メニューに戻る次のページへ




 オリジナル 高城学園 

 我ながら、何でこんなに登場人物を出したんかなーとしみじみ思う、オリジナルのシリーズ。
 
  南条 晶(なんじょう あきら)
 ……直江を失う事により、自我を喪失。
    性格から言葉遣い、考え方全てが別人に。
    己の幸せを一切捨て、周りの人間を幸せにする為に命を賭ける事を決意。15歳。

 月読(つくよみ)
 ……と、ある陰陽師の家系で代々隠されてきた生粋の未来予知能力者。
    高城学園の手を借りて、そちらより逃亡。以降高城学園の最下層に一人住まう。
    名前不詳年齢不詳。数百年を生きているという噂。白髪赤目。

この話は、南条晶と月読のお話。
 一般人が関われる最高峰の予見斎(さきよみ)が晶ならば、予見斎だけしか会う事を許されな
い日本随一の予見斎が月読。
 直江を失って人知れず壊れてゆく晶に、真綿で包み込むような優しさを与え続ける月読。


 第二部設定になります。




 螺旋階段
  
 
 「晶……また来たのですか?」
 咎める口調ではない。
 どころか嬉し気な物言い。
 「ご迷惑でしたか?」
 この人は、私の何もかもを知る。
 たった一人私より上だと評価されるその能力で。
 だから、何も隠さなくていい。
 それが、どうにも楽で。
 私は最近ここへ入り浸りだ。
 「いや。私は嬉しいがな。他の人間は憂うだろうに」
 どれぐらい長きを生きているのかは知らない。
 ただ、言葉遣いがとても古風なので、永くを生きているのだとわかる。
 「義務は、果たしておりますよ」
 予見斎・朧月夜として、生徒会会計として、遊絲の主として、桐ノ院の協力者として、恋人と、
して……。
 日々眩暈がする責務をそつなくこなしている、つもり。
 「息ぐらい、抜かせてください」
 弱音を零せば、無言で誘われる、やわらかいけれども肉の薄い太ももに頭を預けた。
  真っ白い着物に包まれた膝は、私だけのものだ。
 「後、もう少しなんですから」
 皆がそれなりに、幸せな世界。
 傷つかないとはいわない。
 今際の際。
 幸せな人生だったと、振り返れれば良い。
 「晶……」
 「全部が終わったら、二人で過ごしましょう?」
 ここへは予見斎しか、足を踏み入れないと規則を改定し。
 食事は必要最低限、差し入れて貰えばいい。
 後は私が死ぬまで、月読を慰め続けられれば、それで。
 「何を馬鹿な事を。貴方にはそれを許さない相手がおるだろうが。少なく見積もっても二人」


 「一人と一匹ではなくて?」
 「……晶」
 今度は咎める声音に、私は酷薄な微笑を浮かべる。
 一人は、桐ノ院。
 一匹は、遊絲。
 私の異常すぎた能力の一部を触媒として、人である直江の姿から、狼である遊絲へと変じた、
最愛の人。
 古くから脈々と人狼の血を受け継いでいた、直江だからこそできた技。
 それができなければ、直江が狼になることはなかっただろう。
 私は器を越えた力を蓄えすぎた故に、壊れてしまっただろうが、今よりはずっとずっと幸せ
だった。
 例え直江の腕の中で息絶えたのだとしても。
 「誰が許さなくとも、私は私の決めた道を歩みますよ……」
 手始めに、実の兄でもある、理の記憶を封じた。
 生まれながらにして私を孕ませねばならない義務を帯びた兄は、私を何より慈しんで、非道
を起こす事を好まず何年か姿を消していた。
 私が直江を失って、自我を喪失しなければ、ずっと姿を消していただろう。
 子供を孕めば、その能力と精神を子供に譲り渡すので、私は死ぬ。
 私を殺したくなくて、失踪していた兄は。
 自分以外の人間に、私を殺させる事態だけは避けたかったのだろう。
 鉄壁を誇る高城の守りを掻い潜って私を拉致すると、狂気の淵に沈んだ私を、幾度も犯し
た。
 
 孕む、ようにと。

 『晶……晶……愛してる……愛してる』
 寝食を忘れて、ただ私を犯す物体と化した兄の、絶望に彩られた真摯な声音は、私を正気
の淵へと返した。

 
 狂っていた方が、ずっと楽で、とても幸せだったけれども。
 私だけを愛してくれた兄が、壊れてしまうのは切なかった。
 十人の女性がいれば十人は、格好良いと見惚れるだろう容姿も、幼かった私を思い通りに操
ろうとする血縁から守り抜くだけの知識と思考力も持ち合わせていた。
 後は、私にだけ向けてくれていた愛情が他者に向かえば、たやすく社会に受け入れられるだ
ろうと、そう思って。
 圭兄様の腹違いである弟の凌君に、兄の未来を委ねた。
 兄様が自分の代わりにと、南条コンツェルン次期総帥に押した凌君は、自分が心に決めた人
間には、とても優しい人だ。
 私の願いも快く聞いてくれて、兄の人生を真っ当な道へと戻してくれている。
 凌君自身のポケットマネーからの出資で、若い女性相手の雑貨屋さんを営んでいるという。
 最近はネット通販などにも手がけ始め、順調に利益を出しているらしい。
 『この調子なら、出資したお金まで返却してもらえそうだよ』と、嬉しそうに報告してくれた。
 「晶を忘れてしまったという記憶がそもそもないのだから、理に関しては成功したといってい
  いな?」
 私がナニを考えているかなんて、お見通しだ。
 繊細な指先が、私の髪の毛をゆっくりと梳いてくれる。
 「桐ノ院には、草薙がいますし。直江……遊絲には、守護獣仲間がおります」
 「それだけだろう?」
 「酷い言い方ですね。少なくとも草薙は。なぎは、桐ノ院を愛していますから」
 学園唯一の毒操師(けみし)であり薬師でもある草薙は、少々性格に難はあれど、桐ノ院を
こよなく大切にしている。
 傍目から見て、きつすぎる発言をさらっとする傾向にはあるが、それすらも結局桐ノ院のた
めになることが多い。
 特に桐ノ院本人にしてみれば、分かりにくい愛情だろうけど、私を愛してくれるよりも、草薙
に愛された方が、余程幸せだろう。
 最近は、随分となぎを見る目が変わってきている。
 桐ノ院がなぎに、ほだされるのは時間の問題だ。


 「それに、私には貴方がいます、月読。それ以上はないでしょう?」
 「……こんな風にお前を壊そうと、高城に招いたつもりはなかったんだがな。どこで……読み
  違えたのか」
 読み違え。
 それは予見斎として生きる我々が、通りたくなくとも、通らざるえない禁域。
 未来というのもは不確定要素が高く、私達が、こうであると定めた後であっても変化してしまう
ケースが多々ある。
 変化して後、上手く対処できれば、それはそれで未来予知は成功したことになるのだが。
 フォローしきれない部分というのも、確かに存在する。
 特にそれは、人の尋常ではない激しい感情が絡んだ時に起こってしまうケースが多かった。
 「直江は、私を愛しすぎて、私が、直江を唯一にしてしまったから……これはこれで仕方の
  ないことなのですよ」
 幾度自分にそう言い聞かせてきただろう。
 遊絲に成り代わってしまった、直江を抱き抱えて。

 


                                             メニューに戻る次のページへ
                                             
                                             ホームに戻る