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  「おはようございます」
 「ああ、おはよう」
 頬に触れてくる優しい掌に、すりっと頬を擦り付ける。
 「ふふ。君は全く変わらないな。あの頃のままだ」
 それは実際揶揄でもなんでもなく。
 僕は神に囚われた年齢のままだった。
 「加納さんは、少しだけ変わりましたね」
 「十年たったから、少しは大人になっていないと困るよ?」
 清廉さも穏やかさも変わらない。
 空気のような気楽さも、切実さもきっと変わっていないのだろう。
 外見だけが、高校生にあるまじき落ち着きを払っていたあの頃に比べて。
 年相応になった、そんな雰囲気だ。
 「僕、どれぐらい眠っていました」
 「一ヶ月ほどだ」
 「そんなに!」
 どれほどの不安を抱いて、眠る僕の側に侍ってくれていたのだろうか。
 「神との同化を断ち切る期間だから、仕方ないんだと、不破君が教えてくれた」
 「……相変わらず、詳しいんだな」
 僕自身だって、詳しくはわからない神との関係を、正確に把握してみせる辺りが何とも不破
らしい。
 「君の為に、皆。必死だったからね」
 「すみません」
 「謝ることじゃない。好き好んでの事だ」
 「……ありがとうございます?」
 「こちらこそだよ。君がいてくれたお陰で神も倒した」
 「その後は、どうですか?」
 「大本が居なくなったからね。異形の数も減ってきている。荒れる前とまではいかないが、だ
  いぶ秩序も戻ってきたよ」
 「良かった」
 せっかく、神が倒れても世界が戻らないんじゃ意味がない。
 僕だけが幸せでも、辛いだけだ。
 「……まだ、夜だ。もう少し寝ていた方がいいんじゃないのか」
 「いいえ。目が覚めてしまって……そうだ、あの!」
 「ん?」
 「……日本茶……淹れて頂いてもいいですか。前に淹れて頂いたの凄く美味しかったんで」
 「ああ、喜んで……起きられるか?」
 ずっと寝ていたせいだろう、体中の筋肉がなまっている。
 加納さんの手を借りて、何とか立ち上がった。
 「ゆっくりと、そう。焦らないでいい」
 肩をというよりも、体全体で僕を支えてくれる加納さんに先導されて、居間に行く。
 加納さんの性格らしく、綺麗に片付けられていた。
 片隅に置かれた土瓶から急須にお湯が注がれて、芳しい日本茶の香りが広がった。

 ああ、僕は。
 帰って、きたんだ。

 「……明日辺り、気分が良かったら、皆を呼ぼう。君の目覚めを待ち焦がれていたからね」
 「はい。お願いします」
 湯飲みに注がれたお茶を口に含んで、体が温まってゆくのを感じながら、僕は加納さんの
言葉に大きく頷いた。




                                                     END




 *加納&久神
  終わった!! ひゃあ。すっきりしました。
  自分の中での理想とするエンディングです。
  このまま二人。 まったり過ごしていけばいい。
  気がつけば当たり前のように抱き合ってたりして欲しい。
  でもって加納さんに『ちょっと犯罪者の気分かもしれない』とか
  言わせてみたいっすね。
  17歳久神と28歳加納。自分で書いておいて恥ずかしいですが萌だ。




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