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 「続きはベッドの上でしようね」
 耳朶を擽る睦言に、こくんと従順に頷いた私は、恭しく私の手を取るホーエンハイムに、目を
細めて口の端をゆるやかに持ち上げる。
 ベッドまでの距離は、歩いて数歩。
 毛の長い絨毯が、足首までに絡んでくすぐったい。
 寝乱れたシーツの上、先に横たわったホーエンハイムの腕の中に収まる。
 筋肉質な腕は、彼を肉弾派の錬金術師にも見せた。
 肩から指先までをゆっくりと掌でなぞる。
 アームストロング少佐のように、筋肉フェチというわけではないが、引き締まった筋肉の隆起
は掌に楽しい。
 「ふふ。ロイ君?そんなところじゃないだろう。君が触れたい所は」
 掴まれた手首は穏やかな拘束の元に、ホーエンハイムの下肢へと運ばれる。
 手馴れた男のダイレクトさは嫌いじゃない。

 何度も私を喜ばせ、失神に追い込むまでは、萎える事のない肉塊。
こ の秘密を知った世の男どもの大半は、きっと禁忌など歯牙にもかけずに、相手を狂わせる肉
塊を求めるだろう。
 食べなくても生きてゆけ、眠らなくても死にはしないその身体が。
 性に秀でるのは無理からぬ話なのかもしれない。
 本来人が持つべき生存欲の三つの内、二つまでもが希薄な反動故に彼のSEXは、時折恐怖
を覚えるほどに貪婪なものだった。

 私の肉塊に比べて一回り以上は大きい硬直に、頬を摺り寄せて、口付ける。
 大きく揺れる肉を、そのまま口に納めた。
 とは言っても大きすぎるそれは、半分も口に入りはしないのだけれども。
 私が感じる愉悦を少しでも伝えたくて、ディープスロートを試みる。
 えずきかけるのを懸命に堪えて、喉全体を使っての出し入れの最中、ホーエンハイムの掌は、
私を労うようにゆったりと撫ぜ続るのだ。
 悲しいくらいにペースを乱す事無く。
 肉塊から口を離して、今度は舌で持って口ではできなかった個所へ愛撫を始める。
 「……少しでも、気持ち良いです?」
 肉塊に絡めた唾液が、ぴしゃんといやらしい音を立た。
 「君にして貰えるのならば、どんな事でも気持ち良いよ。身体に出なくて、申し訳ないけれども」
 何時でも限界までそそり立った肉塊は、私をいかせるまで同じ状態を保ったままなのだ。
 私を抱くようになって、己の体を、そんな風に変えてしまったらしい。
 できれば一緒にいけるような身体が良かったのだけれど、一度決めた設定は、簡単に変えら
れないのだと苦笑された。
 何もかもができるように、思うけれど。
 全てができる訳ではない。
 永遠を生きる代償に、喪ったものだが大きいのは、経験しなくてもわかる。
 人は元々、永くを生きるように造られていないのだから。
 「気持ち良いなら、いいです」
 優しく頭を撫ぜつけられるのにすら、快楽めいたものを覚えてしまい、軽く首を振って、肉塊
を嘗め続ける。
 袋の裏までも嘗め切って、濡れていない個所がないだろうな、と思う頃に。
 彼の指が私の頤を捕らえた。
 「今度は、私の番だね?」
 脇の下に腕を差し入れて、まるで小さな子供を抱き抱える時のように持ち上げて、太ももの
上に座らされる。
 数秒前まで、肉塊を嘗め上げた唇に、ご褒美の口付けがなされた。
 上と下の唇をそれぞれ、ちゅちゅっと吸われて。
 次は一緒に挟み込まれながら、甘噛まれた。
 それだけで、自分の肉塊が、大きく震えるのがわかって、何とも居た堪れない。
 腰と頭に回された手が、どこまでも優しく私を押し倒す。
 額と瞼と鼻先と頬と。
 唇は通り越して、顎と首筋を通って胸の飾りを、唇ではなく、髭が擽る。
 「それ、やめて下さい……」
 くすぐったい中に、紛れもない愉悦を見出してしまうなんて。
 髭フェチの嗜好は欠片も無かったのに、彼に仕込まれた。
 触れるか触れないかの位置で、もしくは髭の中、もみくちゃにされるようにして愛撫される乳
首への愉悦だけで、吐き出せる肉塊へと作り変えられてしまった。
 悠久を生きる存在は、私達と流れる時間が違う。
 SEXの時間は特に、それを実感させられた。
 乳首への愛撫だけで、一晩があけるなんて、普通は想像もつかない。                              

 「おや。好きでしょうに。こうやって乳首、弄られるの」
 散々敏感になった個所に、ふうっと息が吹きかけられた。
 たかだかそれだけなのに、びくびくと全身が震えてしまう。
 「ああ、そうか。正確には違うね。私のせいなんだった。私がたくさん乳首を弄ってあげたから、
  好きになったんだよねぇ」
 何時でも穏やかに微笑んでいるような人だけど、こんな時、扱く嬉しそうに笑う。
 あまり見ない類の笑顔は私を、とても興奮させるのだ。
 好きな人の、自分しか知らない笑顔なんて、誰だって嬉しいに決まってる。
 「ん、やああっつ」
 歯の先で極々先端をかしっと食まれた。
 掠める歯の感触に、私の肉塊からとろりと蜜が溢れ出たのを自覚する。
 「凄いなぁ、ロイは。乳首弄られただけで、こんなにとろとろにして。私にされるのは、そんな
 に気持ち良いかい」
 ん?と重ねて問われる最中も愛技は続く。
 女性でもないのにそんな場所で感じるなんて、と頭の片隅で思ったりもするのだが、吸われ
て、噛まれて、嘗められて。
 触れるか触れないかの微妙な位置で、指の腹、先端だけをゆっくりと擦られてしまえば、体
全体がとろとろと蕩けてゆく。
 「……ち……い、イ」
 中指の腹で丹念に擦られていた乳首が、爪先できゅっと抓まれる。
 「あ!それっつ」
 「痛かった?」
 「ん、ん」
 薄く目を開けて首を振れば、まるでご褒美というように、唇が塞がれて。
 真っ赤に腫れて膨れた乳首を、力を込めた親指の腹で押し付けられ、埋め込まれた。
 しかも、両方とも同時に。
 『やあああっつう』
 悲鳴は、ホーエンハイムの口の中で淫らに響いた。

 「おやおや。引っ張られて、噛まれて、吸われて。気持ち良くなれる子はたっくさんいるけれ
  ども、乳首を指で押されただけで、こんなに甘い声を出す子はきっと、ロイくらいだよ」
 「だって、貴方、の指だからっつ」
 「私の指は確かに節くれだっているがね?」
 「そういう、意味じゃありません!」
 「でも、好きだろう?ほら」
 長い年月を生きていたせいか、果ては多種多様の薬品さに晒されすぎたのか。
必要以上にかさついた指先は、ささくれだっているようで、敏感な個所を弄られるのには、最
適、というか。
 




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