中央にと据える。
「……本家の若い当主達と、鍋を囲んでいたよ」
一瞬だけ、聖の動きが止まる。
「達彦がいるなんて、それこそ珍事やで」
浮かんだ微笑は、酷くぎこちないもので。
私は、聖の頭を引き寄せる。
「……三人と、そないな風にできればええなって思うけども。わいには、弓ちゃんがいれば、ええから」
「ああ。私も聖がいれば、いいよ」
何者にも代え難い存在。
どんなにイトオシク思っても、結局は先に逝く人間よりも、聖を選んだ所で、誰にも責められはしない。
「鍋……もう、食べられるのか」
「下茹ではしてあるけどな。一煮立ちさせんとあかん」
「そうか」
「うん」
頭を離せば聖は、私の対面に座る。
今だ、先程の私のセリフに捕らわれているのか、思案気な聖のため。
夢が現実になればいいと、思うけれども。
こんまま二人きり。
永遠にいられるのならば。
私には、別に。
それ以外を必要としない。
聖さえ、側にいるのならば。
END
*封殺鬼 弓生&聖
書きやすい人達だ。好きなシリーズに至っては、永遠に書き続けて欲しいなぁ。
と思うわけですが、作家さんの都合や出版社の都合でそんな訳にもいかず。
完結してしまう。
切ないものです。
その内秋月家側近の話とかも書いてみたいです。
さ、三年後くらいかしらん。