井笠鉄道憧憬

〜愛すべき車両に会いたくて〜

 鉄道が廃止になったにも関わらず、これほど車両が残っている鉄道がほかにあるだろうか。全ての訳はこの鉄道の限りない魅力からきているからに違いないと思う。

 雑誌の写真を穴の開くほど眺めた。チョットした時のいたずらに、見ることのなかった、憧れの鉄道。それが井笠鉄道である。

 笠岡に降り立ったのは30歳も過ぎたついこの間。廃止後何十年も経つというのに、電車が笠岡に着くとなると妙にそわそわする。それはきっと街並みが、鉄道のあった頃とあまり変わりがないようだからかもしれない。駅についてびっくりした。おおよそ海とは無縁の鉄道と思っていたが、JRを挟んで駅跡の反対側は港だったからだ。潮の香りのする鉄道だったんだ。ますますこの鉄道が好きになった。その港の脇の公園にホジ7は保存されている。

浮浪者のねぐらになっているらしく、状態はかなり悪い。ナローのこの手のバスケットカーは保存が少ないだけに、解体となれば惜しい気がする。どうにかならないものだろうか。

 軌道は舗装された道路となっている。車庫のあった「くじ場」までは気楽な散策コースだ。ただし、車庫はもうない。有名なことだが、放火されて消失してしまったのである。旅先で知り合った西氏にこの車庫の写真をいただいたことがある。タイムカプセルのような火事前の風景。そして出火後の生々しい焼けただれた車両。全てが一瞬になくなってしまったわけである。今は跡地が病院に変わり、面影のかけらもない。

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