MASTERPIECES of ISLAMC ARCHITECTURE
ダマスクス(シリア)
ウマイヤのモスク
神谷武夫
ウマイヤのモスク
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ウマイヤ朝の首都、ダマスクス

 シリアの首都、ダマスクスは 3,000年以上の歴史をけみする古都で、「中東の真珠」と形容された。7世紀にアラビアで生れたイスラーム教が またたくまに中東全体を征服してしまい、661年にウマイヤ朝が成立すると、その中心に位置するこの都が その首都に定められた。カリフ・ワリード1世が8世紀初めに 市の中心部に建立した大モスクは、イスラーム世界に現存する最古のモスクで、ウマイヤ帝国をシンボライズするがゆえに「ウマイヤのモスク」と呼ばれている。

  
ウマイヤのモスクの中庭とミナレット

 私が初めてここを訪れたのは、今から 24年も前のことであるが、本格的に撮影をしに行ったのは、その6年後の 1986年である。カメラバッグと三脚をもって勇んでモスクに行くと、意外なことに撮影は禁止だと言われ、面くらってしまった。そんなはずはないと、人を介して交渉してもらったところ、私の装備からジャーナリストだと思われたことに原因があったらしい。

 このモスクはその巨大さにもかかわらず、内部は絨毯が敷きつめてあり、その壮麗な空間と列柱をながめながら ここに座り込んだり 寝そべったりしているのは まことに快適なので、昼間から市民がここでゴロゴロしている。それを写真に撮られて外国で公表されると、シリア人は怠け者だ という印象を広めてしまうことになるのを危惧しての 撮影禁止なのだという。
 こちらはジャーナリストではなく、建築の研究が目的であることを納得してもらい、やっと三脚を使って撮影することができたのだが、それほどに このモスクはヒューマンで快適な空間を、建築的雄大さと共存させた、世界でも稀有なモニュメントのひとつなのである。

  
白大理石で作られた豪華なミンバルと、中央ドーム天井


聖ヨハネ聖堂から ウマイヤのモスクへ

 このモスクの建築には また入り組んだプロセスがあって、それを知ると ここの訪問はいっそう興味深くなる。 もともとここには ビザンチン帝国の大聖堂、「洗礼者ヨハネ聖堂」が建っていた。ヨハネとは キリストに洗礼をほどこした預言者で、サロメの物語によれば、ヘロデ王に首をはねられたという。
 その首を聖遺物として クリプト(地下祭室)に祀ったのがその聖ヨハネ聖堂なのだが、ウマイヤ朝のカリフ・ワリードは これを取り壊させ、その敷地に大モスクを建てさせた。しかしそれを担当した建築家たちは ヨハネ聖堂を破壊したのではなく、注意深く解体し、その柱とアーチの列(すなわちアーケード)を 新しいモスクに転用したのであるらしい。


聖ヨハネ聖堂から ウマイヤのモスクへの転換、平面図
( アンリ ・スチールラン 『イスラムの建築文化』 1987 より )

 ヨハネ聖堂は 大規模な五廊式のプランをしていたので、四列の大アーケードを備え、敷地の中央に東向きに建てられていた。しかしモスクというのは メッカの方向に向けて建てられるので、ダマスクスからは南向きとなる。そこで敷地の南側の塀に寄せて大礼拝室を作り、そこにこの4列のアーケードを再利用したのである。その配置はドーム屋根のある中央部から 東に二列、西に二列というものだったので、礼拝室全体は極端に幅が広く、奥行きの浅いもとのなり、これ以後のモスクの規範となった。

 それらの柱自体は ヨハネ聖堂よりもさらに古く、かつてこの敷地に建っていた 古代ローマ時代のゼウス神殿の列柱が 転用されたものだという。長さが 6メートルもあるみごとな大円柱の上に 高くアーチが架けられ、さらにその上に 小アーチの列が載せられた。この大アーケードが並ぶ空間は 実に壮大であるが、それにもかかわらず、礼拝にきた信者を圧迫するどころか、快適な居心地よさをもたらしてくれる、不思議な大モスクなのである。


モザイク壁画で飾られた礼拝室中央部のファサード


ガラス・モザイクによる壁画

 イスラーム以前のダマスクスは、ビザンチン帝国の都として、ガラス・モザイクをはじめとするビザンチン美術を 大いに発展させていた。その伝統を受け継いで、このモスクも ほとんどの部分がモザイクで装飾されていた。中庭に面する 礼拝室中央部の壁面モザイクは、緑したたる庭園や離宮、『コーラン』に説かれる 来世の楽園の姿を描いている。しかし偶像崇拝を忌避する教えのゆえに、そこには まったく人や動物の姿が見えない。あたかも、楽園は敬虔な信者が来るのを待っている、とでもいうように。

( 2004年 3月 "EURASIA NEWS" より )



シリアの建築の歴史的一覧については、
「世界建築ギャラリー」の中の「シリアの建築」のページを参照。


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