認めたくは無いが、心地良いのだ。
この男の口付けは。
何時だって何かしらを考えている私の頭が、僅かな時間とはいえ真白に染め上げられるほ
どに。
ちゅ、と唇の上に軽く触れるだけのキスを〆にして、草薙の体は離れてゆく。
「ご馳走様でした」
「……馬鹿が」
「そんなに無防備な面されちゃったら、頂くしかないって。だからさ、和臣?お前俺以外の前
で、んな面すんなよ?」
「どんな面だっつ!」
がたっと席を立とうとして、手首を掴まれる。
一応攻撃系の術者として称号を持つ私だが、草薙の拘束は解けなかった。
「なぎっつ。離さないかっつ」
「っていうけどね。おみちゃん?ロイヤルなミルクティーもスコーンちゃんも。まだまだ残って
いますのよ」
「うっつ」
またしても不覚を取ってしまった。
一度口にしたものを残すのはよくない。
一生懸命作ってくれた少女達に失礼だ。
私は大きく息を吐いて、再度腰を下ろした。
「本当、素直だよねー。おみは」
くくっと喉を鳴らして笑った草薙は、私のカップに入っているミルクティーを一息で飲み干すと、
新しいものを注いでくれた。
「自分のを、飲めばいいだろう?」
私が淹れたてのミルクティーが好きだから、冷えてしまったモノを自分で飲み干してまで、淹
れてくれたのだろうが。
素直に、ありがとう、とは言えるものでもない。
特に相手がこいつならば。
や、こいつだけなのかもしれない。
そんな風に思うのは。
甘えているのだという、自覚はないではない。
…認めたくないのだが。
「いいじゃん。冷たいの嫌いだろ?でもって俺は好きな人の飲み残しを堪能できるし。イイコト
尽くめじゃんさ」
「…気色悪い」
「つれない、お人」
くうとか、言いながらハンカチの端を噛み締めている。
一々芝居がかった奴だが、こちらが本当に受け入れる余裕がない時に、そんなコトはしてこ
ない。
少しは、私の中にあった晶への心配と不安が薄れたと、感じたからこその所業。
人の心を読む能力などないはずなのに、恐ろしくこいつは、人の心を掌握するのに、長けて
いた。
「そーいえば、おみは、何スコーンが空き?」
「スコーンの味の事ですか?」
「そうそう」
「……プレーンなモノが一番でしょうか」
ティーセットの中には、レーズンやチョコチップ、ベリー系のジャムが練り込まれたものがあ
るが、私が手にするのはプレーンだけだ。
「了解。次は多めに頼んでおくよ。だから、茶ぐらい付き合えよ?」
「全く……忙しい方達の手を煩わせないで下さい」
「んー。お前に食べさせるって言ったら皆喜んで作ってくれるぞ?和臣ファンはどこにでも
いっからな」
「お礼も出来ない方々に、手間を取らせるわけにもいかないでしょうに」
「受け取って貰えれば、それだけでって感情。わからんお前でもないだろう?」
そう言われてしまうと、ぐうの音もでない。
「な?おみ」
「お茶、ぐらいなら。長居はできませんけど」
「うん。それでいい。んー毎日の楽しみが増えたぞ!」
「ま、毎日する気ですか?」
「あったり前じゃんさ!」
何故生徒会室にそういった類の本があるのか不思議なのだが、草薙は本棚から取り出した
お菓子の本をいそいそと眺め始めた。
「なぎ?」
「和臣ちゃん、これこれ。これなんかどう?」
本の中の菓子を指差す草薙の様子に呆れながらも、どこか楽しい気がして。
溜息をつきながらも、一緒になってお菓子の本を覗き込んだ。
END
*草薙&桐ノ院
おお!何だかラブだ!桐ノ院にしては、素直だ。
このまま、二人。くっついてしまえぇ。
そんな気分だけど。
桐ノ院。生真面目だからなー。晶を手放せないんだろうなー。
でもって、そんな桐ノ院ごと、包んじゃうんだろうなー草薙。
この、出来すぎ君め!
…何かが違う、ような?