「僕が詐欺にあった理由」−その1


「あのー・・・ひょっとしてさっきのツアーオフィスで両替をしました?」 車がスタートして1時間ほど経ったときに着いた休憩所で、アジア系の女の子2人に 声をかけられた。
「はい・・・」と僕が答えていうと、女の子は「やっぱり!」とすでに泣き腫らしたような 目を両手で覆いながら叫んだ。
その10分後、僕はタイ人の運転手と拳をあげて向かい合っていた。

 よく、地球の歩き方とかを見ていると、欄外のコラムでだれそれがこういう手口で こんなふうな被害にあった、というコラムがある。 僕はそれを読むのが大好きな(おいおい)方で、よく移動中の列車とかでそれを読んでは、 普通こんな手口にひっかかるもんかなー、とかこんな手口で人をひっかけるのは許せないな、 等と頭の中で批評したり、まだ見ぬ詐欺師に憤慨したりしていた。 それだけに、つまらない手口になんか絶対引っかからない。逆に、詐欺師をぎゃふんと言わせてやろう、 というくらいの姿勢で強気に構えていた。 その自信には、過去4回の旅行において詐欺に会わなかった、詐欺師らしい人物に会っても、 確実にかわしてきたという裏付けもあったのだ。

 今回の旅では、当初タイの東北部、タイのド田舎、イサーンをずっとまわっていた。 素朴な街や人ばかりで、実に楽しく旅ができた。 その後、タイの南にある小さな島、パンガン島へ行って日がなハンモックに揺られて ぼーっとしたり、(魔法の)キノコを食べたりしたりと、ここでも気のゆるみまくった生活をしていた。 また、タイで一年の半分以上を過ごすNさんという人と友人になり、旅行の大半はこの人と一緒に行動を したのだが、その間はNさんのタイ語やタイの知識に頼りっぱなしであまり自主性というもの無しに行動していた。 そんな状況から、やっと一人で旅立つ時がきた。Nさんは日本に帰る時期が来ていて、 僕にはマレーシアで肉骨茶、通称バクテーと呼ばれる名物料理を食べるという目的を果たすべき時がきていた。

 パンガン島のチュリアストリートという通りにある店で、ペナン島までのツアーチケットを買った。 店の名前はMr.ching=ミスター・チンの店。Nさんおすすめの店はMr.kim=ミスター・キムの店。 この勘違いが後の事態へと続く第一歩だったのだろう。翌日の夜、長く行動をともにしたNさんと別れ、 ツアーの最初の乗り物に向かった。夜10時に出航して朝の5時半にタイ本土へ着くナイトボート。 同じ距離を昼間のスピードボートなら3時間で着くことを考えると、かなりの鈍行なのだろう。  ナイトボートの中には、だだっ広くて何もない船室が上下二層にあり、船室にはえんえんと布団と枕が しきつめてあった。時期が時期なのか、客が少なく、ゆったりとした状況で寝ることが可能だった。 けれど、久しぶりに一人になったせいか、話し相手がいないという状況にかえって目がさえてしまい、 今までの旅行のこと、これからの旅行のこと等を反芻したり考えを巡らせたりと、なかなか眠れないまま 船はゆっくり進んで行った。この、眠らないというのがこの後の最悪の事態に突入していく中でも最も 大きな原因になった。


その2へ続く

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