「田原坂」

 

  

 

 

 

 妻を殺された仇討ちにも思えた旅が、薩軍桐野、そして大将である西郷に会うにつけ、その人柄に心酔し、薩軍とともに戦いについてゆく主人公。そこに描かれる西郷・桐野が誠に魅力的だ。傷を受け敗走し、官軍に押されて田原坂から植木へ後退する薩軍。上のカーブは植木駅近くのもの。畑や山から銃弾が多数見つかるそうで、その戦いの激しさが伺える。今では当時を想像するのも難しいくらいの穏やかな風景が広がる。

 

 

 

 

 

食料も乏しく山野を四散してゆく薩軍。西郷・桐野の死によって主人公の戦いも終わり、彼の数奇な人生は落ち着いてゆく。あまりにもリアルなので、「ひょっとしてこの主人公は実在したのではないか?」そう思ってしまうが、あとがきのなかで、実在した複数の人物エピソードを重ね合わせたものであると告白されている。

 

 

 

 

 

 

 歴史の地へ足を向けて、現地の風に吹かれてくることは、廃線跡探索にも似て、見ることのかなわなかった世界をリアルに想像することにおいて重要なことだ。想像できない部分を気が遠くなるような取材によって資料を揃え、イメージを構築してゆく池波氏の世界はやはり素晴らしい。いずれこのようなリアルな世界を私自身の手でここに形に出来れば幸せなことである。

 

 

 

 

 

 (2009年6月記)

 

 

 

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