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 オリジナル 高城学園 

 高城学園=霊能者専門養成学園。
 サイキックファンタジー要素てんこもり学園モノ。
 綾瀬の欲望のままに書き綴られるシリーズ。


 登場人物

 桐ノ院 和臣(きりのいん かずおみ)
 ……オールバック眼鏡のクールビューティー。人を魅了する瞳を保持する。16歳。
    晶激ラブで彼女を追いかけて高城学園に転入。生徒会会長。 
    最近は自分を甘やかす草薙の存在が気にかかって仕方ない。 

 草薙 聖(くさなぎ せい)
  ……長髪眼鏡で垂れ目。生徒会副会長。16歳。
     いつでも白衣を着て白手袋を嵌めている、学園唯一の毒操師(けみし)
     色々な意味で綺麗な存在に大変弱いお人。
     桐ノ院の不器用な真っ直ぐさにめろめろ中。


 二部構成になっておりまして一部、二部と設定がだいぶ変わります。
 『錯覚』は、ニ部の設定で。
 
 自分に甘すぎる草薙を、友人として認めているのか、恋人として欲しているのか、わからなくな
ってきた桐ノ院の日常の一端を。


 

 
錯覚
  

 「晶!どこですか、晶!」
 最近行方知れずになる頻度の高い晶の姿を捜して、生徒会室の扉を開ける。
 「……なぎ」
 三間からなる生徒会室の扉に直結しているのは、小テーブルが置かれた会議室。
 「いよう!和臣ちゃん。一緒にいかが?」
 草薙が一人、お茶を飲んでいる。
 「何度応接室で嗜めといえばわかるんだ?飲むなと、いっているわけではないんだぞ?」
 会議の最中に茶が振舞われる事もままある。
 だからといって、一人しかいないというのに、会議室でアフタヌーンティーセットの攻略するの
はどうなのだろう?
 「いやー。何か甘い物が食べたくなってさあ。家庭科室を覗いたら月白がいてな。頼んだから
  快く引き受けてくれたんだ」
 月白とは、晶と同じ月の称号を持つ、雑賀眞由のことだ。
 大人しい少女で、炊事洗濯裁縫が得意という今時珍しい子であろう。
 晶と仲が良いのを頼みに、無茶いったに決まっている。
 ティーセットはそれほど細やかな心配りの元に作られていた。
 クロテッドクリームがたっぷりとつけられたスコーンは、それを作るのにどれだけ手間がかか
るのか、晶の為にお菓子作りを覚えた私は、多少なりとも知っていた。
 「こんなに手間のかかるものを作らせて……後でお礼をしないといけないな」
 「やだなーおみ。俺だってちゃんとに御礼はしてるぜ?それともナニ?そんなに俺のフォロー
  がして回りたいってか」
 「……誰が、好き好んで……」
 「んなに、怒るなってば。晶だろ?先刻まで会長室に篭もってたけど、今は月読んトコだ」
 「また、か」

 直江を失って早一年。
 人形よりも性質の悪い状態であった頃よりはずっと、ましなはずなのに。
 その頃の晶の方が近い存在に感じるのは、私の錯覚なのだろうか。
 依頼の仕事をこなす以外では、どんな理由でも外出が許されない高城学園の規定を破って、
晶を理の下へ帰したのは他ならぬ私だ。
 帰したくなかった。
 できるならば、私の手で、晶を正気に返してやりたかった、けれど。
 数ヶ月四六時中側に居ても、私には無理で、どうしても、無理で。
 このまま狂わせておいた方が晶のためなのかと、思ってしまった時点で私は、晶を実兄の理
の側へ戻したのだ。
 彼ならば、正気に返せるだろうと思って。
 
 それは、半分正解で。
 半分が、致命的な不正解だった。

 晶は高城学園に帰ってきた。
 理の記憶から自分の姿だけを綺麗に抜きさって。
 別人に成り代わって。
 
 容貌は微塵も変わらない。
 食事量が減ったせいで華奢な身体に拍車がかかったがそれでも、病的とまではいかない、
バランスの取れた肢体。
 ただ、瞳が。
 いつでも誰かを大切に思う、天然の穏やかな瞳が消え失せた。
 代わりに宿ったのは、ただ暗い光。
 何者をも寄せ付けない、深い深い闇。

最初に近しかった人間を少しづつ遠ざけて、一人になる時間を増やし。
最近では、ほとんど、晶が唯一自分よりも能力が高いと認め、敬愛してやまない最高峰の予
見斎・月読が住まう地下の階層に入り浸っている。

 「今日もあちらへ泊まるそうだ。可哀相にな、和臣?」
 「そう思うなら止めて欲しいものだな、なぎ」
 「俺で止まるくらいなら、お前でも止まるだろうよ。違うか」
 冷静な指摘に、頭からすっと血の気が引く。
 「……確かに、そうですね」
 「きっついのは、何もお前だけじゃねーさ。ほら、紅茶。砂糖多めのミルクティーだ」
 「私は……」
 「黙って、飲め。でもってスコーンも食う。ほい」
 クロテッドクリームをたっぷりと塗られたスコーンが手渡される。
 焼きたてのスコーンの香りに、そういえば朝から何も口にしていないのを思い出して、一口
齧った。
 生地の優しい食感のまま、ほろほろっと口の中に崩れて、クロテッドクリームと溶けあうのは、
非常に好みで、良く晶にも作って上げた。
 微かに舌先に残る生地を流し込むようにして、飲んだミルクティーの甘味加減も絶妙だ。
 こんな時。
 認めたくないが、草薙という人物はしみじみと、頼りになる。
 食事を満足に取っていないだろう私の状態を見越して、強引に食べ物の手配をする辺りも含
めて。
 「……晶……このまま何でしょうかね」
 切実に彼女を必要としている私達を捨てて、師と仰ぎ、その絶大な予知能力を求める輩から
身を隠し、外へ出ることのできない月読を慰めるままに、一生涯を許可なくば立ち入れない地下
の暗闇で過ごすというのか。
 「俺も俺なりに、頑張ってはいるんだがな。幾つか裏目に出てる部分もある。如何せん、以前
  の晶とは全く別人てのが、性質悪りぃ。だいぶ慣れて来たと思ったら、離れる算段を始めや
  がる」
 なぎの口の中、かしょんとクッキーが噛み砕かれる。
 もくもくと咀嚼しているその表情は真剣そのものだ。
 「南条さん辺りに頑張って欲しいんだが。藤堂さんが許さないだろうしなぁ。碇も押しの弱い奴
  だし。綾波、綾波を上手く使えればいいんだが…あの子も、イマヒトツ人に執着せん子だか
  ら」
 晶を私達の側に止める為には、彼女の心を揺り動かすだけの材料が必要だ。
 南条圭さん。
 これは晶の従兄弟にあたる方だが、学園内でも少ない癒し系統の持つ人で、つい先頃まで
はその能力故に、精神崩壊一歩手前まで追い込まれた。
実の兄と事実上の絶縁をしている晶にとっては、ほとんと唯一の肉親だ。
とても大切に思っている人のピンチに、晶は東奔西走して南条さんの崩壊を止める一端を担っ
た。
 お陰様で、南条さんは一層完璧な癒しの力とその能力に取り込まれない強靭な精神を手に
した。
 それは学園にとっても喜ばしい事で、個人的にも心底良かったと思っているが、晶の強力な
枷であった不安要素が完全に取り除かれてしまったのも事実だ。




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