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 小説 十二国記 

 しみじみと新刊読みたいのですけど、今年中には無理っぽいとの噂。
 小野さん自体が、そろそろ飽きてるらしいという恐ろしい噂も耳にしました。
 いちファンとしてはライフワークにしていただきたいんですがねー。
 中国風ファンタジー小説。
 ホワイトハートで11巻。+新潮文庫『魔性の子』で12冊。
 さあ、読んでみましょうとも!
 

 登場人物

 中嶋陽子・景王(なかじまようこ・けいおう)
  ……十二国ある内の一国、慶国の女王。
     気弱な女子高生だったはずが、気が付けば男前な、武断の王になりつつあります。
     かなり萌。

 浩瀚(こうかん)
 ……慶国の冢宰。王としての実務に不慣れな陽子をそつなくサポート。
    いかにも怜悧な三十前後の男性。これまた萌。

 陽子が少しは王様らしくなった頃。在位数十年辺りがいいかな?
 未来パラレルな感じで。



 

 物見遊山
 
                                      
 あれは、中学生の時だったか。
 日本でも遭難者が出ると言われた、谷川岳に登ったことがあった。
 上級者向けの山で、中学生には向かなかったと思うけれど、当時は何の疑問も持たずに、頂上
に向かってひたすらに足を運んだ記憶が残っている。
 先に上っている級友達の『後少しで頂上だぞ!』の声を鵜呑みにしては落胆し、擦れ違った人
に挨拶を返しながらも、苦しさだけが募った矢先。
 不意に、開けた。
 もっと、広い場所を想像していたので、呆気ないほどの狭さに途方に暮れたりもしたが。
 霧に煙る遥か眼下の景色は、それなりに美しいと、思った。
 さんざん大変な思いをして、もう一度とまでは気に入らなかったけれど。

 本当はお忍びで、先日悪戦苦闘の末に捕らえる事が出来たすう虞・黄精(きせい)に乗って一
人で来ようと思っていたのだけど。
 浩瀚に見つかった。
 夜中にこっそりと抜け出して、忍び足で厩舎に行ったら、腕を組んだ浩瀚が待ち構えていたの
には驚いた。
 『どこへ、おでかけで?』
 『いや。ちょっと……』
 『ちょっと、ではありません。全くこんな時間に。しかもお一人で!少々王たる自覚が控えめす
 ぎるのではありませんか?』
 王たる自覚って言われても、なかなか理解するのは難しい。
 日本は首相や天皇はいたけど、王様って人達はいなかったし。
 外国にはたくさんいたけれどテレビの向こうの話で、非現実的だったんだよね。
 こっちに来たら来たで、一番良く存じ上げているのは、良しにつけ悪しにつけ有名な延王。
 六太君にも、しみじみと『王として、あいつだけは見本にすんなよ!』と口をすっぱくして忠告
された。
 高里君ご自慢の驍宗様辺りとご一緒する機会があればいいのだけれど。

 とにもかくにも戴国は遠い。
 お忍びで行くには結構な距離があるし、公式で仰々しく行くのも何だか、面映かったし、何よりと
ても近しかった部下の離反により、乱れた国が落ち着くのにはまだまだ時間がかかるだろう。
 生真面目な性格の高里君が時折くれる連絡の様子から察するに、他国の王を迎え入れるのに
は、特に人材が整っていないらしい。
 王と麒麟が不在の間に、信頼していた人々も手酷い目にあっていたようだ。
 国が荒れる様は、この目でまざまざと見てきた。
 体裁が取り繕えるようになっても、なかなか心の傷を癒しきるのは難しいものだ。
 『主上?どうされました』
 『いや……王たる自覚をと言われてね。よく存じ上げている王は延王ぐらいだなーと』
 『あの方を手本にされるのだけは、お止めください』
 案の定、無表情のままでつらっと言われてしまった。
 『まあ、そう言われるかとは思ったよ』
 私から見ても破天荒な部分が多い方だしね。
 だいたい見本にしろといわれても、ちょっと難しい。
 何よりも私とあの方では、性格から始まる条件が違いすぎる。
 唯一の共通点は胎果ぐらいなものだが、それすら数百年のギャップがあるのだから。
 『でもな。息抜きぐらいは許して欲しいんだ。蓬莱に居た頃、私は自分だけしかいない個室で生
  活していたからなあ』
 六畳一間。
 大きな机とベッドと整理ダンス。
 お気に入りだった犬のぬいぐるみ。
 定期的に磨いていた学生鞄と靴。
 髪の毛を結ぶリボンはいつでも学校指定の黒か茶を律儀に守っていた。
 狭すぎた世界。
 『人に囲まれる生活には、まだお慣れでない?』
 『だいぶ平気になったけど、ね。部下に囲まれるのは一生慣れないかも』
 朝議の最中。
 百人近くにも上る自分の部下が、ずらずらっと何段も下に座っていて。
 隣りに侍るのが、景麒と浩瀚という構図には、我に返る瞬間軽い酩酊感を伴う。
王様はよくわからないけれど、社長って属種はすごいものだったんだと、似たような立場に置かれ
てしみじみ実感している。

 『この時間なら、皆休んでいるしな。迷惑もかけないだろう』
 『見張りの者には?』
 『今度のお忍びに一緒に連れてって、一杯ご馳走するんで手を打って貰った……怒るなよ!!』
 昔ならいざ知らず、私がいわゆる武断の王だというのは世間にだいぶ広まっている。
 実は門番になってくれる兵士とは一度や二度ではなくお忍びに付き合って貰っていて、一緒に絡
んで来た輩を撃退したりもしていたので、彼らは私の腕を信頼してくれている。
 最近では『王様家業も息が詰まるやなあ』と同情的で、色々と便宜を図ってくれていたのだ。
 『……呆れているんです』
 『私が悪いんだからな!門番の人達には権力を嵩に着て無理やり言う事を利かせてるんだ!
 絶対罰なんか与えたら駄目だ』
 『貴方と言う方は本当にもう……困った方ですね』
 他の誰にもできない微苦笑。
 私の嘘を見通して尚、許してくれる慈愛に満ちた表情だ。
 『門番を咎めるつもりはありませんが。少しは控えてくださいませ』
 『……わかった。やはり今日も……駄目か』
 『そんなお顔をされてしまうと……駄目とは申し上げられません。ただし!』
 どんな付加条件がついてきても、頷くつもりでいたが。
 『私も共に連れて行ってください』
 まさか、共犯者になってくれるとは思いもよらず。
 『いいのか?』
 『私が一緒だと不満ですか』
 『いや!そうじゃなくて……大丈夫なのか。お前がそんな。えーと破天荒なことをしていいのかと、
  心配しているんだ』
 王たる私だけで出かけるのもまあ、ルール違反なのだが。
 ましてや王、麒麟に次ぐ要職にある浩瀚が率先して行くのはどうかと、思うのだが。
 『たまには主の真似をして、無茶をしてみても罰は当らないでしょう』
 と。
 ウインクをして寄越した。

  「主上!」
  「何だ!」
  耳元でびょうびょうと風が吹く。
  高度何メートルぐらいだろう。
  霧だか雲だかわからない湿った白っぽい塊が時折頬を掠めてゆく。
  王宮ですら米粒のようだ。
 「何時もこんなに、無茶をされてるんですか!」
 「無茶、か?」
 やっと手に入れた自分だけの?虞が嬉しくて、何時もより微妙に早く、高く駆けている気もするが、
概ね何時ももこんな感じだろう。
 「無茶です!高さも、早さも危険極まりない!」



 


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